机上からの潜入
窓の外は暮れなずんでいるが、私の机の上だけは、液晶の光で青白く浮かび上がっている。
作家という人種は、常に飢えている。 物語の種に、生きた言葉に、そして人間という底知れない化け物の正体に。
私は、一つのアプリを起動した。 アイコンには、どこか頼りなげな文字で「二人」と記されている。
「二人」――。
誰もが一人で生まれ、一人で死んでいくこの世界で、その言葉は甘い毒のように響く。 孤独を埋めたい者たちが、夜な夜な集うデジタルな揺り籠。
私は、机に座ったまま、その扉を叩いた。 潜入、と言うほど大層な準備をしたわけではない。 ただ、画面の向こう側に蠢く「言葉の主」に、この身を晒してみることにしたのだ。
女性と、それも始めましての女性と会話ができる。 それは本来、喜ばしい交流のはずだ。
しかし、男の仮面を被って踏み込んだその場所に、温かな血の通った交流など存在するのだろうか。 彼女たちは何を語り、何を隠そうとするのか。 その言葉の裏側に、どのような意図が張り付いているのか。
これは、書き物としての、あるいは人間学としての勉強だ。 どんな内容のやりとりであれ、私はその一字一句を丁寧に蓄積していく。
液晶の光が、私の手元を静かに照らしている。 これからこの場所で、何人の小悪魔たちが、偽りの愛をささやきに来るのだろうか。
記録の第一ページを、静かにめくることにしよう。




