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願いは叶う  作者: 怠慢
3/12

噛む

指定された住所は、

駅から少し離れた古い集合住宅だった。

外壁はくすみ、

昼間でも建物全体が陰って見える。

私は一度だけ立ち止まり、

息を吐いた。

階段を上る音が、

やけに響く。

三階の部屋。

インターホンを押すと、

すぐに鍵の開く音がした。

扉の向こうにいたのは、

電話の声と同じ女性だった。

年齢は、私より少し上だろうか。

服装は整っているのに、

視線だけが落ち着かない。

顔色は青白く、

明らかに疲れていた。

「どうぞ……」

部屋に入った瞬間、

気配が増した。

「お邪魔します」

口に出して、

自分を落ち着かせる。

生活感はある。

それなのに、

どこか借り物みたいな部屋だった。

「お茶で、いいですか?」

不意に話しかけられ、

私は一瞬、反応が遅れた。

「ええ……すみましぇん……」

噛んだ…盛大に。

キッチンへ向かう女性の肩が、

わずかに震えた。

テーブルにお茶が置かれ、

女性は私の正面に座る。

「……あの辺にいると、落ち着かなくて」

指さされた先は、寝室だった。

私は、「少し見ますね」とだけ言って

一人で奥へ向かった。

足を踏み入れた瞬間——いた。

男、薄汚れた顔で

ニヤニヤと私を見ている。

反射的に、私は一歩、引いた。

次の瞬間、そこには何もなかった。

床に、ネックレスが落ちている。

そのすぐそばに、うっすらとした染み。

影か、汚れか。見ようとすれば

どちらにも見えた。

私は、それ以上近づかず、

静かに部屋を出た。

テーブルに戻り、女性の顔を見る。

「少し、お話を聞かせてもらえますか」

彼女は一瞬、言葉に詰まり

それから、ゆっくり頷いた。

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