溺愛されても困ります(後編)
@dekikoma_ofc の2次創作になってます。最初の設定で作成したので、物語や登場人物の設定などは違います。ご了承ください。
第六章:選ばれるのは、わたしの意思
社交会の会場は、アリシエル本邸の大広間。
水晶のシャンデリアが眩しく、貴族や企業関係者が集うその場所は、まるで“舞台”。
ロイは、入り口に立っていた。
白いドレス。高すぎるヒール。口元には、セシル仕込みの微笑みを貼りつけて。
(……大丈夫、大丈夫。ゲームの最終ステージだと思えばいける)
けれど、その手はほんの少し震えていた。
「……ロイ」
兄・ルークの声が、後ろからかけられる。
彼は今日も完璧なスーツ姿で、妹のティナを連れてきていないのが不思議だった。
「身なり、立ち振舞いは合格だね。……でも、今日は何か違う」
「……なにが?」
「目の色が。まるで、誰かのために戦おうとしてるみたいだ」
「──そうだよ。私、自分で“選ぶ”って決めたから」
ルークの顔に、微かに影が落ちた。
「……ツキハが来たら、どうする?」
「笑うよ。全力で」
「なら、もし来なかったら?」
ロイは少しだけ黙って、それでも──笑った。
「……それでも、私は、もう誰にも閉じ込められないよ」
ルークは何も言わず、その場を去った。
** *
一方、会場の控えの間。
クラウスはグラスを片手に、入り口を見張っていた。
(……現れるか、ツキハくん)
彼の視線は、誰より鋭く、けれど誰よりも祈るようでもあった。このままロイお嬢様が泣くようなことがあれば──
「……その時は、ただでは済ません」
そんなときだった。
「クラウス執事長、“招待状のある方”です」
黒服に連れられて扉の奥に、ひとりの少年の影が現れた。
黒のスーツに、やや緊張した面持ち。けれどその瞳は、
まっすぐにロイお嬢様がいる方向だけを向いていた。
「……来たか」
クラウスの口元に、僅かな安堵が浮かぶ。
(あの表情──やはり、“彼もロイお嬢様のために戦っている”)
** *
「ロイっ!」
その声に、ロイは振り返った。
──ツキハが、いた。
会場の誰よりも大人びて、かっこ良く、照明より、眩しく見えた。
「……来てくれたんだ」
「当たり前だろ。約束したからな。“堂々と迎えに行く”って」
ロイは震えた手を、そっと伸ばす。
「ねぇ…私の隣に立って……導いてくれる?」
ツキハは微笑んで、その手を取った。
「むしろ、引っ張ってくれよ。“俺のお嬢様”」
その言葉に、ロイは思わず笑って──
「やだっ、調子乗ってる!」
** *
遠くからその様子を見つめるルーク。
(……ロイ笑っている。俺の知らない顔で。
……そんなの、認められるわけが──)
「──ルーク様、お怒りのところ申し訳ありませんが。
彼を止めたいなら、まず“貴方様のほうがふさわしい”と証明していただく必要があります」
背後に現れたセシルの言葉に、ルークは目を細めた。
** *
その夜、社交会の空気は静かに、しかし大きく動き出す。
“令嬢”と“普通の少年”。
“過保護な兄”と“変わらない執事”。
そして、“笑う鬼”は、今日も微笑んでいる──
第七章:その手を取るのは、誰か
──どうして、こんなにも目が離せないのだろう。
社交会の空気のなか、微笑むロイの姿はひどく遠くに感じた。
(……あんな顔、知らない)
誰よりも傍にいたはずなのに。
彼女の笑い声も、口癖も、みんなに隠してる好きなマカロンの味まで知っているはずなのに──
“ロイが誰かに手を差し出し、そして応える”姿を、ルークは初めて見た。
「……ありえない。こんなことあってはならない。」
思わず口をついて出たその声には、怒りとも、寂しさともつかない色が混じっていた。
「ルーク様」
背後から、クラウスが静かに声をかける。
変わらず冷静な表情。だがその瞳には、ルークと似た憂いがあった。
「ロイお嬢様は、変わろうとしているのです」
「……変わる必要なんて、ない」
「貴方様にとっては…、でしょうね」
「──ロイは、俺の全てだ。俺が守っていく。これからもずっと…それだけで、よかったはず…だろ」
「守るとは、“囲うこと”ではありません。……そろそろ、ルーク様もお気づきのはずです」
2人に一瞬の沈黙が訪れた。
ルークはゆっくりと、視線を会場の中央へ向ける。
──ツキハが、ロイに何かを耳打ちし、それを聞いたロイがぱっと笑う。
(……ああ、気づいてる。ずっと、気づかないふりをしてただけだ)
「……あんなやつに、ロイの何がわかる」
「ならば、確かめに行きますか?」
クラウスの促す声に、ルークは一歩、足を踏み出す。
「“隣に立つ者”が誰がふさわしいか──この目で、見極めてやる」
** *
「ねえ、ツキハくん。さっき耳元で何言ったの?」
「ん?」
「“そのドレス、キレイだけど、君の方がキレイだよ”って言ったんだよ」
「やっ……! もう! そういうこと言わないでってば!」
赤くなっているロイの横に、突然影が差した。
「──ロイ」
その声に、ロイがはっと振り返る。
そこにいたのは、ルークお兄様。
完璧な笑みを貼りつけながら、どこか張りつめた空気をまとって。
「……少し、いいかな」
「兄さま……?」
「君も、一緒に来てくれるかい? “ロイにふさわしい男”として、ツキハくん──だったね」
ツキハは一瞬だけ眉をひそめたが、堂々と頷いた。
「……いいですよ。逃げるつもりはないんで」
ロイはふたりの間に立ちすくむ。
(なにこれ……どうしよう、これから何が起きるの……!)
社交会のざわめきの中で──
“兄と彼”の静かな火花が、はじける音を誰もが感じていた。
第八章:僕が“選ばれる”ために
──どんな場所より、緊張していた。
向かう途中の廊下は豪華すぎるシャンデリア、高級な絨毯を次期当主、アリシエルの令嬢と歩く青年、不思議な光景に気がついた関係者は注目するしかない。会場のカトラリーの音が空虚に響く。
ツキハは、他の人に気づかれないように胸の鼓動を押さえた。
(こんなの、ゲームだったら速攻逃げてる……)
けど、逃げなかった。
ロイが俺を信じて待っていてくれたから。
こんな自分を“好き”でいてくれるって信じてくれたから。
「“令嬢の隣”って、こんな重いんだな」
ぽつりと漏らすと、背後から声がした。
「けれど、あなたは逃げなかった。それだけで、十分です」
振り向けば、セシル。あいかわらず読めない笑みで自分に話しかけるがロイを見ている。
「“あの方”と対等でいるには、覚悟が必要です。……準備は、できましたか?」
「できてるよ。──逃げないって、決めたから」
** *
会場の別室。
限られた来賓しか入れない、円卓の控え室。
ロイ、ツキハ、そしてルーク、入り口にはクラウスとセシルが立っている
三人の間には、食事も会話も存在しない。張り詰めた空気だけがテーブルの上に並べられている。
「……改めて、話をさせてくれ」
沈黙を破るようにルークが口を開いた。冷静だが、熱が滲んでいた。
「俺は、ロイを愛してる。たとえ異常だと思われても、関係ない。ロイを“守る”のが、俺の存在理由で全てだ」
ルークの気迫に負けそうになるが、ツキハも負けてられない
「……俺は、ロイを“自由にする”ために隣にいたい。そして、一緒に笑っていける未来を作っていきたい。守るだけじゃ、だめなんだ」
「違う。自由は危うい。ロイは純粋すぎて、騙されやすいんだ。もう二度と“あんなこと”には巻き込みたくない」
「それでも──不安しかない未来を…こんな俺をロイは信じてくれている。」
ツキハの目が、ロイを一瞬だけ見た。
その目は、迷いがなくてまっすぐだった。
「……だから、俺も信じる。ロイが俺を選んでくれている以上、俺は何があってもそばにいる。俺がロイを守る。」
「……だったら証明してもらおうか。“隣にふさわしい男”としての力を」
ルークは立ち上がり、暖炉の上に装飾として飾られていた物を手に取る。
その手には、銀のサーベル──儀礼用の、貴族流の“試合”の印。それをツキハの前に放り投げる。
「冗談だろ……?」
「貴族としての正当な“対話”手段だ。“決闘”ではない。礼儀の範囲だよ」
セシルがにこやかに口を挟む。
「お嬢様の心をかけた“形式美”ですね。いい趣味とは言えませんが、貴族は見せたがるものですから」
「……やるしか、ないってことだよな」
ツキハは一歩前に出て、床に落ちている剣を受け取る。
冷たい、重い。けど──不思議と、その冷たさが自分の熱を冷まし、冷静さを。重さは自分の決意が揺らがないように押さえる。
「ロイが見てる。だから、負けない」
「言ってくれるね。──なら見せてくれよ、
“身分も力もない君”が、ロイを幸せにできる証を」
──交差する視線。
静かな空間に、銀の刃がきらりと光る。
「始め──!」
セシルが、二人の間を分かつように手を振り下ろす。その刹那、ツキハとルークの、静かで鋭い“言葉を超えた一騎打ち”が、始まった。
最終章:溺愛されても、選んだのは
──銀の剣がぶつかる音が、空気を裂いた。
「っ……!」
ルークの激しい斬撃にツキハは足元を崩しながらも、必死に踏みとどまる。技術も経験も、全てルークの方が上だった。
けれど──ルークの刃には、“躊躇”があった。それを感じたツキハは聞く
「……なんで、手加減するんだよ」
「手加減なんてしていない。お前がロイを泣かせる未来を、想像してしまっただけだ」
ルークの目は、静かに揺れていた。
「あれから、守ってきた。ずっとロイを。泣かないように、傷つかないように。たとえ、その溺愛が異常でそれを皆に言われようが、守るために閉じ込めてでも──」
「でも、ロイが笑ってなかった」
それを吐露するルークの声は少し震えていたが、ツキハの声は震えていなかった。
「いつもロイが俺のために笑ってくれる。こんな庶民の俺で、なんのチカラもない。奪われ、失い続けた今までだけど。そんな俺を、それでもロイは“好きだよ”って言ってくれた」
「っ……!」
「だから俺はもう、手を離さない。絶対に!あいつをひとりにしない。──どんな酷い世界だって、報われない御伽話だったとしても、俺が隣にいる。決して泣かせたりしない!俺がロイを幸せにする!」
その思いの一撃は、重く真っ直ぐだった。
──カンッ!
ルークのサーベルが、床に落ちた。
静寂が、満ちる。
「……参ったよ。認めたくないのに、見せられてしまった。君の思いと覚悟を」
ルークは目を伏せ、ロイの方を見て苦く笑った。
「ロイ、お前はもう“俺の知ってるロイ”じゃないんだな」
「……うん。ごめんね、兄さま」
「謝るなよ。寂しくなるだろ」
そう言って立ち上がって。ロイの方に向かい、ロイの頭に手を乗せた。その手は、少しだけ震えていた。
「……ツキハくん。頼んだぞ。けど泣かせたら、次は“遊び”じゃ済まさない」
「わかってます」
** *
社交会の終盤、二人はホールのバルコニーで夜空を見ていた。
ロイは、ツキハの隣で静かに息を吐いた。
「……ほんとに勝つとは思ってなかったよ」
「ひどっ。信じてたって言ってよ」
「でもね……信じてた。私全部、信じてた」
「うん、その顔が見たかった」
ロイはくすっと笑って、ツキハの袖をつかむ。
「ねえ、聞いていい?」
「なに?」
「……私、まだ“完璧なお嬢様”じゃないけど。それでも、隣にいてくれる?」
ツキハは、すぐに即答した。
「俺は、“お嬢様”じゃなくて“ロイ”だったから、俺は君を好きになったんだよ」
一瞬、ロイの目が潤む。
嬉しい気持ちが自分の心を満たしていく
今度こそ自分の意思で、気持ちを伝えよう。笑顔で。
「ありがとう。……これからも、一緒にいてね」
「うん。もちろん。僕が君を守るから、これからも一緒にいよう。大好きだよロイ。」
「うんっ。私も大好き。」
──二人の影が、並んでホールを出ていく。
それをセシルは遠くから見送る。
「ふふ、ようやく“恋愛ゲーム”がエンディングを迎えましたね」
「……なにがゲームだ、悪趣味な」
そう呟いたのは、クラウス。
でもその顔には、わずかな安堵と、寂しげな微笑みが浮かんでいた。
「ロイお嬢様……大人になられましたね」
──お嬢様と、普通の男の子。
住む世界が違っても、2人の想いが交われば未来が変化し続ける。それは、かつて“溺愛されても困ります”と笑った彼女が、自分で選んだ幸せのカタチ。
特別章:『今日のロイもかわいい(大惨事)』
― 愛と嫉妬と錯乱の昼下がり ―
その日、ロイは珍しく「屋敷の図書室」でのんびりと本を読んでいた。優雅なティータイム。窓から差し込む午後の日差し。
お菓子。紅茶。そして――平穏。
「……あー、やっと落ち着いた……」
社交会やルークお兄様とツキハくんとの決闘などで、心身ともに疲れていたロイにとって、この日常の一時は「平和」の象徴そのものだった。
しかし、その扉は、唐突に破られる。(二重の意味で)
\バァァン!!!/
「ローーーーーイちゃああああん!!!今日もかわいいっ!!」
「ちょ、またドア壊して入ってきたの!?アンリっ!!」
少女・アンリが、勢いよくロイに飛びつく。
当然ながら、ロイは本ごと倒れる。
ロイの学友・アンリ。大手お菓子メーカーの令嬢
彼女は“同性だから許される”という立場を最大限に悪用し、日常的にロイに変態スキンシップを仕掛けている。
「ふにゃっ!?アンリ、くっつきすぎっ……近い、近いからっ!」
「ふふふ、今日の太ももも最高の柔らかさ……これはご褒美……ロイちゃんの体温、人類の遺産……!」
「変態発言やめてぇ!?誰かぁぁぁぁ!!この人とめてぇぇ!!」
「おいおい、マジかよ⋯もう少し時間と場所考えろよ⋯」
ため息つきながら入ってくる、ティナ。腕組みして不機嫌そうに睨んでいる。
妹・ティナは、家族のなかで唯一まともな思考を持つ人物だった。少年のような容姿に、キレ味鋭いツッコミ力。
兄の狂気を知り、アンリの暴走を見て、ロイの鈍感っぷりにため息しか出ない。
「⋯お兄様の次は女の子かよ。誰でもいいのか、オネエサマ。」
「違うよティナ!これはっ、アンリが勝手に……」
「違うのティナちゃん!ロイちゃんは無自覚な色香で罪を撒き散らしてるだけで、なにも悪くないの!全部私の本能が悪いの!!」
「えっちょっと待って、どういう理屈それ!?」
ティナがアンリの後ろ襟を掴んでぐいっと引き剥がす。
「うるせぇ変態、ロイねぇさまから離れろって言ってんだよ」
「わー!また引き離されたぁ!暴力反対ぃぃ!!」
その時。
「おや、盛り上がっているようですね。ロイ、新しいお茶を手に入れ――」
タイミング最悪で現れる、ヴィクター。
完全にカオス確定で嫌な予感しかしない。
彼の名は――ヴィクター・グランフォード。
グランフォード財閥の令息でロイの親が正式に取り決めた“婚約者”である。
どこまでも冷静に振る舞いながらも、誰より深く、誰より静かに、彼はロイを想っている。ただ自信家すぎて、空回りも…
だが、ロイはその気持ちを1ミリも理解できていなかった。
「――あ。婚約者さん。今日はおとなしくしてます?」
ティナが皮肉気味に言う。
ロイは気まずそうにそっと横を向いてボソボソ話し出す
「……ヴィクターはあくまで、婚約者“予定”です…。正式にはまだ……ですけど」
「ふーん」
ティナが興味ないように頷き、ヴィクターは気合いを入れる。
「そうだとしても……私は婚約者だ!ロイの顔色が優れないのは放置できぬ。元凶を排除しなくては!」
来たよ、相変わらず意味のわからない自信。ティナは頭を抱えながら
「そりゃ変態に抱きつかれたり、兄に言い寄られたり、いろいろされてるからだよ!!あんたまで加勢したらややこしんだよー!」
\\\ぎゃあぎゃあ!わーわー!ひゃー!?///
――10分後。
図書室は、完全に戦場だった。
転がるティーカップ。破られたページ。クッションが武器として宙を舞い、すでにアンリは机の下で拘束。
ヴィクターはティナと睨み合い中。
ロイはというと、呆然と本を持ったまま、ちょこんと壁際で正座していた。
「……なんでこうなるの……」
拘束され机の下で丸まっているアンリが
「ロイちゃん、やっぱり今日も可愛い。ティナもああ言ってるけど“きゃー♡姉様かわいい”って思ってるよ?」
「……は!?思ってねーし!?そんなこと言いふらすなら存在を消す!」
パンパン
「はいはい。では本日の“ロイ様かわいい大乱闘”はこれにて終了といたします!」
そこに現れたクラウスが、慣れた手つきでみんなを止めに入る
掃除班と警備員がすでに控えているのは、いつものことだった。ヴィクターと拘束されているアンリは連れ出され、ティナ羽交い締めされてる
「……ロイ様、お疲れでしょう。お部屋に行きましょう」
「……うん、帰りたい……」
「それでは本日はこれにて“閉廷”といたしましょう。なお、今夜の報告書のタイトルは――」
「《本日の破壊:食器4、机1、本多数。理性ゼロ》ですね。ですのでロイお嬢様、今日中に反省文50ページです」
「やめてええええええ!!」
こうして、ロイの平和(?)な一日は終了した。
Fin.
この物語はこれにておしまいです。
お読みいただき、ありがとうございました。




