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異端者の僕が異端狩りする側になった件(1)

夜が明けた。

あの後、彼女はラナと名乗っていた。もちろん別々の部屋である。ゆったりとしたベッドで寝たのは久々だったが、玄関からは奥まった場所でも廊下から目の届く位置にあった。

昨夜は金貨の副作用が再び起きたおかげですぐに瞼は重たくなり、目が覚めた頃には悪寒も収まっていた――その視線を除いて。


カーテンから光が差し込む中、植木鉢のある窓際で水やりをしている彼女。


「あら、もう日が昇りきってるわよ」

「えっと……おはようございます」

「本は勝手に覗いていないでしょうね」

「……見ていません」


本当は少し心当たりがあったが、見ていないことにしておこう。


「それにしても見られないファッションよね。どこの国で流行ってるの?」

「はい……?」

「最初の任務と言いたいところだけど、まずは身だしなみを整えてからね。着替えならこちらで用意してあるわ」


ラナは立ち去る間際に顔をしかめ、もう一度その服装をまじまじと見つめた。なんせ今の僕は映画に出てくる囚人そのもの。警告色に近い橙にしろ、黒と白の交互にせよ、ひときわ目立ってしまうのだ。収容されていたときですら私服だったのに、この格好では「捕まえてください」と言ってるのも同然である。

予定では空き家に住み込み、ちょうどルクスが少し貯まってきたから服も購入するつもりだったのだが、あと一歩のところで計画が崩れてしまった。僕としては失態だ。


「じゃあ、これを着なさい」


そう言って渡されたのは、綺麗に折りたたまれた白と黒の生地の服だ。なんでまた同じ色の組み合わせなんだ。しかし手の感触だけでもわかる。これはかなり上質な類いだろうと。


「広げてもいいですか?」

「もちろんよ」


パッと下ろしてみた感じ、上下の一部が繋がっていてローブに似ている。神官が着るような服といったところかな。


「それで今日は地下水路へ向かうの」

「随分と高級そうな生地ですね」

「他に男性用の服がなかったの。修道服を着られるのは男性だけだもの」


神官は男性のみとか、そんなところは妙に中世的でリアルだと思いつつ、彼女の目が届かないところで着替えることにした。


「ふふっ、思ったより様になっているようね」

「囚人に対する皮肉かな」


ラナは黒の普段着らしきものを身に纏っていた。またもや僕だけが目立つ色だ。勝手に逃走した際の目印にするつもりだとしても、汚れるだろうし、せっかくの生地がもったいないな。


「報酬は1日で1万ルクス」

「クライアントは? あなたの権限だけでできるとは思えませんが」

「くらいあんと……? 聞いたことのない言葉ね。とにかくこの件は教会側でも内密にされているの。だから依頼主の詳細は話せない」

「ふーん」

「途中で逃げ出さない限り、報酬は約束するわ」





倉庫は空き家の茂みからすぐ近くにある。

僕が呼ばれたのは、その盗賊っぽい男たちとどこで接触したのか具体的な位置を教えてほしかったかららしい。

隠し通路の入り口は人が通れるギリギリの広さで、長方形にまっすぐ掘られていた。だから金貨が入った袋をそのまま担いできたのか。


すなわちクリソスというのが金貨のことで、僕はその金貨を腕輪の中に閉じ込めたのである。しかも魔力……の技まで派手にやっちゃったし、この世界ではもうガチの異端なのかもしれない。だが金貨が異端認定だなんてやっぱり狂ってる。デジタルマネーがいくら普及しようと、金銀は古来から人々を魅了する、万国共通、誰もが認める不朽の価値、まさしくロマンそのもの!!

絶対に、「絶対的な権力の象徴」が認められる世界にせねば!!!


「足がガタガタふらついてるわよ、降りる際は気をつけなさい」

「あ、はい……」


でも最後に盗賊を目撃した場所を教えてほしいとか、そんなこじつけで僕を地下まで同行させるのはなんか解せない。


地下10mくらいの深さまではしごで降りると、ひんやりとした風が背中をなでる。

下水と言えばリン鉱石などの採掘ポイントだ。ただ、元の世界でもスラッジを集めるのは難しいから断念したけど。多分ファンタジー世界ならではの鉱石とかありそうだけど、今は暗くてどうなっているのかさっぱり。


「ずいぶんと深いですね」

「油断は禁物よ」


ラナははしごの途中から地面まで飛び降り、見えないほどの速さで右側の小さな穴に姿を消した。

徐々に縮まっていた入り口の光はいつの間にか、夜空に輝く北極星のようにポツンとしている。


「真っ暗」


突然地面が揺れ出し、バランスが崩れる。

ヒヤッと水の感触がすると気づいた頃には、足が宙に浮いていた。


壁が90度傾いたかと勘違いしたけど、おそらく違う。

背後からゴボゴボと音がする。振り向いてもよく見えないが、多分そこが堰を切ったのだ。

水の流れに逆らって無理矢理泳いでいくと、突き当たりの壁と鉄の取っ手にぶつかった。手探りしながら、はしごと同じ形だと気づく。


視界がわずかに明るくなってくる。水面の動きが見えるし、目が慣れてきたんだと思う。

少し深い、右側の壁に、つややかに光る軌跡があった。


水は入り口付近まで高くなれば、顔が水面まで溺れ死ぬ。そうでなくても酸素濃度が減って窒息死だろう。

特に異臭はしない。汚染された水じゃないと信じて、息を止めて潜り込む。


思いのほか目は痛くならなかった。ただの真水なのかな。にしても、気のせいじゃなければ水がだんだん冷えてきてるような。うぅ、寒っ。


(なんだこれ、パズルの類いかな)


声にならない声で低く呟く。透明なケースの中には認証パネルの装置が。

困ったなぁ、融解メルトは金属に対してしか使えないし。と思ったらネジで簡単に開いた。

四隅を取り外した後は作業タイムっと。


仮に地下水路も教会の管轄だとしたら、例えば教会の紋章あたりが候補かな。服には付いて無かった気がするから、うろ覚えで描くしかないか。

……やっぱ反応しない。


これ以上はもう息を止めるのも限界だ。いったん上まで引き返そう。

全身が鳥肌立っているのはわかっていた。水の冷え具合からしてもできるのはあと1回だけ。


装置を漂う渦のような光が、中の文字を照らしている。ローマ字みたいに読んでいけばいいんだから、フレーズ……唱えろ……? もしかして合い言葉かな。

いきなり詰んだわ。


なるほど、元々この二層構造の中に閉じ込めるつもりだったのか。さすがはセキュリティ厨、わざわざ任務に連れて行くのも怪しいと思ってた。

しかし僕も負けていられない。ここはどうにかアドリブで脱出しないと。


ここでまんまとトラップにはまって突破できないようであれば、ホワイトハッカーとしてのプライドにも傷が付く。

耳が凍ってくる中、時間がない場合の対処法を思いついた。


盗取スキミング


またもや金色のエフェクトが光り出す。イカサマだけど通じちゃったみたい。

さてと合い言葉の入力も完了した。


重力が急に下へ引っ張られ、絹地の中まで浸みていた水が、瞬時に消えた。

弾力あるスライムの上を段ごとに滑り落ちると、錬は急いで右側にある扉へ向かう。もう限界まで冷え切ってたからだ。

真鍮製の鍵穴だった。普通にピッキングすると5分くらいかかるから、針金に念力を込めていつものアレを行う。

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