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始まりは彼方②

第3章

49話






あれからまた更に1ヶ月過ぎた。記憶の無い俺の面倒を芦毛もなく見てくれる人達には凄く感謝しているが何故か此処が自分の居場所じゃない気がして、言い表せない気持ち悪さが日々募る日常を過ごしていた。


働く内に自分の体力の無さを痛感し最近は寝る時間が増えた気がする。ただこの街では普通に子供でも働けるのであまり不思議に思っていなかったが俺は見た目より年齢は低いのかもしれない。


「最近、頭痛が凄いな....」


頭を抑えながら体を起こす。ベッドの上から動く事が出来ず立ち上がる気力さえ起こらない。


「ん...っっっっ!!!」


初めて城塞都市の外で目を覚ました時の事を思い出す。あの時も頭が割れるくらいの頭痛が襲ってきたが今回はそれより遥かに酷く痛みのあまり気を失ってしまった。



暗い暗い闇の中で声が聞こえた気がした。何故か聞き慣れた声で、聞き慣れた口調で何かを言っている。いや、誰かの名前を叫んでいるそんな気がした。


叫びはいつしかハッキリと名前が聞こえる程になり幾つもの声が重なるようにして脳内へと語りかけられる。


「....スター」


「....スター」


「マスター!!!」



「!!!!!!」


目が覚めると同時に飛び上がる様に身体を起こす。この2ヶ月が長い夢の中に居たように朧気でハッキリとしない意識だった様に感じる。そう思う程に今、意識が確実に覚醒し夢から醒めた様に気持ちが良い。


自分の手を閉じたり開いたりしてみる。この2ヶ月以前の記憶を辿るようにゆっくりと思い出していく。


「俺はアレイスター・マグナ...。そうだ、ユリオンとラシュリーと旅をして...それで確か喰らう者(くいばみ)を見てそこから....」


あの日の事を思い出す。


「!!!!!っっだい!!、あた、頭いってぇ!!」


恐らく喰らう者(くいばみ)の事を思い出したり考えたりするとこの頭痛は激しくなるようだ。ハッキリとした姿形をみた気がするがモヤがかかって全く思い出せない。


そうこうしているうちに朝食の時間になっている事に気付き取り敢えず支度を済ませる。


「おーい!ナナシー!起きてるかー」


ガチャ


「あ、エールさん。おはようございます!」


今日はエールが起こしに来た。扉をノックもせず入っていくその光景は傍から見れば幼馴染や恋人を起こしに行く様だ。若しくは家族。


「な、なんだ。今日は起きてるじゃんか珍し」


「今日はたまたま目が覚めたんですよ〜」


「ナナシ、何か雰囲気変わったか?もしかして、、」


何処を疑問に思ったのかエールは少し不安そうな顔で俺の顔色を伺いながら尋ねてくる。


「よく、分かりましね...。実は今さっき記憶が戻ったんです。目が覚めるのと同時に」


俺は説明できる範囲でエールに夢の中で見た話と思い出した事について話した。


「そうか...。ホントの名前はアレイスターっていうのか。中々いい名前だな!!それに、年下だとは思ってたけどまだ全然子供じゃん!」


「年齢以上に身体が成長してるみたいで、、俺も思い出すまでずっと疑問に思ってたんですよね。肉体以上に疲労が凄いから」


2人で話していると来るのが遅かったみたいでアールも様子を見に来た。


「エール?ナナシ君は起きた?って何だ起きてるじゃない〜2人ともはやく〜朝ごはんだよ〜」


「あ、アールさんおはようございます!」


「アール!ナナシっじゃなかった、アレイスター記憶戻ったんだって!」


「え?ナナシ君記憶戻ったの!それは良かったじゃない!えぇー!それなら今日はお祝いね!」


「はい!お陰様で記憶が戻りました。ありがとうございます!改めてアレイスター・マグナです。よろしくお願いします!」


「アレイスター君ね!いい名前じゃない!ちょっとママ〜!ママ〜!!」


「ほんとにアールは...。朝から騒がしいぜほんと」


「ハハハッ!ホントにお2人にはお世話になりました!オカミさんもそうですけど記憶の失くした俺の事ずっと気にかけてくれてたし、それに...」


「や、やめろよ!!なんか、なんか、もうお別れみたいじゃねぇーか!」


俺の話を遮り少し声を荒らげるエール。その目元には少しだけ涙が浮かんでいるように見えた。


「エールさん....」


「ま、まぁ、!取り敢えず飯にしようぜ!ほら行こ行こ!」


手を引っ張られアレイスターは食卓につくのだった。



「ふぅ〜〜〜!!」


朝食を食べ終わると俺は仕事には行かず部屋で大きく寝転がるのだった。


「こっからどうすっかな〜。この城塞都市が何処に有るかも分からないし今頃ユリオン達が無事かも分からないまま...でも、どのみち帰らなきゃ...」


あの後オカミさんに記憶が戻った事を伝え改めて自己紹介と感謝の気持ちを伝えた。アールさんやエールさんよりオカミさんの方が喜んでもくれたし残念がってもいた。息子が出来た様な気分だったみたいで普通に泣かれた。


「まだ、出て行くって決めた訳じゃ無いけどやっぱり、分かるもんなのかな...」


記憶が戻った事で自分の居場所を思い出した。それはここに居る理由が無くなったことに他ならない。それに、俺はユリオンの捜索とラシュリーの封印解除をした後に魔特待首席としてワルキュリアに戻らな行ければならない筈だ。

(ユリオンに連れられて以降どうなっているかは分からな

い。)


「先ずは、ユリオンの捜索だな。いや、先ず此処が何処なのか確かめるとこからだな。」


俺は忘れていた筈のその名前を声に出す。


「開け!召喚門!!!」


眩い光と共に開かれた扉は静かにゆっくりとアレイスターを誘うのであった。


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