ニューメル大陸④
第2章
46話
あれから10日は過ぎただろうか。また、何気ない平和が戻り寝ては起きご飯を食べてはアヴァロニアで修行する日々が続いた。そして現在、ドラニアに教えて貰った場所の近くまでとうとう来たのだ。
「何か、地上を見るのも久しぶりな気がするな!もう、ずっと空の上だし」
『あぁ!もう少ししたら降りるからな!我も故郷は久し振りで気分が高鳴るぞ!』
アレイスターとユリオンはネデ・フォネラージの端の先端に居た。そこからは周りの景色だけでなく下の様子まで窺える。段々と近付いてきたことを勘づいたユリオンは準備をするよう促してくる。
因みにラシュリーは部屋で休憩している。ここはラシュリーやユリオンに何かが起きた場所、喰らう者によって食われた世界の断片・跡地である。ユリオンはテンションが上がっているがラシュリーの方は今朝から元気が無く、どことなく体も透けて見えた気がする。
『よし、行くぞアレイスター。我が故郷へ』
「あぁ!準備万端!!」
バッ!!!!
2人は飛び降りた。アレイスターは自由落下で重力を身体に感じながら風で体は開き大の字型に手足を伸ばした。一方のユリオンは直立不動のまま手を組み落下している。と、思えば色々なポーズを試し空中で体を自由自在に動かしてみせた。
「すげー!ユリオン!」
風が強く終えは遮られた。が、しかし
『我は重力も扱う事ができる!これくらいは朝飯前だ!!』
何故か会話は成立した。驚きを隠せない俺に対してユリオンは躊躇う事なく話を続ける。
『そもそも、我の魔法は少々特殊でな。今の時代風に言えば固有魔法と言ったところか。我以外には使えないし理解もできないだろう』
ユリオンの扱う固有魔法:オリジン。魔の原点にして魔そのものであり、魔法の素でもある。それらは色々な形をなし魔力を通して魔法や魔具などを作ってきた。しかし、この固有魔法は魔力そのものでもある為一般的に使用される魔法は使用できない。しかし、ユリオンはここから勝機を見出した。それは自分自身で魔法を作る事だった。
ユリオンの扱う魔法は主に惑星関連が多く、未だに現代の魔法では再現できないし近しいものも無い。
ユリオンの想像力が魔法に傾くのに時間は掛からなかった。何故ならそれが日常的だったから。魔法を使いたいと願う力と見たこともない物を考える力、それら二つがユリオンの固有魔法オリジンを最強たらしめている。
分厚い雲を抜けた先で信じられない光景を目にする。雲を抜けている間にエリュシオンを召喚したアレイスターは空中で自由に身動きを取れる様になっていた。
「こ、これは」
『あぁ。今は我が飛ばしているからな』
目の前に広がるのは大きな深淵であった。ただ、真っ暗に先が見えない地面と限りなく広がるその巨穴は果てしなく続いている。どこからどこまであるのか分からいない黒は最早地面だと言われても信じてしまいそうだ。
ある程度の所で降下を辞め空中で身を留める。アレイスターとユリオンは2人して見下ろす。
そこは嘗てユリオンの故郷だった場所。だかしかし、今は見る影もなくいや、寧ろ影だけが残っている。海が途中で切れて影の底へと流れていく事がそれを穴だと分かる唯一の印であった。
「これは、凄いな」
『あぁ、ここはまだ無事だった場所だったのだろう』
「無事?」
『あぁ、すぐに分かる』
ユリオンに連れられて大陸の中央方面へと飛んでいく。だが、巨大な穴は方角を鈍らせ何処が中心なのか判別は出来ない。
「ユリオン、さっきの無事がどーのっていうの、は.....」
『これが答えだ』
それは、先程まで続いてた筈の穴ではなく違和感を覚える程の空間の歪みであった。フルバーニアンで見た時とは比べ物にならない、大陸とそれに準ずる全てが消失していた。
空間は捻れて歪みそこにあったであろう物達は姿形も無くただ、虚無だけが広がっていた。白も黒もなくただ無。ここに空に浮かんでいるよりも遥に大きな大陸が存在したとは到底思えない。
言葉を失ったアレイスターと物思いにふけるユリオンは動きを停める事なく進んでいく。
「(一体、何処に向かってるんだろ。それに、これって....前みたいな引き寄せられる感覚も無いし...)」
『今は我の城があった地点に向かっている。あと、少しだと思うが、何せ我でさえ方向感覚が...』
そう言いながら移動を続ける。
少しした所で前方に謎な物体を発見する。それは、物体といっていいのかただ、今までの空間の歪みや捻じれとは何か違う気がした。
「こ、これは...」
『ここに間違いない。ここが例の奴の爆心地だろう。』
その謎の物体に近付いて分かった事は恐らくこご爆心地であろう事とユリオンの城があった場所では無いという事だった。
『ラシュリーの気配が少しだけする。しっかり近付いてはいるみたいだが...』
ユリオン曰くラシュリーの本体が居る場所の近くには来ているらしい。だが、喰らう者による記憶の欠如や心身的な影響により感知感覚が鈍っているらしい。
俺達は爆心地を後にしてラシュリーの元まで急ぐ。それはユリオンが言い出した事だったが小さな声で、1人でつぶやく様に『嫌な予感がする...』と言い移動を急いだ。
旅の終点は近い筈なのに何故かこの妙な違和感は消える事がなく目的地まで永遠と続いたのだった。




