大いなる空の支配者④
第2章
39話
誰の目にもつかない雲の上、遥か彼方のその彼方。人に忘れ去られた生きる歴史と世界を知るもの達の根城に今、初の人類が足を踏みいれる。それは神獣を引き連れ人ならざる魔力を持つ子供と嘗て世界を支配しようとした魔王である。そしてその子供が扱う魔法はこの空をも彩り覆い隠す勢いで広がり出す。
「マスター!流石に全員を召喚するのはこの世界が持ちません!」
「いや、ゼニス!!!」
「承知したぞ!マスター!!」
魔法陣の展開と共にゼニスが巨城の周囲半径1キロを障壁で囲い特別な結界魔法を付与する事で特殊な世界を構築。擬似的なアヴァロニアを創造する事で神獣達が此方の世界に顕現しても被害がないように抑える。
「流石ゼニス!!!この感じ、アヴァロニアに居るみたいだ。」
「これならある程度は此方の世界でも持つじゃろうて」
「ああ!ありがとう!でも、全員はやり過ぎだよな?取り敢えずは10体位に抑えようか」
その言葉と共に魔法陣は複数個の大きな塊へとそれぞれが重なり合い変貌していく。そして光と共にそこから顔を覗かせる神獣達。
ヴァルハァーレ
エリュシオン
オーディン
メル・クーリヴァ
デリオラ
ディア・ディシディア
ゼニス
リュシリオン
イ・オ<<new>>
エンペスト<<new>>
元々召喚していた2体に加えて8体の神獣を召喚させる。それは正に神話時代や御伽噺そのもの、歴史書や古代の壁画などに出てくる聖戦の如き光景であり神々しいとはこの事を指すと改めて感じる。
「マスター、やっと我らの出番が来たようですな!」
「うん、ずっと待ってた。」
「悪い!最近、顔も出せてなかったしな。今日は思う存分暴れてくれ!」
イ・オ。黒い長髪に漆黒の浴衣を着た小さな少女で姿は人間に見えるが神獣である。デリオラは闇と影を統べるがイ・オは夜を統べる。この2人の相性は非常によくお互いの能力を補助・強化する事ができるのだ。
エンペスト。支配を司る神獣でその支配は空間や魔法、天候など様々な物に作用し扱う事ができる。見た目は長身の人型で白い髪の毛に黒を基調とした服に身を包むその姿はどこか魔王を彷彿とさせる。
「承知!!」
「りょうかい」
「あらマスター、私達のことは忘れたのかしら?」
「メル、そんな意地悪言わないでくれよ〜」
「ふふっ。冗談はさておき雑談している暇はないようですわね」
メル・クーリヴァが話を切り上げると賑やかな雰囲気が一転、戦闘体制に切り替える。巨城を守る竜達は光を纏いこちらに攻撃を仕掛けてくる。
「みんな!!!!」
「「「「「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」」」」」
掛け声と共に散開しそれぞれが個々のやり方で回避行動を起こす。色々な攻撃が飛び交うもののイ・オとデリオラが直様に動き出す。
「デリオラ、さん」
「はい!イ・オ殿!!」
闇と影がゼニスの結界内を覆い夜を作り出す。それと同時に厚雲の下より黒い瘴気が吸い寄せられるかの様に集まってくる。
「夜を、集める。」
常闇の夜に覆われた巨城と結界内は既に彼らの領域である。ゼニスがアヴァロニアを模して創造した結界内に加え2体の神獣が誘う夜、これらは神獣たちが神獣たらしめるには申し分ない。竜達の攻撃は悉く無になり消滅していく。だが、数多の竜達は全く動じず、逆にその攻撃の手を緩めることなく勢いを増していく。
「我が子らよ、我らの夜にしようぞ」
今度は城の方から全体に響く様に声が全体に広がる。すると結界内に月明かりが照らされ始める。それは神獣が作った夜の擬似アヴァロニアに仮想の月を生み出し竜達が纏う光は更に輝きを増す。
「もう、遅いけどな!!!」
瞬間、時間が止まる。月明かりに照らされ神々しくも光る竜達の動きが固まる。両手を前に突き出し手の平を開く。
「オーディン!!エンペスト!!」
ディシディアが止めた時間の中で自分達は関係無いが如く動く。そして掛け声と共に攻撃を放つ2体。
オーディンは大きな大剣の様な槍を振り下ろしたかと思えば斬撃の様な物を散りばめエンペストの能力でこれらの斬撃に干渉、支配し数多の竜達の前へと配置していく。そして張られた結界と展開された夜をも支配し更に神獣達の能力をアヴァロニアに居る時と同等になる様に近付ける。停止した時間が解除されるのと同時に真っ二つになる竜達は次々に落下していく。
ギャァァァァァァァ!!!!!!
断末魔が束となり響き渡る。光り輝いていた竜達の体はその輝きを失い落ちていく。その光景は丸で木々から降り注ぐ落ち葉の様に空から下へと流れていく。しかし
「私達の子らよ。今一度、目覚めの歌を」
脳内に響き渡るその声と共に辺りから歌が聞こえてくる。すると真っ二つにされた竜たちが光り始め、その輝きに包まれいく。すると落下していた竜達は大きく翼をはためかせ上空へと再び飛翔すると城の周りに集まり規則的な動きを取り始める。
「さぁ、歌え!我が子らよ!」
息を吹き返した数多の竜が集団的行動をし規則正しく動き続ける。全ての竜達が集まり終えると更に光が増していき段々と魔法陣が浮かび上がってくる。
「あなたは踏んではならない竜の尾を踏み抜いたのです」
「懺悔しながら命を捧げよ」
光が遂には夜を昼に変えてしまう程に輝き魔法陣がくっきりと浮かび上がる。その歌と共に鳴り響く竜達の声は正に世界の終焉か若しくは始まりを彷彿させてしまう程に美しく、恐ろしいものだった。




