特訓の日々②
第1章
19話
フィオラを連れて学校に行きその日の授業を全て受けた俺は再び特訓の為アヴァロニアに来ていた。最近は朝と夕方にアヴァロニアに行き特訓するのが新たな日課になっていた。
「マスター、この短期間でよくぞここまで!お見事でございます!」
リュシリオンが鼻高々そうに言う。俺はこの短期間でゼニスアルマを使用中になら召喚獣の完全顕現とその能力の同時使用ができるところまできていた。召喚獣を全顕現させるのは正直簡単だがその召喚獣の能力を俺が使うとなると話は別だ。しかし今現在、召喚獣を顕現せずにその能力を同時に5つまで使用することに成功した。
「取り敢えずはこんなもんか。ありがとう!リュシリオン!」
俺は褒めてくれたリュシリオンに対して素直にお礼を言った。ここ最近リュシリオン含む全召喚獣達は俺に付きっきりで特訓に付き合ってくれていた。しかも他の契約していない神獣達も最近では俺の特訓を見てくれている。勿論この世界に来る人間など居ないという物珍しさもあるだろうが今では契約待ちの神獣までいる始末。何とも嬉しい話だ。
「流石は時期我らがマスター。この歳でここまでの才覚、魔力量とはいやはや恐れ入る。」
「ゼニス、時期マスターってのは嬉しいけどちょっと気が早いんじゃない?笑笑」
長い白髪に白く長い髭。真っ白い服に身を包む正にイメージする神様のようなおじいちゃんのこの人はゼニス。俺の神杖ゼニスアルマの生みの親で雷を司る神獣だ。神獣と言っても見た目がかなり人に近いので獣というのも些か可笑しい気もする。この地で特訓し始めた最初の方から俺のことを気にかけてくれていて今では俺の事を時期マスターと呼び契約待ち神獣の1人である。
「何を仰るか!我の杖を扱える人間などまず存在しないのにそれをまさか我の許可を得ずに召喚、使用するなど!こんな事初めてですぞ!それにここ1週間足らずでここまでの成長。これは我のマスターになって貰うしかありませぬ!」
「杖の件は申し訳ないけど俺にも原理とか分からないんだよね。なんで召喚できたのかとかさ」
神杖ゼニスアルマ。俺が魔力を全開放する為には必ず必要になる神の杖。使用者の魔力を喰らう事で同化、融合し通常耐えきれない筈の魔力量を全開放する事ができる。因みにゼニスアルマに魔力を喰われ同化、融合するという事は作り出したゼニスしかできないが何故か俺にはそれができた。
「我は杖を作り出したに過ぎません。誰に使われるかは杖が決める事。ですが、人間がコレを扱う事は我が杖を生み出してからというもの一度もありませんでした。時期マスターの話は聞いていましたが正直規格外です。」
「それでも、俺はまだ弱いし死にかけてる。この魔力量と召喚魔法が無ければ消滅してたしな。無敵じゃないんだよ」
俺はあの日以来、謎の危機感にずっと追われていた。本当の死をこの身に感じそれが周囲の人間にまで及ぶ可能性を考えると居ても立っても居られなかったのだ。何かをしていないと不安に押し潰されそうになる。毎朝フィオラの顔を見る度に俺の強さを信じてくれている人達が思い浮かびその度にあの時のことがフラッシュバックする。だからこそ俺は今特訓を日課としこのアヴァロニアに居座っている。
「マスター、どうですか。一度ここに居る誰かと実際戦ってみては」
「え?あ、確かに。その発想はなかったな」
リュシリオンの提案はまさに最大の特訓と言える。この世界の神獣とは謂わば神話の世界に出てくる空想上の生き物に等しい。勿論、実際に存在するしこうして会話までできる。しかし召喚魔法で神獣を呼び出すということは本来なら国の民全ての命でも足りるか判らない程の存在で歴史でもその名前が語られることはなく唯一登場するといえば御伽話くらいである。そんな存在と契約しているからこそ分かるとんでもない程の魔力と能力。そんな相手が特訓相手になってくれるというのだ凄く美味しい話だ。
「なんで今まで思い浮かばなかったんだ。これが一番手っ取り早いじゃん」
「マスターどうなさいますか?」
「じゃあ、お願いしようかな!」
「承知いたしました。では誰からいきましょう」
「先ずは言い出しっぺのリュシリオンから行こう!」
「畏まりました。マスター容赦はいたしませんよ!」
「勿論!特訓だからな!死なない程度に全力で頼むよ」
急に決まる俺とリュシリオンの実践形式の特訓。周りの神獣達も面白い事が始まると集まってくる。
「では、こちらから!」
リュシリオンが高く飛び上がり白く輝く魔法陣を複数個生成した。
「シューティング・レイ!!!」
魔法陣から白い光が見えたと思った次の瞬間それは光線のようにこちらに放たれた。正に光の速さで俺に向け同時に照射される。
「換装!!」
俺は魔力兵装を展開しながらその光線の間をすり抜けるように飛んでいく。魔力兵装とは俺の魔力が体の内側から溢れ表面に出てくる事をいう。その際に衣服を模した形で現れるから兵装と言っている。しかし実際は内側の魔力が表面に出てきているので服を着ているというより魔力が体と少し融合し纏って見えているというものなのだ。
「アルノテ・インザイア!!!」
俺がそう叫ぶと光の障壁が光線の対角線上に現れこれを相殺する。常に張られる障壁ではなく自動的に展開されるものなので精度が低いと発動すらしないシビアな魔法だ。
「私の魔法をここまで扱うとは!流石はマスター!ですがこれでは終わりませんよ!」
リュシリオンは更に攻撃の手数を増やしつつ俺を追うように移動する。そして移動した軌跡に新たな魔法陣を形成していく。
「ルミナス・レイ!!!」
次の瞬間、その軌跡の方の魔法陣ではなくリュシリオンの更に上空から光の柱が雨のように降り注ぐ。それは正に災害ではなく神害。神の力と言わざる負えない規模と威力。だがリュシリオンは攻撃の手を休めない。
「セイグリット・レイ!」
軌跡の魔法陣が光はじめ1つの魔法陣から複数の小さな白い光線が放たれる。それはゲームやアニメで見るレーザーのようなもので当たればタダでは済まない。
「ディレクション・ペンタゴン!!!」
障壁が間に合わない攻撃にはエリュシオンの魔法で食らい尽くす。しかしリュシリオンの攻撃は止む事なく寧ろ激しくなっていく。
「このままじゃジリ貧だな」
俺はこの現状を打開する策を考え出す。




