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45、怒りと救出

 ナディアとシルヴァンの報告は、内容が他国をも巻き込む緊急事態だったため、二人の報告から数十分で宰相のところまで事態が伝えられた。


 すると混乱を避けるために詳細は広く明かされなかったが、すぐに騎士団が動かされ、まずは他の代表団が王宮内にいるのかどうかを確認される。


 それによって他の国には問題がないことが判明し、今回の事態はガザル王国とマルティナだけの失踪ということが明らかになった。


 後はこの失踪がどういう意図で起こったものなのか、そしてガザル王国の代表団三名とマルティナはどこにいるのか、それだけが問題だ。


「あまり声を大きくしては言えんが、ガザル王国の代表団がマルティナを攫ったに違いない……!」


 執務室内で、国王は怒りを露わにしながら拳を握りしめた。そんな国王の言葉に同意するよう頷いたのは、招集された宰相と軍務大臣だ。


「……ほぼその予想で間違いないでしょう。マルティナにガザル王国の代表団を攫うような動機はありませんが、ガザル王国側にはあります」

「ガザル王国は有益な情報を全く示せていませんでしたので……マルティナを攫い、聖女を独占しようと考えても不思議ではありません」


 軍務大臣と宰相の言葉に頷いた国王は、眉間に皺を寄せた厳しい表情で、テーブルに乗せられた王宮内の詳細な地図を見つめた。


「しかし分からないのは、どこから王宮を出たのかだ。警備も多数配置され、誰にも見つからずに王宮を出ることは不可能だろう」

「はい。そこは軍務大臣を拝命している私が、責任を持って断言いたします。従って考えられるとすれば、使用人用の入り口などですが……その場所をガザル王国の代表団が知る機会はないでしょうし、やはり考えづらいかと」


 そこで執務室内には沈黙が流れ、国王が怒りの表情をそのままに口を開いた。


「とにかく騎士を動員し、王宮内をくまなく探すんだ。それから万が一も考え、外門にも騎士を配置しよう。ガザル王国の者たちがマルティナを攫ったと判明した暁には……容赦はしない。世界を救う希望ということもあるが、マルティナは我が国の大切な官吏だ。手を出されて黙っているわけにはいかない」


 国王のその宣言に宰相と軍務大臣も瞳に強い光を湛えながら頷き、三人は顔を見合わせ頷き合った。

 


 ♢ ♢ ♢



 ガザル王国の代表団が準備をしていた馬車の荷台で、マルティナは手足を縛られ横に寝かせられている。攫われた時に嗅がされた何かの成分の影響か、いまだに意識を失っているようだ。


「おいっ、早く馬車を動かせ!」

「しょ、少々お待ちください! 水と食料は置いておいたのですが、少し足りなかったようで、馬が食事をしないと動けないらしく……」

「使えないやつだな! 早くしろ!」


 付き人である男の失態に、ガザルは怒りに顔を赤く染めている。そんなガザルがイラつきをぶつけるように馬車を蹴り飛ばしたことで……音と振動により、マルティナの意識が僅かに浮上した。


 瞳が僅かに動き、ゆっくりと開いていく。しかし馬車の外にいる三人はまだ気づいていないようだ。


「……ここ、どこ?」


 マルティナは掠れた小さな声でそう呟くと、目だけを動かし周囲の状況を確認した。さらに聞こえてくる会話などから、自分の置かれた状況を正確に理解していく。


 ――この声はガザル王国の代表団だ。確か意識を失う前に誰かに襲われて、今いるのは馬車らしきものの中。手足は縛られ、お世辞にもいい待遇とは言えない。これは……ガザル王国に攫われた?


 その結論に達したところで、マルティナはどうにかして逃げ出そうと思考をフル回転させた。

 しかしマルティナは確かに特異な能力を持っているが、腕っ節は全く強くないので、この場を打破できる策が思い浮かばない。


 ――私は魔法も使えないし、剣も使えないし、そもそも手足を縛ってる紐をどうにもできないし……


 現状の大変さを改めて実感したマルティナが顔色を悪くしていると、突然馬車が壊れるような大音量が響き、マルティナが寝ている床が大きく揺れた。


「うわっ……っ、ちょっ」


 手足が縛られているマルティナは受け身も取れずに転がり、壁に激突してしまう。ぶつけた額の痛さに呻いていると……馬車の扉が開き、マルティナは力強い腕ですぐに助け出された。


「マルティナ、大丈夫か!?」

「ロラン、さん?」

「良かった……」


 マルティナに意識があることを確認したロランは安心したように頬を緩めると、マルティナを馬車にもたれかけるように地面に座らせ、キッと睨むようにガザル王国の三人に視線を向ける。


 持ち運び用の小型ランタンで照らされた三人の表情は、恐怖や怒りに引き攣っていた。


「お、お前……っ、俺たちの馬車を壊しやがって!」

「先に俺らの仲間を攫ったのはお前らだろうが」

「はっ、一人で何ができるってんだ! お前たち、早くあいつからマルティナを奪いかえせ!」

「はっ、はい……っ!」


 ガザルの言葉に慌てて従った付き人の男二人がロランに近づこうと一歩を踏み出したが……そこで二人の足は止まった。


「なんだお前ら、怖がってるのか!?」

「違いますっ。何かに足を掴まれていて……!」

「――もしかしてお前、闇属性か? しかも影まで操れるとか、相当な実力者だな」

 

 一人の付き人が発したその言葉に、この場にいた誰もが表情を驚愕のものに変える。中でも一番の衝撃を受けていたのはマルティナだ。


「……そうだ。だからお前らじゃ俺には勝てねぇよ」


 ロランがそう言った瞬間に影が自在に動き、付き人二人とガザルを近くの木に拘束した。

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