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44、焦りと捜索

 ロランが王宮を後にしていた頃、ナディアはどこにもマルティナがいないことに焦りを感じていた。


 ――こんなに探してもいないなんてことがあるのかしら。もう時間も遅くなってきたし、絶対におかしいわ。


 そう考えたナディアは他人の知恵を借りるため、また会議が行われていた会場に戻った。するとちょうど片付けを終えて、会場の鍵を閉めているシルヴァンと遭遇する。


「シルヴァン、まだマルティナが見つからないのよ。思い当たるところは全て探したの」

「それは本当か? 少し前にはロランも捜索に向かったが……」

「そうなのね……でもどこにもマルティナはいないわ。ロランも見なかったから、思い当たる場所以上に捜索の範囲を広げているのかも……シルヴァン、マルティナの身に何かあったなんてことはないわよね」


 ナディアがそう呟いた瞬間、突然ナディアの頭の中に、ある出来事が思い出された。そう、マルティナがいなくなる直前に王宮内を彷徨っていた、ガザル王国の代表者だ。


「確かあの人、なんだか落ち着かないような挙動をしてたのよね……」

「なんの話だ?」


 突然なんの脈絡もなく呟かれたナディアの言葉にシルヴァンが怪訝な表情で問いかけると、ナディアは最悪な想像に顔色を悪くしながら口を開く。


「実は――」


 それからナディアが少し怪しかったガザル王国の男について説明をすると、シルヴァンは厳しい表情をより険しくして口を開いた。


「ナディア、今すぐにガザル王国の客室に向かった方が良い。もしかしたら……マルティナは攫われたかもしれないぞ」


 シルヴァンのその言葉に息を呑んだナディアは、動揺を隠せない様子で頷き、慌てて会場を出ようと踵を返した。しかしそんなナディアの手をシルヴァンが掴んで止める。


「私も共に行こう。鍵を返すのは後でも構わない」

「……ありがとう。助かるわ」


 自分が動揺していることを自覚していたナディアはシルヴァの提案をありがたく受け入れ、二人は共にガザル王国の代表団に割り振られた客室に向かった。


 緊急の連絡事項があるという名目で扉をノックするが、なんの反応もない。


「突然の訪問、大変失礼いたします。此度の会議の担当を務めております、ラクサリア王国の官吏であるシルヴァンと申します。扉を開けていただくことはできますでしょうか」


 ノックだけでなく声を掛けてみるが、それでも反応はなかった。そこで二人は近くで警備をしている騎士に声を掛け、ガザル王国の代表者たちの行方を聞く。


「すみません。ガザル王国の代表団の皆さんが、どちらにおられるのか分かりますか?」

「確か……少し散歩をすると出て行かれたかと。まだ戻ってきておりません」

「そうですか。ありがとうございます」


 騎士の言葉に顔を見合わせたナディアとシルヴァンは、他国の者たちに自由な出入りが許可されている中庭に向かった。しかしそこにもガザル王国の者たちはいない。

 それから他の場所も全て巡ったが……どこにも姿は見えず、さらには他の国の者たちも姿を見ていないとのことだった。


「ナディア、まずは部屋の予備鍵を借りてきて、客室の中を確認しよう。反応がなくてどこにも姿が見えないとなれば、中で体調を崩している可能性もあるからと許可されるはずだ」

「……そうね。私が行ってくるわ」

「ああ、頼む。私はもう一度だけ中庭を探してから客室に向かっている」


 それから二人は一時的に別行動をして、約十分後に客室の前に再度集合した。


「中庭は……」

「やはり姿は見えなかった。予備の鍵は?」

「借りられたわ」

「……では、入るぞ」


 鍵はシルヴァンが受け取り、二人は緊張の面持ちでガチャリと鍵を開けた。そしてドアノブに手をかけて扉を開くと――そこには、誰もいなかった。


「失礼いたします。誰かいらっしゃいませんか?」


 ナディアのその呼びかけに答える者はいない。お風呂やお手洗い、さらには寝室や従者用の控え室など全てを確認したが、どこにも人の気配はなかった。


「……誰もいないわね」

「ああ、明らかにおかしいな。ガザル王国の代表団が、マルティナが消えたことと関わっているのかは別として、何かが起こっているのは確実だ」

「ただこの現状だけで、ガザル王国の代表団がマルティナを攫ったと断定はできない……わよね」


 少し冷静になった様子のナディアがそう呟くと、シルヴァンがゆっくりと頷いた。


「ああ、マルティナと同じ事件に巻き込まれた可能性もある。さらには俺たちにはあり得ないと分かるが、客観的にはマルティナがガザル王国の面々を攫ったという可能性さえ残るだろう」

「とりあえず……他に消えた人たちがいないか、すぐに確認をしなければいけないわね」

「そうだな。しかしどこにいるのか……王宮から出るのはそう簡単ではないはずだ。まだ王宮内にいるとすれば、あまり人の出入りがない場所だろうか」


 そこまで話し合いをしたところで、二人はこの事態は自分たちだけの手には負えないと判断し、上に緊急事態として報告をすることに決めた。


「とにかく政務部に行こう。まだ部長はいるはずだ。部長なら内務大臣を通して宰相様まで一気に報告を上げられるだろう」

「分かったわ」


 二人はマルティナの無事を祈りながら、今度は政務部に向かって足を動かした。

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