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33、ソフィアンと食堂へ

「ソフィアンさんはお好きな食べ物がありますか?」


 食堂までの道中の話題にマルティナがそんな問いかけをすると、ソフィアンは顎にほっそりとした指を当てて少し考え込み、悩みながらも口を開いた。


「そうですね……私はサラダが好きです。特に果物が入ったものでしょうか。さっぱりとした水気が多い果物にチーズとたくさんの野菜を混ぜ、塩とオイルでシンプルな味付けに仕上げられたものが――って、マルティナさんはサラダがお好きではありませんか?」


 ソフィアンは話の途中でマルティナの微妙な表情に気づき、苦笑しつつ問いかけた。するとマルティナは焦って両手を横に振る。


「い、いえ! そんなことは……ただ、その、お肉やお魚の方が好みではあります」

「ふふっ、そうですよね。マルティナさんはまだお若いのですから当然です」

「お若いって……ソフィアンさんもまだまだお若いですよね?」


 マルティナの純粋なその言葉に、ソフィアンは嬉しそうに口端を緩めて微笑んだ。


「ありがとうございます。しかしマルティナさんより十は上ですから、そろそろ若者とも言えなくなってきました。最近は重いものよりもサラダが美味しく感じるんです」

「そうなのですね……では野菜が美味しい季節だと嬉しいですね」

「はい、それから果物も。マルティナさんは、どのような料理がお好きなのですか?」


 今度はソフィアンがマルティナに同じ質問を返し、マルティナはそういえばこの前ロランとシルヴァンとも同じ会話をしたなと思い出しつつ、前回と同じ答えを口にした。


「私は煮込み料理が好きなんです。お肉がほろほろと崩れるぐらいに煮込まれた、味が濃いめのソースのものが。パンと一緒にいくらでも食べられてしまいます」

「煮込みですか、確かに分かります。あれはお肉なのにあまり重さを感じず、たくさん食べられますよね」

「そうなんです。気づいたら食べすぎてしまいます」

「料理人が聞いたら喜びますね。煮込みは手間が掛かるみたいですから」


 そこまで会話をしたところで二人は食堂の入り口に到着し、開け放たれた扉を通って並んで中に入った。

 王宮内の食堂は自分でトレーを持ち、好きな料理が盛られた皿を取っていくスタイルで、二人は共に料理が並べられたカウンターに向かう。


 その様子を食堂内にいた官吏や騎士が驚きの表情を浮かべて見つめていたが、食事に夢中のマルティナは気づいていなかった。


「ソフィアンさん、今日のサラダの一つは、さっき仰っていたものと似ていませんか?」

「本当ですね。今日は幸運です。マルティナさんも私のおすすめサラダを食べてみますか?」

「うぅ……食べて、みます」

「では一番綺麗なものを取りますね」


 ソフィアンがたくさん並べられた皿の中からサラダを吟味し、マルティナのトレーに一つ置いた。


「ありがとうございます。では次にメイン料理ですね」


 嬉しそうなマルティナの声で二人は少し場所をずれ、三種類の料理が並べられた場所に向かった。本日のメインディッシュは魚の香草焼き、鶏肉のステーキ、牛肉の煮込みだ。


「私は煮込みにします……!」

「そうだと思いました。私は魚にいたしましょう。香草焼きも好きなんです」

「香り高くて美味しいですよね」


 それからスープや飲み物とさらにいくつかの料理を選び、二人は空いている席に向かった。長テーブルの端が向かい合わせで空いていたので、そこに腰掛ける。


 その段階になってやっとマルティナは周囲の視線が自分たちに集まっていることに気付いたが、理由が分からず首を傾げるしかなかった。


「……ソフィアンさん、何だか見られていませんか?」

「そうでしょうか。気にしなくて良いと思いますよ」

「そうですか……」


 そう言われてしまえばマルティナもそれを受け入れるしかなく、とりあえず今は目の前の美味しそうな食事に集中することにした。


 まずはサラダからということで、フォークでチーズと野菜を共に刺して口に運ぶ。


「……んっ、美味しい、です」

「それは良かったです。チーズが入るとコクが出て、サラダの味気なさはなくなると思いませんか?」

「はい。何で今まで食べなかったのだろうと思っています……果物もサラダに入れると合うのですね」

「そうなんです。これからはぜひ、サラダも食べてみてください」

「そうします」


 サラダを食べ終えたら次は煮込み料理で、マルティナはスプーンでゴロッとした大きなお肉を掬って口に運んだ。ジュワッと溢れ出す肉汁と絡み合うソースに、意図せず頬が緩む。


「美味しいです……!」

「ふふっ、マルティナさんは美味しそうに食べますね。見ているだけで幸せになれます」

「……そ、そう言われると、少し恥ずかしいです」


 照れて赤くなった両頬を手で抑えたマルティナに、ソフィアンは自分のメインディッシュである魚の香草焼きをフォークに刺して、マルティナの目の前に運んだ。


「こちらも食べてみませんか? とても美味しいですよ」

「いいのですか?」

「もちろんです。美味しいものは分け合う方が楽しいですから」

「では……」


 ソフィアンはマルティナがフォークを受け取る想定でいたが、マルティナは少しだけ身を乗り出し、ソフィアンが持つフォークから直接魚の香草焼きを口に入れた。


 最初は予想外の出来事に瞳を見開いていたソフィアンだが、もぐもぐと幸せそうなマルティナを見て頬を緩める。


「美味しいです!」

「それならば良かったです。ここの料理人は腕が良いですね」

「それはずっと思っています。官吏の独身寮の方もとても美味しくて、さすが王宮だと……そういえば、ソフィアンさんは独身寮に住んでいますか? お見かけしたことがないような……」


 マルティナがそんな疑問に首を傾げたその瞬間、マルティナは後ろから腕を掴まれ、椅子から無理やり立ち上がらせられた。


「……っ」


 驚いたマルティナが咄嗟に振り返ると、そこにいたのはロランだ。


「マルティナ、何をしてるんだっ」

「……え?」


 マルティナはロランが何をそんなに慌てているのか分からず、首を傾げるしかできない。


「第二王子殿下とカトラリーを共有するなど……!」


 ロランのその言葉がマルティナの耳に届いた瞬間、マルティナはピシッと固まった。

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― 新着の感想 ―
え?王子!?視線の原因はそんなオチ!?ワロタw
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