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31、報告と今後の話

 マルティナたちが王宮に帰還した翌日の午後。ランバートは軍務大臣の執務室――ではなく、謁見室にいた。報告を直接国王が聞きたいということで、急遽場所が謁見室に変更となったのだ。


 伯爵家に生まれ、騎士団長として国の上層部と関わることにも慣れているランバートだが、さすがに謁見室はあまり入る機会がないため、少し緊張している様子だ。


「急な変更、申し訳なかったな」

「いえ、問題ございません。陛下のご尊顔を拝する栄誉を賜り、恐悦至極にございます」

「そのように固くならなくとも良い。今回は謁見室とはいえ、私と軍務大臣しかいないのだからな」

「かしこまりました」


 ランバートが頭を下げて少しだけ体の力を抜くと、国王は真剣な表情で口を開いた。


「では此度の遠征の報告を頼みたい」

「はっ。まず此度の魔物の大量発生ですが……原因は瘴気溜まりと特定することができました」

「やはりそうか……光属性の魔法使いが八名向かったと思うが、消滅は試したのだろうか」


 陛下のその質問にランバートはすぐに頷き、一度小さな深呼吸を挟んでから厳しい現状を伝えた。


「瘴気溜まりの大きさは前回の倍ほどのもので、消滅を試みたものの失敗に終わりました。さらに魔力を注いでいる間は縮小していた瘴気溜まりですが……魔力の放出を全員が止めた数秒後に、元の大きさに戻ってしまいました。したがって、あの瘴気溜まりを消滅させるには前回の倍の二十名……いや、現在も膨張していることを考えると、それ以上の数が必要かもしれません」


 そこまで一気に報告したランバートは口を閉じ、陛下と軍務大臣の様子を伺う。すると二人の表情は、厳しく暗いものだった。


「二十名以上……それは、ほぼ不可能に近いな」

「……そうですね。光属性の者に招集に応じない場合の罰則などをつけて集めることはできるかもしれませんが、そんなことをすれば瘴気溜まりを消滅できても国が荒れます。さらに将来的に、光属性の者が自らの属性を隠すようになる可能性もあるでしょう」

「招集に応じてくれた場合の報酬を増やすのもありだが、それでも危険な場所に赴くことを了承してくれる者は少ないか……」

「そうですね……そもそも光属性であれば、いくらでも稼ぐことができますから」


 そこで二人の話は途切れ、謁見室の中には沈黙が流れた。それを破ったのは国王だ。


「第一騎士団長、瘴気溜まりから生まれる魔物に対処はできているのか?」

「はい。前回のように出現次第、討伐しております。またすでに広がってしまった魔物も、現在騎士たちが討伐に回っているかと」

「そうか――――分かった。では現在のまだ猶予があるうちに、我が国は聖女召喚の復活を目指すことにする」


 陛下のその言葉に、軍務大臣は納得の表情で頷いたが、ランバートは驚きに瞳を見開いた。


「……以前にマルティナが言っているのを聞いたことがありますが、本当にそんなことができるのでしょうか」

「分からん。何も分からんが、もう僅かな望みに賭けるしかあるまい。……瘴気溜まりがこれからも各地で見つかる可能性がある以上、今のままではいずれ国が魔物に飲み込まれる」


 低い声で発された陛下のその言葉に、軍務大臣とランバートは何も言葉にできなかった。安易な慰めなど意味がないことを理解していて、しかし有効的な打開策など思いつくはずもないのだ。


「聖女召喚に関して調べ、魔法陣を復活させる計画を始動しよう。メンバーは……まずマルティナは絶対だな。それから書物を多く調べることになるはずだ。司書であるソフィアンと歴史研究家のラフォレも入れよう。他には誰が必要だ?」

「陛下、さまざまな調整役に政務部の官吏を数人入れるべきかと思います」

「そうか。ではマルティナと近い者を選んでくれ。その方がやりやすいだろう。……それから騎士団も必要だな。第一騎士団長はどうだ?」


 陛下のその言葉に、ランバートは姿勢を正して「はっ」と頭を下げる。


「任命していただけるのであれば、全力で職務にあたります」

「ではよろしく頼む。さまざまな場面で騎士団の力が必要になるだろう。瘴気溜まりの経過観察なども頼んだぞ」

「かしこまりました」


 それからも三人は計画の内容やメンバー選びを詰めていき、ランバートは謁見室に入って約二時間後に部屋を辞した。

 部屋から出たランバートの瞳には、決意がこもった強い光が満ちていた。

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