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図書館の天才少女〜本好きの新人官吏は膨大な知識で国を救います!〜  作者: 蒼井美紗
第12章 竜との交流編

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213、帰還の魔法陣研究再開!

 ラクサリア王国の王宮に戻ってきてから数週間。ディアスはリール語を完全にマスターした。


「これで完璧だ。帰還の魔法陣研究をやろう」


 楽しげに言ったディアスに、マルティナは素直に頷いたが、その隣にいたハルカは信じられない様子だ。


「新たな言語を数週間で使いこなせるようになるなんて、ディアス様は凄いですね」

「それを言うならマルティナの方が凄いだろう? マルティナならば一日だ」

「いや、確かにそうなんですけど、マルティナは異次元すぎて実感が湧かないというか……ディアス様が熱心に勉強されているところを見ていたので、より凄いなと思います」


 ハルカから尊敬の眼差しを向けられ、ディアスは満更でもない様子で口元を緩めている。


「まあ、これぐらいは当然だ」


 嬉しそうな表情のまま帰還の魔法陣研究に関してまとめられた紙束を持ち、軽く叩いた。


「とにかく研究を再開させよう。国に帰れる可能性があるなら、できる限り急ぎたいからな」

「はい。よろしくお願いします」


 二人の会話に一拍遅れて、マルティナも口を開いた。


「――ディアス様、よろしくお願いします。帰還の魔法陣を必ず完成させます」


 決意を表明したマルティナに、ディアスは満足げな表情だ。さっそく帰還の魔法陣研究の資料を開くと、未完成の魔法陣が描かれたページを示した。


「数週間の間に少し確認してみたところ、問題はこの転移先を指定する場所なのだな?」

「はい。その部分がどうしても指定できないんです。ハルカの世界がどこにあるのか分かりませんし、その世界との繋がりもありません。同一世界の中ならば座標で転移先を指定できますが、別世界となるとどうしたらいいのか……」


 正直、召喚するのはそこまで難しくないのだ。相手を特定するのは難しいが、別世界の中から誰でもいい、どの世界でも構わない、もしくは感知できるような特別な力を有した相手とだけ指定するなどの場合、細かい召喚相手の指定は必要ないのだ。


 しかし帰還の魔法陣は、ある特定の世界の特定の国の特定の場所へと転移できなければ意味がない。誤差があるとしても少しにしなければいけないのだ。


 また別の世界に転移してしまいましたなど、絶対に避けなければならない。


「ハルカ本人も指定方法に見当がつかないのだな?」

「はい。全く分かりません。手がかりがあるとすれば、わたしがここに来た時に着ていた服や持っていたものぐらいで。地球には魔法もありませんし」


 何気なく告げたのだろうハルカの言葉に、ディアスは大きく反応した。


「魔法が、ない?」

「はい。わたしのいた世界は地球と言うのですが、魔法は想像上のもので現実にはないんです。わたしもこちらの世界に来るまで魔法なんて使えませんでした」

「しかし、そんなことがあるのか? なぜこの世界に来ただけで、魔法が使えるようになるのだ……?」


 ディアスの疑問は、実はマルティナも考えていたことだった。魔法陣について学べば学ぶほど、魔法陣自体に何か能力を開花させるような力はないのだ。精々、一つの言語理解程度である。


 ハルカのような驚異的な力を与える力は絶対にない。


 そうなると、ハルカは元々聖女としての力を有していたと考えるのが自然なのだ。しかしハルカに聞いても、そんな力は全くなかったと言われる。そしてそのような特別な力を持つ人は、地球には全くいないとも。


(召喚以前は能力が眠っていて、この世界に来て開花したのかな……でも魔法がない世界で、なんで魔法の能力が眠っていたのか分からない)


 マルティナのこの疑問は、ずっと堂々巡りだったのだ。ディアスも答えを出せないらしい。


「わたしも自分のことですが、よく分からなくて……」

「不思議なこともあるのだな……しかし、ハルカの気配はどこかで」


 後半の言葉はディアス本人にしか聞こえないほど小さく呟かれ、ディアスは思考を切り替えるように首を横に振った。


「ひとまず、ハルカの元いた世界を指定するのは、現状では難しいのだな」

「はい」


 マルティナの肯定に頷いたディアスは、先ほどまでの険しい表情を一変させ、ニッと楽しげに笑う。


「色々と考えていたのだが……我の世界ならば指定可能かもしれんぞ」

「――え、本当ですか!?」

 

 あまりにも突然の話に、マルティナはつい叫んでしまった。


「し、指定できるのですか? どうやるのでしょうか!」


 ハルカも前のめりだ。二人に詰め寄られ、ディアスは少し体を反らしながら資料を手に持ったまま両手を前に出した。


「まあ、少し落ち着け。説明する」

「よろしくお願いします!」

「竜には感知魔法と呼ばれるものがあるのだ。これは家族や親しい相手と互いの場所を分かるように繋げるもので、相手がどの方向、そしてどの程度の距離の場所にいるのかが分かる」


 その説明を聞いただけで、転移魔法陣における有用性が分かった。マルティナが期待に顔を輝かせる中、ディアスは続ける。


「我はこの感知魔法を家族と繋げている。まあここはあまりにも遠すぎて家族の感知は不可能なのだが、おそらくこの感知魔法を魔法陣に組み込むことで、転移先の指定ができると考えている。どうだ? 可能だと思うか?」


 ディアスに問いかけられ、マルティナは悩むことなく頷いた。


「成功の可能性はあると思います! その感知魔法の詳細が分からないので確実なことは言えませんが、転移系統の魔法陣にはいわゆる探索機能のようなものがあります。この場所から感知ができなくとも、その探索機能に感知魔法を組み込むことができれば、転移先の指定に繋がるかもしれません!」


 転移や召喚系の魔法陣は、この場からの探索ではなく、一度適当な場所に探査を飛ばし、そこから目的のものを見つけるような形も取れるのだ。


 それに感知魔法を組み込めば、今は遠くて感知できないディアスの世界も感知可能かもしれない。


「やはりそうか。では試してみるべきだな」

「はい。今までの研究で一番可能性が高いと思います!」


 マルティナはやっと見えた大きな希望に喜びを爆発させていたが、ふと我に返ってハルカに目を向けた。帰還の魔法陣の完成は、すなわちハルカとの別れだ。


「マルティナ、大きく進みそうだね」


 しかしハルカが満面の笑みを浮かべて喜んでいるのを見て、胸の中に浮かんだマルティナの気持ちはキツく胸の底に押し込んだ。


「……うん。頑張ろうね!」


 マルティナは、努めて明るい笑みを浮かべた。

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