198、霊峰探索開始!
翌日の早朝。マルティナは霊峰探索軍がいつも森に入る場所に来ていた。本日の探索メンバーはマルティナとその護衛としてロラン、サシャ。そしてハルカとその護衛としてフローランと他数名。さらに霊峰探索軍としてランバート率いるラクサリア王国の騎士たちと、他数カ国の騎士たちだ。ソフィアンは護衛対象を減らした方が安全だからと、今回は拠点で待機となった。
かなりの大所帯だが、マルティナが参加するということで全体の士気は高い。マルティナの特異さは、騎士たちにまで広く知られているのだろう。
そしてそんなマルティナだが――現在はラクサリア王国の屈強な騎士に、背負子で背負われていた。
「本当にすみません……」
「気にするな。騎士じゃないマルティナに協力を頼んだのはこっちだからな」
爽やかに答えてくれる騎士が救いだが、申し訳なさは消えなかった。昨日の話し合いで最初は馬を一頭連れて行こうという話になったのだが、馬に乗るのに慣れていない――むしろ一人で乗れるのかも分からないマルティナは、馬に乗ったところでさほど体力を温存できないのではないかという点に皆が気づいたのだ。
マルティナもその可能性を否定できず、問答無用で背負子に決まった。
背負われたマルティナの側にはロランとサシャがいて、後ろ向きのマルティナとばっちり目が合っている。
「マルティナ……なんか、似合ってるぞ」
笑いを堪えてるようなロランの言葉に、マルティナはぷくっと頬を膨らませた。
「子供っぽいってことですか?」
「いや、そういうことじゃなくてな……なんか、背負われてるのがマルティナらしいんだ」
そんなロランの言葉に、サシャも頷きながら口を開く。
「確かにマルティナさんが森の中をスタスタ歩いてたらちょっと違和感あるっす。背負子で背負われてる方がマルティナさんらしいっすよ!」
ニカッと笑顔で、マルティナを褒めるように告げたサシャに、マルティナは文句を言いたいが言えなかった。サシャの瞳が純粋すぎたのだ。
「……反論できません」
「自分らしさを突き詰めるのは大切だと思うぞ」
「この自分らしさを突き詰めるのはどうなんでしょう」
「……まあ、個性は必要だ」
「こんな個性は望んでません!」
そんなコントのようなやり取りを繰り広げていたところに、楽しげな笑みを浮かべたハルカがやってきた。
「仲良しでいいね。羨ましいな」
「ハルカとも同じぐらい仲良しだよ。それにハルカはソフィアン様たちとかなり仲良くなったよね」
昨日の二人の様子を思い出したマルティナはそう告げる。ハルカとソフィアンはとても親密そうで、互いに気を許しているようだったのだ。フローランはまだ距離があるようだったが、それでも以前よりは距離が縮まっていた。
「確かに……そうかな? ソフィアンさんは物腰柔らかくて優しいから話しやすいんだよね。ずっと一緒に来てくれて本当にありがたいよ。もう王子様だってことはよく忘れちゃってるかも」
「ハルカはそのぐらいでもいいんじゃないかな。長時間一緒にいるなら、距離があるよりは仲良しな方がいいもんね」
「そうだよね」
二人がそんな可愛らしい会話をしていると、ランバートがマルティナたちに声をかけた。
「ではそろそろ出発する。すでに探索が終わっているところは素早く進むので、しばらくマルティナの出番はないだろう。体力を温存していてくれ」
「了解です!」
背負子に座ったままなのでランバートの方を向けず、マルティナは頑張って声を張る。そうしてマルティナとハルカを含めた霊峰探索軍は、霊峰の麓に広がる森に足を踏み入れた。
現在探索が終わって軍が問題なく進めているのは、霊峰の山を少し登り始めた辺りまでだ。そこまでは騎士たちが足早に歩けば一日ほどで辿り着く。
そしてそこからカルデラ湖があるだろうとされる山の頂上付近までは、なんの問題もなく歩き続けられる場合ならばさらに一日程度で着く距離だ。
しかし未知の植物や魔物に翻弄されて、現在は一日で数メートルしか進めない時もあるほど、上手く探索が進んでいない。
マルティナとハルカが参加したことによって、それがどこまで進むのかどうかだ。
「今夜は探索の最前線あたりで一晩を明かすことになるんですよね」
「その予定だな。霊峰の中で寝るなんてちょっと怖いというか、寝られるのか不安だ」
苦笑を浮かべつつ素直にそう言ったロランに、マルティナも同意を示す。
「私も寝られるのか分かりません。……ハルカは森の中で野営することもあるの?」
「うーん、あんまりないんだよね。ごくたまにある感じ。でも騎士さんたちが全て準備をしてくれるから、不便に思ったことはないかな」
「そうなんだ」
経験者の言葉にマルティナは安心した。
それからも雑談をしつつひたすら森の中を進み、たまに現れる魔物は騎士たちが問題なく討伐し、マルティナとハルカは特に出番がなく辺りが薄暗くなり始める時間となった。
そこで、ランバートが全体に向けて声をかける。
「本日はこの辺りで野営にしよう。もう少し先に行くと探索が終わってない場所になるから、明日からは忙しくなる。今日はしっかり休むように」
「はっ!」
騎士たちが素早く準備するのを邪魔しないようにマルティナは端の方でじっとしていて、隣に座るハルカと近況をたくさん話す。
少し怖いが楽しくもある夜の時間が過ぎ――翌朝。ついに本格的な探索の始まりだ。




