195、別れと嬉しすぎる提案
他の護衛たちを撒いてこの場に来ているので、あまり長居をすることはできないのだ。早めに戻らなければ、大事になってしまう。
「もう帰ってしまうのは悲しいが、仕方がないな」
エルフの村の出入り口に戻ったマルティナたちは、村長やルイシュ王子の祖父母、それから他にも多くのエルフたちの見送りを受けていた。
村長が少しだけ眉を下げて告げた言葉に、ルイシュ王子が口を開く。
「ああ、さすがにこれ以上の長居はできないのだ。今回は突然来た私たちを受け入れてくれて、心から感謝している。また霊峰探索への助力も感謝する」
「それは同族ならば当然のことであるし、霊峰探索は私たちとしても大切なことだ。エルフの存在を明かすことはできないが、最大限に協力しよう」
そこで少しの沈黙が場を満たし、村長が問いかけた。
「ルイシュは自由に出歩ける時間があるのか?」
「私か? 第二王子という立場なのであまりないが、全くないというわけではないな」
「そうか。では来られる時に、またこの村に来ると良い。いつでも歓迎しよう」
村長の言葉に祖父母が嬉しそうに頬を緩め、他のエルフたちも笑みを浮かべている。エルフはあまり数が多い種族ではないようだし、新たな同族の存在が嬉しいのだろう。
ルイシュ王子も新たな仲間が嬉しいのか、自然な笑みを浮かべて頷いた。
「ありがとう。また訪れさせてもらおう」
「分かった。待っている。次に来た時にはエルフの言葉や文字を教えよう。やはりエルフの言葉で話した方が皆と打ち解けられるだろう。それにこの村にある本も読めるようになる」
「それは嬉しいな」
途中まではニコニコと話を聞いていたマルティナだったが、本の話になった途端にぐわっと目を見開いた。
(エルフの本を読み放題……羨ましすぎる!!)
自分はエルフではないので仕方がないのだが、ルイシュ王子の立場が羨ましくて仕方がなかった。しかしなんとか悔しげな表情を浮かべるだけにとどめ、グッと拳を握りしめながら衝動を抑えていると、そんなマルティナに村長が気づいたようだ。
「マルティナもまたこの村に来てくれて構わないが、それは難しいか……」
「――――そう、ですね」
頷きたくないが事実なので、マルティナはなんとか頷く。すると少し考え込んだ村長が、マルティナにとっては嬉しすぎる提案をした。
「ではルイシュと文通でもしたらどうだ? 私が許可をした本の内容であれば書き写したり、要約して伝えたりしても構わない」
「ほ、本当ですか!?」
「第三者に見られたくない部分はエルフ語にしておけば、誰かに内容を悟られることもないだろう」
「確かにそうですよね……! ありがとうございます!!」
まだルイシュ王子が頷いていないにも拘らず、文通をする気満々のマルティナである。そんなマルティナに苦笑を浮かべてから、どこか楽しそうな笑みと共にルイシュ王子が口を開いた。
「では定期的に文通をしよう。マルティナ嬢とは趣味が合うので楽しみだ」
「私もとっても楽しみです!」
ニコニコと笑い合う二人を見て、マルティナの近くにいたロランは僅かに微妙な表情を浮かべていた。
そうして別れの挨拶も終わり、マルティナたちはエルフの村の門を通って外に出た。
「すぐに霧が出るからそのまま真っ直ぐ進むように。しばらく歩けば霊峰の浅い場所に出るだろう」
「分かった。ではまた」
村長の言う通りに霧の中を真っ直ぐ歩いていると――数分ほどで霧が晴れて、霊峰の浅い場所に戻ってきた。しばらく歩けば森の外に出られるだろう。
「さて、まずは森から出よう。騎士たちとの合流はそれからだ」
「そうですね。急ぎましょうか」




