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184、ハルカの様子

 マルティナがサディール王国の王宮で仕事に精を出している頃。すでに浄化のためにサディール王国内に入っていたハルカの下に、マルティナからの手紙が届いていた。


 今回のハルカたちは一つ前に浄化をしていた国の位置から、サディール王国への入国が王都とはかなり離れた位置になってしまったため、浄化の前に王宮に顔を出すことはせず、迎えに来ていたサディール王国騎士団と共に浄化の旅を開始しているのだ。


「え、マルティナもサディール王国に来ているみたいです!」


 手紙を読んだハルカが驚いたように告げた言葉に、近くにいたソフィアンが反応する。


「それは驚きだね。霊峰探索軍への参加だろうか」

「いえ、王宮で霊峰研究の手助けをするそうです。ただマルティナのことなので、霊峰探索軍にも参加することになりそうですよね」


 ハルカが何気なく告げた言葉に、ソファアンは苦笑を浮かべた。


「容易に想像できるよ。マルティナは何かと騒動の渦中にいるからね」

「そうなんですよ。マルティナ自身は全然強くないから心配なんですけど、マルティナが凄いからこそで誇らしい気持ちもありますし……」


 いつも抱えていた複雑な思いを吐露しながら、ハルカはこれからどう動くべきかを考える。マルティナと絶対に会いたいが、王都に行くべきなのか、霊峰探索軍の拠点に行くべきなのか。


 結構重要な二択だ。


(とりあえず……霊峰探索軍の拠点の方が近いし、先にそっちかな。もしそこでマルティナに会えなかったら、できる限りそこからまっすぐ王都に向かう方向で浄化の旅を進めたいけど……)


 サディール王国に入った時に説明された浄化の順番を思い出しながら、順番の変更についても色々と考えた。


 そしてマルティナからの手紙を最後まで読み、大切に仕舞い直して保管する。


「マルティナ、とても楽しんでいるみたいでした。新しい本をたくさん読める素晴らしい仕事だって」

「ふふっ、マルティナらしいね」

「ですよね。ということで、わたしも本を読みます!」


 ハルカは本を読んでいるとマルティナと繋がっている気がして、なんだか嬉しいのだ。単純に本を読む楽しさと、マルティナと同じ趣味を共有している嬉しさ、どちらも味わえるのである。


(この前中古本屋で買った、古い日記風の物語を読んでみようかな)


 ハルカは日記が割と好きで、日記風に書かれた物語という形式に惹かれてつい買ってしまったのだ。


 今回の物語はかなり古いもののようだが、何度も書き写されて後世に残っているらしい。最後に書き写した人の感想も書かれていて、『号泣必死の感動物語だった。ただあまりにもリアルで、たまに本当の日記を元にしてるんじゃないかと思って少し怖かった』なんて書かれている。


 ハルカはワクワクしながら、本の一ページ目を捲った。


 物語の主人公は明るくて美人な、誰からも好かれるような若い女性だ。女性の人生は決して派手ではないけど、家族や友人に囲まれてとても楽しいものだった。


 しかし、ある存在との出会いが女性の人生を一変させる。


 その存在とは――竜だ。


(竜って……過去にこの世界で暴れたっていう、あの竜じゃないよね?)


 ハルカは少しだけ不安を感じながらも、続きが気になってページを捲った。


『とても美しく空を飛ぶあの人を、人型になるとちょっと無邪気な笑顔で笑うあの人を、私は好きになってしまった。とっても可哀想な人、故郷を愛している人。世界を滅ぼす災害だなんて言われているけれど、悪いのは私たち人間だわ』


 主人公である女性の気持ちが胸をまっすぐと突き、ハルカは思わず泣きそうになってしまう。唇を噛み締めて、ごくりと喉を鳴らしながら続きに目を向けた。


『私にはあの人に愛される資格はないのに。私もあの人を不幸に陥れた一人なのに。あの人は私を愛してくれた。とても幸せで、だからこそ泣いてしまいそうで……』


 それからしばらく読み進めたページに書かれていた女性の言葉に、ハルカは衝撃を受けて固まってしまう。


『私があの人の子供を産んですぐに、あの人は酷い怪我を負って霊峰に隠れてしまった。私には生死を確認する術すらない。生きていてほしいと願ってしまうのは、罪深いことかしら……。誰もがあの人の死を願う中で、私はどうしても生きていてほしいと思ってしまう。この子を腕に抱いてほしい。あの無邪気な笑顔をもう一度見たい』


 ハルカは驚きや悲しみで感情が大きく揺さぶられ、自然と涙を流していた。しかし自分でそのことに気づかず、半ば呆然と本を見つめ続ける。


『私は誰を、何を恨めばいいのだろう。この悲しみを、どこに持っていけばいいのだろう。せめてこの子は、この子だけは元気に育てなければ』


 それからは穏やかだけれど、ふとした時に悲しさが顔を覗かせるような、平和な日々が綴られていた。本から顔を上げたところで涙が次々と頬を伝い、そこで初めてハルカは自分が泣いていることに気づく。


 雑に涙を拭ってから、もう一度本のタイトルを見た。そこには『許されない愛の話』と書かれている。


(このお話って、フィクションなの……? 設定やストーリーが、あまりにも瘴気溜まりや浄化石に関する過去の出来事と合致しすぎてる気がするけど……)


 竜、世界を滅ぼす災害、悪いのは人間、酷い怪我を負って霊峰に隠れた。どの点も最近聞いた過去の話と同じだ。


(竜は人型になることができて、子供がいるの……?)


 信じられない話にしばらく固まっていたハルカは、少しして首を横に振ると大きく深呼吸をした。そしてあり得ないと本をテーブルに置く。


(考えすぎだよね。多分過去の誰かが竜という存在を使って、この悲哀を創造したんだ。どの世界のどの時代にも想像力が凄い人っていると思うから)


 そう自分の中で納得できたら、やっとこの恋愛物語への感想に意識が向いた。心揺さぶられて思わず泣いてしまった、とても良い物語だ。


(今度マルティナに貸そうかな)


 大喜びするマルティナを脳内で思い浮かべたハルカは、頬を緩めて立ち上がった。

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 まさか竜の子孫(末裔?)が、王太子のおかんが遺した文字を使う一族?
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