174、サディール王国到着!
ラクサリア王国を出立したマルティナたち一行は、無事にサディール王国の王都に到着していた。ルイシュ王子と共に移動したことで、王子の護衛とマルティナたちの護衛という万全の体制によって、とても安全な道中だった。
さらに本が好きという共通点や、美味しいものに詳しいというルイシュ王子の美食家な面もあり、特にマルティナとサシャはルイシュ王子と仲良くなっている。
ロランはまだ警戒を解き切っていない状態だ。
「ここがサディール王国の王都、かなり栄えてますね」
マルティナがそう呟くと、同じ馬車に乗っているロランが頷いた。
「そうだな。あとは道中でも感じたが、本当にカラフルな街並みだな。ラクサリア王国とも、今まで訪れてきた他の国ともかなり印象が違う」
「建物もカラフルですし、いろんな布を使った日除けがオシャレっすよね〜」
そんな話をしながら馬車に揺られていると、しばらくして王宮に到着した。王宮もラクサリア王国と比べると、少し派手な印象だ。金や銀などいくつもの色が使われている。
王宮の正面入り口前に馬車が止まると、まずはルイシュ王子が馬車から降りた。そして次はマルティナたちラクサリア王国からの一行だ。
事前に打ち合わせをしていた通り、このままサディール国王に謁見となる。ナディアやシルヴァンなど官吏や、専属ではない護衛の騎士、下働きの者たちなどは謁見に参加しないが、マルティナとその専属護衛であるロランとサシャ、さらに外交官たちは全員が謁見する。
そして謁見後は滞在場所の案内をしてもらい、さっそく明日からは霊峰に関する書物を読む時間となる予定だ。
(道中で新しい本がたくさん読めて、これからは霊峰に関する新たな書物を読むことが仕事だなんて、幸せすぎるよね!)
ついつい頬が緩んでしまいそうになるのを、マルティナは頑張って押さえ込んだ。キリッとした表情を浮かべているつもりであるが、マルティナの顔を見つめるロランが微妙な表情をしているため、上手くいっていないのかもしれない。
マルティナはハーディ王国での経験があり、ルイシュ王子ともかなり仲を深めたため、謁見前とあってもそこまで緊張していなかった。
それが良いことなのかは……本に頬を緩めてしまうという点では、分からないが。
「では皆さん、こちらへ」
「はい」
ルイシュ王子の先導で王宮の中を進み、豪華な扉の前に着いた。扉がゆっくりと開くと、中は――かなり広い謁見の間だ。
中に入ると、すでに玉座にはサディール国王が座っているのが分かる。ラクサリア王国一行が着く前に玉座にいるというのは、マルティナたちを最大限に尊重して敬意を払っていることへの表れだろう。
これだけでマルティナは、少なくともサディール国王からの印象は悪くないということが分かり、ホッと安堵した。
ルイシュ王子は平民であった側妃の子であるという境遇から貴族には好かれていない様子であり、他の王族との関係性は問題ないとは聞いても、心配していたのだ。
「国王陛下、ただいま帰還いたしました。こちらラクサリア王国から我が国を訪れてくださった皆さんです」
ルイシュ王子の言葉に、サディール国王は口を開いた。
「うむ、よく帰ったな」
まずはルイシュ王子を労うと、さっそくマルティナたちに視線を向ける。そして朗らかな声で言った。
「ラクサリア王国の同志たちよ。遠路はるばるよく来てくれた。我が国は皆さんを歓迎する。今回は霊峰研究への助力、よろしく頼む」
サディール国王の言葉に答えたのは、ラクサリア王国から来た外交官の代表である男だ。
「歓迎のお言葉に感謝いたします。此度は二ヶ国間の絆を深める貴重な機会となるでしょう。まずは何よりも大切な霊峰研究、そして霊峰探索に関してご協力をよろしくお願いいたします。そして他にも様々な面で、交流できたらと思っております」
今回の機会を最大限活用しようとする外交官の言葉に、マルティナは感心していると、サディール国王が楽しそうな声音で告げる。
「ぜひ、様々な話をさせてもらえたら嬉しい」
それからも当たり障りない挨拶をして、謁見は終わりとなった。帰り際に見えたサディール国王の満足そうな表情とは違い、ズラッと横に並ぶ貴族たちは結構な人数が面白くなさそうな表情を浮かべていて、マルティナはその理由になんとなく思い至った。
(ルイシュ王子が今回の機会を作ったから、成果が生まれると、それはルイシュ王子の成果にもなるのかもしれない。貴族社会は本当に複雑だよね……)
そんなことを考えながら謁見の間を出ると、さっそくサディール王国の使用人たちによって、ラクサリア王国一行が滞在する場所に案内される。
ズラッと客室が並ぶ場所に案内されて、皆で荷物の搬入など準備を整えていると、そこにルイシュ王子が訪ねてきた。




