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168、王子との遭遇

 マルティナが研究業務に戻ってから一週間が経過した。魔法陣の内容をあらかた読み解くことができた後は、ひたすら帰還の魔法陣研究を進める日々だ。


 王宮図書館の書庫で書き散らしたメモと睨めっこをしたり、実際に構築した魔法陣の発動を試してみる際には以前にも検証に使っていた部屋で発動の見学をしたり、そのデータをまとめてまた悩んだり。


 そんな以前から変わり映えのしない毎日の中で、一つだけ今までとは違う点があった。


 それは、ルイシュ王子の存在だ。


「マルティナ嬢、最近はよく会うな」


 マルティナが検証に使っている部屋から王宮図書館に戻る道すがら、サシャと二人でいるところに、後ろからルイシュ王子に声をかけられた。


 最近はこのような形で、日に一度はルイシュ王子と会話をしているのだ。さすがのマルティナも、これは偶然なのだろうかと少しだけ不思議に思っていた。


「ルイシュ王子、奇遇ですね。また写本ですか?」

「いや、今日はマルティナ嬢に質問があって王宮図書館を訪ねようと思っていた。私たちは許可がなければ中には入れないが、司書に頼んで本を借りることはできるんだ。そのついでにマルティナ嬢を呼んでもらおうと」

「そういえば、そんな決まりがありましたね」


 マルティナの近くまで来て足を止めたルイシュ王子を、何気なく見上げる。背は高めで、顔の美醜にあまり興味がないマルティナから見ても、かなり整った容姿だ。


 とても綺麗な金髪が目を惹き、瞳の色は青だ。全てを見透かすような澄んだ青が綺麗で、他意はないのだがつい見つめてしまう。


(何度見ても整ってるよね……カッコいいんだけど、それよりもとにかく綺麗だ。あまりにも顔のパーツ全てが整ってるから、見るたびに感心しちゃう)


「そんなに見られると照れるな。マルティナ嬢は本以外にも興味があるのか?」

 

 ルイシュ王子はニッコリと微笑みながら少し首を傾げた。まさに王子らしく本心は読めない笑顔で、照れると言いながら全く照れてはいないように見える。


「すみません。本当に綺麗な配置で美しいなと思ってしまって……あ、もちろん一番好きなのは本ですっ。変な意味はありません!」


 マルティナの返答に、僅かにルイシュ王子の目が見開かれて、少しだけ素が出たようになる。それから何だか面白がるような表情になると、楽しげに口を開いた。


「それは褒められているのだろうか。それとも本に負けていると悲しむべきか」

「え、あ、本と比べるなんてそんなことっ」


 全くそんな意図はなかったマルティナが慌てると、ルイシュ王子は話を切り替えるように手に持っていた写本を示した。


 ロランほどではないが、さすがに偶然にはできすぎている遭遇の多いルイシュ王子を警戒していたサシャが、そろそろ割り込もうかと動き出す寸前の話題転換だ。


 ルイシュ王子は、ギリギリを見極めるのが上手い。


「本題なんだが、この写本でどうしても読めないところがあり、マルティナ嬢の力を借りたかった。このページの――」


 それからの話は写本の内容に関する深い話になり、マルティナも乗り気だったためサシャが止めることなく、二人の話は終わった。


「教えてくれてありがとう。また何かあれば頼みたい」

「はい。いつでも仰ってください!」


 本好きな仲間ができたようで、マルティナはニコニコだ。さすがにルイシュ王子との遭遇が多すぎると思っていても、こうして本の話をしてしまうとマルティナは楽しさが上回り、違和感についてはいつも流してしまっていた。


 ルイシュ王子に恐怖心を覚えたり、不気味な感じがしたり、少し強引な部分を感じたり、そういうことが全くないというのも大きいだろう。


 二人でルイシュ王子を見送ってから、珍しく眉間に皺を寄せたサシャが口を開いた。


「マルティナさん、あんまり仲良くなりすぎないでくださいっすよ? 急に距離を縮められるのは、何かある証拠っす」

「分かってます。でも、ルイシュ王子が悪い人には思えないのですが……」

「いや、それは俺もなんすけどね……殺気とかも皆無ですし」


 マルティナの言葉に、サシャも困ったように眉を下げる。


「まあとにかく、一人にはならないでくださいっすね」

「はい。サシャさんかロランさんと絶対一緒にいます」


 そんな会話をしてから王宮図書館に戻ったマルティナは、また帰還の魔法陣の構築に時間を費やした。しかしどうしても成功する未来が見えず、また成果がないまま一日が終わった。

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― 新着の感想 ―
 念のため女性の護衛を増やした方が…。
思惑があったとしても殺すつもりじゃない限り、殺気なんかでなくない? 嫌な感じとかやましいところとかならまだわかるけどさ…
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