155、ゴーレムは無敵!?
「マジかよ……」
「これ、ヤバすぎるだろ」
ハルカの魔法が効かなかったことで、一気に絶望感が広がった。しかしそんな事情をゴーレムが考慮してくれるはずもなく、ゴーレムはそのでかい足をドンッと振動と共に動かして、一番近くにいた騎士の下へ向かう。
騎士は必死に逃げているがゴーレムの一歩はかなり大きく、大きな体に合わせて腕も長いため、振り上げられた拳から逃げ切れない。
思いっきり振り下ろされた拳が騎士に迫り――潰される直前、ハルカの光の奔流が騎士を襲った。
それによって吹き飛ばされた騎士は、なんとかゴーレムに潰されることは回避できる。しかし威力を弱めていたとはいえ、吹き飛ぶほどのハルカの攻撃を全身に喰らったのだ。騎士は意識を失って倒れ込んだ。
「マルティナも安全なところにいてね! あと倒す方法は頼んだよ!」
ハルカはマルティナにそれだけを伝えると、ギリギリのところで助けた騎士の下に向かって駆けた。さっそく治癒を施しているハルカを確認しながら、マルティナは指示通り動くことにする。
「私も研究所の近くに行きます」
「ああ、それがいいな」
「すぐ行きましょうっす!」
そうしてマルティナが比較的安全な場所に避難している間にも、ゴーレムは暴れていた。しかし予想通り、範囲攻撃に研究所の周りが巻き込まれることはない。
騎士たちがゴーレムを惹きつけてくれていて、研究所に入ったり触れたりしない限り、研究所の周りにいるのが一番安全なのは確かなようだ。
マルティナは安全な場所に移動したところで、改めてゴーレムをじっと観察した。
(あのゴーレムの体、何で出来てるんだろう。この辺りの土だけじゃ、あそこまでの強度になるはずがない。となると、何か特殊な素材が準備されていて、魔法陣の発動と共にそれが混ぜられたのかな)
色々と考察するが、マルティナにはその肝心の素材がなんなのか見ただけでは分からない。ゴーレムの体の色や材質は、今までマルティナが一度も見たことのないものなのだ。
たとえマルティナが土に混ぜられただろうその特殊な素材を知っていたとしても、何かと混ぜられてしまえば見た目が変わるため、突き止めるのは難しくなる。
マルティナは鉱石などに関する書物もたくさん読んでいるため知識は豊富だが、実際に目にする機会はそこまで多くないため、実物と知識とが繋がっていないものもあるのだ。
大体の色合いなどは本に描かれた絵で分かっても、本物の質感は実際に見なければ分からない。
「ロランさん、サシャさん、あのゴーレムの材質を見たことありませんか? どこかで使われている何かに似てるとか」
少しでも情報を得ようと護衛の二人に問いかけるが、二人は首を傾げるばかりだ。
「そう言われてもな……かなり特殊な感じの色をしてるだろ? あんなの初めて見る」
「俺もっすね……なんか乾いた血みたいな、ちょっとグロい色っすよね」
確かに乾いた血に似ているかもしれない。ただ乾いた血のような暗い赤、という説明書きがされた素材は、いくつも存在するのだ。
その中のどれがゴーレムに使われているのか判断できないし、そもそもゴーレムの色は様々な素材が混ざって完成した色である可能性も高い。
(どうしよう。このままじゃたくさんの騎士さんたちが怪我をしてしまう。一人で忙しく立ち回っているハルカも、本当に心配だ。それに、倒し方についてはハルカに任されたのに……)
どうしようと焦って唇を噛み締めたマルティナのところに、慌てて駆け寄ってくる人物がいた。それは砂に塗れたアレットだ。
「アレットさんっ、大丈夫ですか!?」
「なんの問題もないよ。少し汚れただけだからね。そんなことよりも、さっきハルカ様の攻撃で少しだけゴーレムの体が欠けたんだ。それを拾ってきたよ」
そう言って開いた手のひらを差し出したアレットは、そこにあった小さなカケラを指で摘んだ。
「ここを見て欲しいんだ」
アレットが指差した場所には、本当に小さなカケラだが銀色に煌めく何かがあった。それを見て、マルティナはガバッとアレットの顔を見つめる。
「もしかして、アレットさんにはこれが何か分かるのですか!」
マルティナは銀色の鉱石をいくつも知っているが、目の前にあるものがなんなのかは分からない。
「もちろんさ。あたしは遺跡探検家だからね。鉱石なんかには詳しいんだよ」
「さすがです……! ぜひ教えてください!」
「マルティナに教えられることがあるなんて、なんだか嬉しいね」
アレットはそう言いつつ、目の前の鉱石を見分けた理由を説明し始めた。