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153、考察と緊急事態?

 マルティナが視線を向けると、全員が例外なく険しい表情を浮かべていた。過去に人間が起こした大きな罪を知ったのだから、それも仕方がないだろう。


 しかし異界からの召喚という技術が開発された当時の魔法陣に関する情報が、ここには眠っているのだ。さらに浄化石が一つ手に入り、それを奪った存在が異界から召喚された竜だと判明し、その住処が霊峰だったというところまで分かった。


 収穫としては、これ以上ないほどだ。


「とにかくまずは、この巨石――菱形の宝石が、本当に私たちの探している浄化石であるのかを確かめるため、ラクサリア王国に持ち帰るべきだと思います。ラクサリア王国には還元石が露出しているところがありますから」


 その言葉に皆が頷いたところで、マルティナはさらに言葉を続けた。


「そして本当に浄化石であるならば、霊峰への探索隊を編成すべきでしょう。これもラクサリア王国の王宮で、大陸会議で話し合うべき議題ですね。さらに魔法陣に関する多くの情報は……この扱いも大陸会議に持ち帰るのでしょうか。でもその前に、ハーディ国王陛下への報告が必要かもしれませんね」


 得た情報からマルティナが現状についてまとめると、やっと他の皆の頭も動き出したようだ。バチンッと自分の頬を叩いたギードが、やっと口を開いた。


「とりあえず国王陛下に報告になるだろうが、これはうちの国だけで抱えられる内容じゃないだろ。多分すぐ、第一王子殿下が情報と共に、ラクサリア王国に戻ることになるだろうな」

「やっぱりそうなりますよね……とりあえず報告してみないと今後は分かりませんね」


 そこで少し落ち着いたマルティナは、たくさん並ぶ未知の本に視線を向ける。


(今すぐに全てを読みたいけど、しばらくお預けかな……いや、一冊だけなら。ちょっとだけなら中身の軽い確認で読んでもいいかな? 純粋に読みたい気持ちも強いし、何よりもこれを読めば帰還の魔法陣研究が大幅に進むかもしれない……!)


 悶々と考え込んでいると、そんなマルティナに気づいたハルカが苦笑しながらマルティナの肩を叩いた。


「今すぐはちょっと無理かもしれないけど、そのうち全部読めるよ。これは魔法陣に関する本なんだから、マルティナには帰還の魔法陣研究のためにも読んでもらわないと困るからね」


 現状では瘴気への対応策がハルカの魔法しかないのだから、その理由付けなら確実に読めるのではないかと暗に教えたハルカに、マルティナは尊敬の眼差しを向ける。


「うん、そうだよね。私ここにある本を全部読んで、帰還の魔法陣を絶対に完成させるからね……!」

「ありがとう。でも無理はしないでね」


 二人が笑い合い、研究室内の空気が緩んだところで――


 ドンッッッ。


 突然の爆音と共に、研究室が衝撃で少し揺れた。


「マルティナ!」

「ハルカさんこちらへ!」


 護衛の二人がマルティナとハルカを守ろうとする中、一度で衝撃は収まったようだ。しかし研究室の外から、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。


 五人は顔を見合わせて、とりあえず地上に戻ろうと決めた。


 急いで梯子を登って研究室から出たところで、今度はフローランが魔法陣に魔力を流して入り口を閉じる。そして土で作った簡易的な階段を登って、完全に地上へと向かうと……


 そこにいたのは、ハーディ王国の第三王子であるフィルヴァルトと、その私兵たちだった。


「殿下! 急に来られたと思ったら、何をなさっているのですか!」


 叫んだのは、ハーディ王国の探検家である一人の男だ。


「だから、迷いの古代遺跡探索の助力に私兵たちを連れてきたのだ。この下にある遺跡を掘り出すのだろう? それならば魔法を使って、周囲の土を吹き飛ばそうと……」


 そこまでの会話を聞いて、マルティナは第三王子が少し暴走したのだとすぐに悟った。


「殿下……遺跡とは繊細なものなのですっ。魔法で衝撃を与えてはいけません! もし崩れたらどうするのですか!? 貴重な情報が全て失われることもあるのですよ!」

「なっ」


 自分がやったことの重さをやっと理解し始めたのか、第三王子の顔が少し引き攣る。しかし僅かな焦りを滲ませながら、引かずに前に出た。


「しかし、私も役に立とうと思ったのだ。お前たちは連日の探索で疲れているだろう? ここは私と私兵たちに任せ、皆は少し休むと……」


 そこまで口にした第三王子は、研究室から出てきたマルティナたちに気づいたらしい。ハルカの姿に気づいたところで目を見開いたまま動きを止め、そんな第三王子にハルカはニッコリとした綺麗な笑顔で近づく。


(ハ、ハルカが珍しく怒ってるかも……)


 マルティナがハラハラと事態を見守っていると、第三王子が先に動いた。


「せ、聖女様、こちらにいらしていたのですね……!」

「はい。浄化の旅で近くまで来たものですから。そんなことよりもフィルヴァルト様、突然来られて何をなさっているのですか? 先ほどの衝撃で地下の遺跡が崩れていたら、中にいたわたしもマルティナもフローランさん、ロランさん、ギードさんも生き埋めでした。そして貴重な情報も全て失われていたでしょう」


 ハルカの言葉を聞いて、第三王子フィルヴァルトの顔面は蒼白になる。


(第三王子殿下はフィルヴァルト様って言うんだ。ハルカが知ってるってことは、浄化の旅に出る前に交流でもあったのかな)


 実はハーディ王国の繁栄のため、功績を得ようと焦っているフィルヴァルトは、国にやってきたハルカと親密になろうと頑張った時期があったのだ。

 そのせいで、ハルカからの印象はあまり良くない。


 今回の行動も、あくまでもハーディ王国のために探索の功績を得ようと助力に来たフィルヴァルトだが、すでに探索も佳境で焦ったのだろう。ろくな確認もせずに魔法を放ち、今の状況に陥っている。


 全ての行動が空回っているフィルヴァルトであった。


「そ、そんなつもりではなく……大変申し訳ございません! 私は少しでも助力になればと、その一心だったのです!」


 ハルカに嫌われてはまずいと思っているのか、フィルヴァルトは必死に謝罪を述べる。そんなフィルヴァルトに、もう一度ハルカが口を開いた。


「では皆さんに謝るべきだと思います。ここまで必死に探索をしていた皆さんの努力を、全て無駄にするところだったのですから」


 その言葉を聞いて、フィルヴァルトはすぐ他の皆に向かって頭を下げた。


「余計なことをしてしまい、大変申し訳なかった。ただもし手伝えることがあるなら、探索に協力しよう」


 すぐに頭を下げられるところは、フィルヴァルトの良い部分なのだろう。王族に頭を下げられているということで、探検家や騎士たち全員が慌てて声をかける。


「か、顔を上げてください」

「お気持ちは嬉しいです……!」

「助力、ありがとうございます!」


 そうして緊迫した雰囲気が緩み、マルティナがとりあえず丸く収まりそうで良かったと安堵しかけたところで、突然地面がガタガタと揺れた。

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― 新着の感想 ―
突出したものがないから焦るのは分かるけど、一歩間違えるとどうしようもない愚者になるパターン。
あ、「藪をつついて蛇を出」した。 ハルカならきっとそう思うんだろうなこれ。 ハルカからの好感度がものすごく下がったよ!やったね第三王子!
 もしや、ここには遺跡を護るガーディアン的なものが…?  いくら焦っていても専門家に確認せずに攻撃魔法ぶっぱは他国の要人への暗殺未遂とか嫌疑をかけられないよな。あのハーディ国王が庇うとは思えないなぁ…
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