149、迷いの古代遺跡が指し示す場所
翌日の早朝。ワクワクを隠しきれない大人たちが、一斉に草原へと向かった。先頭を行くのはスキップでもしそうなアレットとギード、そして他の探検家たちだ。
その後ろにはマルティナとハルカが続き、ロランとサシャ、ソフィアン、フローランらハルカの側近も近くにいる。
そして騎士たちはその後ろだ。しかし騎士たちの顔にも期待が滲んでいた。
「場所はこの辺りだったね!」
弾んだ声のアレットにマルティナが答える。
「そうです。ちょうどアレットさんがいるところが左下の頂点になる感じで、縦横十メートルほどの正方形です」
「分かった! 土魔法が使える騎士たち早く来てくれ!」
「はい。少しお待ちを」
そうして探検家たちのワクワクに引き摺られる形で、さっそく調査が開始されることになった。まずは魔法で本当に少しずつ、一ヶ所だけを掘り進めていく。
これを固い何かにぶつかるまで続ける予定だ。
「固いものがあったら、すぐに止めてください。地下にある遺跡が崩れるのが一番最悪です」
「はい。気をつけます」
一番の重圧を感じているだろう騎士の顔は、少し青白い。マルティナはさすがに申し訳ないなと思い、これが終わったら特別報酬を出せないか掛け合おうと心に決めた。
「疲れたら休憩してください。焦らずにやりましょう」
土魔法が使える騎士は全部で五人いるため、疲れで集中力を切らさないよう、交互に地面を掘り進めていく。
「本当に、こんな場所に貴重な情報が眠ってるのかな」
ハルカが周囲をぐるりと見回しながら呟いた。周りはなんの変哲もない草原であるため、マルティナも少しだけ不安に思っている。
「一応、迷いの古代遺跡が示しているのはここだったよ」
ただ魔法陣の座標の表し方が時代によって違うとか、マルティナが書物などから得た知識が十分ではないなど、解釈を間違えている可能性は大いにある。
そもそも書物とは全てが正しいと言い切ることはできず、いくつもの同じ事柄に関する書物を重ねて読むことで、精度の高い情報を得ることができるのだ。
しかし魔法陣に関しては、残されている情報が少なすぎるため、情報の精度を確かめることさえできていない。
過去に魔法陣に関する書物が焼かれてしまったという情報や、汚れのような模様を組み合わせることで魔法陣に関する情報が浮かび上がってくるという工夫を凝らした記録媒体などから、過去には魔法陣に関する情報を意図的に消そうとした者たちがいるのはほぼ確定だ。
そうなると、あえて誤った情報を残している可能性も考えられる。
(ここから何も出なかったらどうしよう。さらに詳しく迷いの古代遺跡を探索してもらってる間に、私は少しでも魔法陣に関する情報を増やすために動くのかな……でもこれ以上の情報があるのか不安だよね)
考え始めてしまうと負のループに陥り、どんどんマイナスの方向に考えが流れてしまう。それを断ち切ろうと、マルティナが自ら首を横に振って顔を上げた瞬間。
土魔法を使っていた騎士が叫んだ。
「な、何かがあります!」
その言葉に皆が一斉に駆け寄る。
「何があったのか教えて欲しい!」
「遺跡か? 遺跡があるのか?」
アレットとギードが騎士へと質問攻めをすると、騎士はあまりの勢いに若干引きながら立ち上がった。
「私には判断できませんので、確認をお願いします」
上手く追求を交わして騎士がその場を離れると、二人は顔をくっつける勢いで小さな穴を覗き込んだ。魔道具の光でしっかりと照らして、アレットが腕を伸ばす。
固い何かがあるのは、アレットが肩まで腕を入れてなんとか届く場所のようだ。
「この狭い範囲から見えただけで判断はできないけど、平らな石造りの何かみたいだね」
弾むような声でアレットがそう告げると、焦れたギードがアレットの腕を引っ張り上げ、次は自分も腕を地中深くに伸ばす。
「おおっ、確かにそうだな」
それから探検家全員がそこにある何かを確認してから、さっそく土魔法で穴を広げてもらうことになった。ワクワクと作業を見守るアレットたちのことを少し離れたところから眺めていると、ロランの呟きが聞こえてくる。
「これでただの石だったら面白いな」
その呟きにマルティナは思わず噴き出しそうになり、慌てて止めたことで一気に咽せた。
「ごふっ、ごほごほっ、ちょ、ロランさん!」
恨めしげにロランの顔を見上げると、ロランは苦笑を浮かべつつ頬を掻く。
「ごめんな。でもあんなに小さな穴から見えてるだけなんだ。その可能性もあるだろ?」
「確かにそうっすよね。石だって全体的には歪な形でも、その場所だけは平ってこともありますし」
サシャも同意し、マルティナの隣でハルカも頷いていた。しかしアレットたちが石造りの何かだと判断して、あんなに興奮してるのだ。
さすがにただの石と間違えることは……マルティナがそう考えていると、ガヤガヤと騒がしく土を退かしていた探検家と騎士たちが、急に静かになった。
全員が穴の底を凝視し、誰も動かない。何か重大な発見があったんじゃ……!
そう思ってマルティナが口を開きかけたまさにその時、アレットの呟きがやけに響き渡った。
「石、だったね」
その呟きにまた噴き出しそうになり、マルティナは今度こそ上手く抑えた。まさか本当に石だとは、衝撃で何も言葉を発せない。
「遺跡じゃ、なかったのか」
「違うみたいですね……」
「ず、随分と綺麗な石で」
呆然とそんな言葉を呟く遺跡探検家の皆を見ていると、笑っている場合ではないことを思い出した。それにただの石に見えるだけで、もしかしたらそれが大切なものかもしれないのだ。
「まずはその石を引き上げましょう。石と決めつけるのは良くないです」
マルティナの声掛けに我に返ったアレットたちは、さっそく騎士たちと協力して石の引き上げ作業を始めた。