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145、ハルカとの楽しい時間

 代官邸の食堂で美味しい昼食を堪能しながら、マルティナたちは近況報告をしていた。まずはハルカの浄化の旅が順調に進んでいるという話を聞いて安堵し、次はマルティナの番だ。


 主に迷いの古代遺跡の探索について進捗を話していると、魔法陣の話を聞いたハルカは少し落ち込む様子を見せる。


「それじゃあ、わたしは迷いの古代遺跡の奥に行くのは無理そうだね」

「そうだね……さすがにハルカは厳しいかも」


 この世界で一番だろう魔力量を持ち、その魔力回復速度も常軌を逸しているハルカだ。どんなに必死になって魔力を減らしても、魔法陣が発動する程度まではすぐに回復してしまうだろう。


 また少し魔力の多い者でさえ、魔力切れ間近となると歩くことも難しかったのに、ハルカが魔力を大幅に失ったらどうなるのか。安易に試すことはできない。


「でも転移魔法陣のトラップがあるところまでなら、問題なく行けると思うよ。明日にでも行ってみる? 今日でもいいんだけど、多分遺跡にいる皆さんが凄く驚くと思うから」


 ハルカは皆の憧れであり、まさに救世主、神のような存在として崇められている。そんなハルカが突然姿を見せたら、動揺と興奮で遺跡内がパニックに陥る可能性もあるのだ。


「もちろん明日でいいよ。急に行くのは申し訳ないから。それに久しぶりに会えたんだから、皆と色々な話をしたいし」

「私も!」


 前のめりで頷いたマルティナにハルカが花が綻ぶように笑い、食堂内にいた全員がニコニコと頬を緩めた。


 美味しい昼食を終えたところで、そのまま食堂で話に花を咲かせる。お供は温かいお茶とクッキーだ。


 マルティナの今日の午後は自主的なお休みとし、ロランとサシャは一応マルティナの護衛として完全に警戒を解いてはいないが、席に着いて話に加わっている。

 ナディアとシルヴァンも他の官吏と相談して、午後休みをもぎ取ったようだ。


 ハルカの要望でソフィアンとフローランも共に席に着いているので、ラクサリア王国の王宮にある食堂での時間を思い出すメンバーとなった。


「なんだか懐かしくて嬉しいな。マルティナは最近どう? 何か面白いことはあった? 皆さんの近況も聞きたいです!」

「そうだね……あっ、私はやっぱりハーディ王国の本かな。実はハーディ王国の王宮で色々あって、王宮図書館に入らせてもらえたんだ!」


 ラクサリア王国とはまた違った王宮図書館の様子を思い出し、マルティナはうっとりと宙を見つめる。


「え、そうなの!?」


 今までで一番の反応をもらい、マルティナはさらに嬉しくなった。


「そうなんだよ……! 読んだことのない本の宝庫で、まさに宝の山だった。あそこに一ヶ月、いや半年ぐらい入り浸って、端から本を読めたらどんなに幸せか……」

「わたしも入ってみたいな」

「多分ハルカなら入れてもらえるんじゃないのかな? ハルカの功績でダメだったら、私なんて絶対に入れてもらえないから」


 軽くそう告げるマルティナだが、赤点病という未知の病に関する正しい情報と治療法、そして原因の除去方法は、ハルカの浄化に匹敵するような成果だ。


 しかしいつも通り知っている情報を教えただけという認識が抜けきらないマルティナは、あまり功績の大きさを理解していなかった。


「そうかな。浄化の旅が終わって王宮に戻る時に、お願いしてみようかな。休息のために少し滞在するだろうから」

「うん。それがいいね。ハーディ王国の本も凄く面白いものばかりだよ」

「実はね、それは知ってるんだ」


 楽しそうな笑みを浮かべてそう言ったハルカは、ガサゴソと懐から何かを取り出す。


 それは……小さめの本だ。


「わたしも寄った街に中古本屋があったら、何冊か買ってたの。特にこの物語が面白かったんだけど……」


 ガタッ!


 ハルカの言葉を遮るように、マルティナが音を立てて立ち上がった。さらに向かいの席に座っていたハルカの下へ足早に向かう。


 書物のタイトルは『リーネ王女の料理旅 第二巻』。マルティナがハーディ王国の王宮までの道中で、第一巻を買って読んだ本の続きだ。


「こ、この第一巻、中古本屋で買って読んだよ!」

「え、本当!?」


 ハルカはかなり驚いたのか、目を大きく見開いた。


「うん。続きがある終わり方だったから二巻を探してたんだけど、王宮図書館にもないって聞いて諦めてて……」

「そうだったんだ。わたしは二巻からでも普通に楽しめるからって中古本屋の店主に言われて読んでみて、確かに面白いけど一巻をどうしても読みたくなって……まさかマルティナが読んでたなんて想像もしてなかったよ」


 そこでふふっと楽しげに笑ったハルカは、その本をマルティナに差し出す。


「じゃあ、これはマルティナに貸すね。わたしはマルティナが持ってる一巻を借りてもいい?」

「もちろん……!」


 マルティナは受け取った本を両手でギュッと胸に抱き、今までで一番の笑みを浮かべた。


「私が持ってる本もすぐ渡すね」

「ありがとう。今夜でいいよ」


 そうして二人の会話が一区切りとなり、ハルカはマルティナの左右にいるロランとサシャ、そしてナディア、シルヴァンに視線を向けた。

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