142、今後の探索方針
「今のアレットさんの状況であれば、転移魔法陣を発動させることなく遺跡の奥を探索できるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。少しの疲労感はあると思いますが、探索ができないほどには見えないのですが……」
その言葉に、ほぼ全員が目を見開いた。
「確かに……この状態なら普通に探索可能だよ! さすがに絶好調じゃないけど、普通に動けるからね」
アレットのその言葉に、ギードが叫ぶ。
「あの広場に戻るのが転移魔法陣の仕業だとして、それを無効にできるのか!」
続けて、皆のボルテージも一気に上がった。
「これ凄いことじゃないか!?」
「一気に全容を把握できるかもしれないぞ!」
「マルティナさん、本当にすげぇ」
全員が好きなように興奮を露わにする中、マルティナが声を張って言った。
「皆さん、とりあえずこの状態がどれほど続くのかを確かめてからです! それから、普通に魔法を使った魔力切れ状態でも魔法陣が発動しないのかどうかも確かめたいですね。魔法は使えるけど、その中でも魔力量が少ない人は協力してくれますか?」
魔力量が多いとそれを使い切るのも大変なので、こういう場合は元の魔力量が少ない人の方が適しているのだ。
「では私が!」
「私もやってみます」
数人の騎士が手を挙げてくれて、皆でさらに検証してみることになった。アレットはここから時間を測り、どれほどの時間経過でまた魔法陣が発動してしまうのかの調査だ。
遺跡探索に大きな希望が見えたことで、皆が前のめりでさまざまな検証を進めた結果……色々なことが判明した。
まず一番大きなことは、魔法陣が発動しないほどの魔力切れ状態で普通に動けるのは元の魔力量がかなり少ない人、つまり魔法を使うことができない人だけだと分かった。
最初は魔法を使って魔力を減らすと減らしすぎてしまうのではないかと、魔法を使える騎士が魔法陣を使って何度も魔力切れまでトラップを踏み続けたのだが、魔法を使った時と結果は同じで動けなかったのだ。
「魔法を使える人は、その程度が生活魔法レベルでも、やっぱり魔法を使えない人よりも魔力量がかなり多いみたいですね」
「そうみたいだね。元々たくさんあるものが一気に減ると動けなくなるんだろう。遺跡の奥を探索するのは、魔法を使えない人だけになるかな」
マルティナとアレットの会話を聞いて、検証に参加した魔法の使える騎士たちは一様に肩を落とす。
「不甲斐ないです……」
「まさか魔法を使えることで不利益があるなんて」
「こればっかりは仕方がないですよ」
思ったよりも落ち込んでいる騎士たちに苦笑しながらマルティナが声をかけると、ギードが得意げに言った。
「ああ、探索は俺に任せておけ!」
少し自慢が入っているその宣言に、魔力切れでへたり込んでいる騎士たちが恨めしげにギードを見上げる。
共に検証をすることでより結束が深まった調査団の面々に頬を緩めつつ、マルティナはまた口を開いた。
「魔法陣が発動しない時間ですが、個人差はあるものの基本的には一時間ほどでした。なのでこの場にある雨のトラップのように、あまり害のないトラップで魔力を減らしてから転移魔法陣がある場所まで急げば、そこを越えることはできるはずです。ただ少し懸念があるとすれば、魔法陣によって必要とする魔力量が違う可能性ですね」
マルティナとしては、雨を降らせる魔法陣よりも転移魔法陣の方が多くの魔力を必要とするだろうと考えているのだが、そこは実際に試してみなければ分からない。
もしかしたら逆という可能性もあるのだ。
「そこは試してみないと分からないね。とりあえず、このまま奥に行こうか。あたしが転移魔法陣がある場所に入ってみれば分かるからね」
「そうですね。時間制限もありますし、さっそく行きましょうか。とはいえ……」
マルティナはへたり込む騎士たちに目を向けて、全員での移動は無理だとすぐに結論づけた。
「ここで騎士たちの魔力回復を待つ組と、奥に向かう組に分かれましょう」
「俺たちは絶対奥に行くからな!」
食い気味にそう宣言したのは、もちろんギードだ。ハーディ王国側の探検家たちは、全員がその言葉に頷いている。
「もちろん俺たちも奥に行くぞ。マルティナの護衛だからな」
「はいっす! マルティナさんを守るのが役目っすからね」
ロランとサシャも奥に行く組で、言うまでもなくマルティナもだ。そして魔力切れ中のアレットがいなければ始まらないので、アレットも悩むことなく奥に行く組となった。
そうなると後は騎士たちで、へたり込んでいる騎士はハーディ王国側の騎士とラクサリア王国側の騎士が半々だ。
「両国の騎士の皆さんの中から、数人ずつ残ってもらえますか?」
「確かにそれが一番だな」
ロランが同意しながら頷いて、反対意見は出ない。
上下関係や規律がしっかりとしている騎士団の中で揉めることはなく、スムーズに残る者が選ばれた。
「じゃあ、行きましょうか」
マルティナはわくわくを少し抑えきれず、いつもより弾むような声音で告げる。本に関わること以外でマルティナが興奮するのは珍しいことだ。
「そうだね」
「早く行こう!」