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138、気付きと高揚

 歩いた時間から判断し、あと五分ほどで広場に戻るんじゃないかという頃。マルティナが声を上げた。


「この辺りで止まってもらえますか? ここからは慎重に進みたいです」

「分かった。マルティナが先頭にくるか?」

「そうします」


 先頭に移動したマルティナは、ずっと先に続いている通路にしっかりと光を当て、細部まで記憶しながら一歩ずつ確実に進んでいった。


 特になんの変化も起きず、ひたすら緊張感が漂う中で足を動かし――また一歩を踏み出した瞬間、マルティナの疑念が確信に変わった。


 ガバッと後ろを振り返ると、他の皆も全員が後ろにいる。


「どうしたんだ?」


 真後ろにいたギードに問いかけられ、マルティナはドキドキとうるさい胸を抑えながら、はっきりと告げた。


「今、私たち全員が別の場所に移動しました」


 その言葉に、マルティナ以外の全員は困惑の表情だ。


「本当、か?」

「何も感じなかったが」

「そんなこと、あり得るのか?」

「私も何も感じることはできなかったです。ただ、景色が変わりました。さっきまではそこの右上に小さな引っ掻き傷があって、左下の隅には小さな砂の山がありました。それからそこのタイルが僅かに欠けていますが、さっきまでいた場所のタイルは欠けていませんでした」


 マルティナが気づいた変化を次々と説明すると、だんだんと皆の表情が変化していく。


「本当に、別の場所に移動したっていうのか?」

「マルティナ、これってもしかして……」


 ロランのその言葉に、マルティナははっきりと頷いた。そして告げる。


「魔法陣、かもしれません」


 その言葉はやけに響き渡り、その場がシンッと静まり返った。沈黙を破ったのは、アレットの問いかけだ。


「魔法陣っていうのは、聖女召喚にも使われたっていう、過去の技術だったね?」

「そうです。もしかしたらこの遺跡、魔法陣の技術全盛期に作られたのかもしれません」


 マルティナは、口角が上がるのを止められなかった。もし本当にこの遺跡がその時代に作られたのだとすれば、ここに眠っている情報は、思っていた以上に貴重で有益な可能性があるのだ。


「魔法陣の全盛期に……じゃあ、あの雨のトラップも魔法陣だったりするのだろうか」


 ギードの呟きに、マルティナは頷く。


「その可能性は高いと思います。それなら通路などに変化がないのも納得できるので」


 マルティナの推測が徐々に皆の中で受け入れられていき、さっきまでの静けさが嘘のように、皆の興奮度が上がっていった。


「魔法陣が使われた遺跡なんて、これは凄いぞ!」

「もしかしてこの遺跡、ヤバいぐらい貴重なんじゃないか?」

「でもそんな遺跡、どうやったら全容を把握できるんだよ!」

「そもそも魔法陣の全盛期っていつだ? これいつの時代の遺跡なんだ?」


 一千年前の聖女召喚時に、魔法陣に関する知識は大部分が失われてしまったことが分かっている。つまりこの遺跡はそれより前、暗黒時代に作られた……もしくはもっと前、暗黒時代以前のものである可能性が高いのだ。


 その事実に気づいたマルティナは、ついに知りたかった歴史の一端を知ることができるかもしれないと悟り、心臓が激しく動き出した。


 深呼吸をして興奮を抑え込み、まずは目の前の状況から思考を巡らすことにする。


「皆さん、まずは広場に戻りましょう。多分歩いたらすぐ広場に着くはずです」

「そうだね。考察は落ち着いてからしよう」

「早く戻ろう」


 アレット、ギードと続けてマルティナの提案に賛同してくれて、皆は足早に通路の先に向かって足を進めた。


 マルティナは歩きながらも、脳内で考察を続ける。


(魔法陣が使われてるとして、なんで歩いただけで発動するのかが一番の疑問かな……)


 基本的に魔法陣とは意図的に魔力を込めることで起動し、起動後に自然魔力と呼ばれる空気中にあるエネルギーを消費して発動するものなのだ。


 したがって起動させようとしなければ、魔法陣に触れたり上に乗ったりしたところで、何の反応も示さないというのがマルティナが現状で理解している魔法陣の当たり前だった。


 しかしこの遺跡は、暗黒時代以前に作られた可能性もある遺物だ。そうなると、現在マルティナが理解している以上の技術が存在していた可能性は、大いにある。

 一千年前に聖女召喚の魔法陣を構築できたのだから、それ以前にはそれだけの技術が存在していたという証に他ならないのだ。


(私が知ってる以上の技術が駆使されていると考えると、例えば触れるだけで自然と魔力が引き出されて魔法陣が起動するのかな。ただ通路には魔法陣らしきものがなかった。魔法陣を目に見えないようにする技術もあるのか、もしくはタイルの中や下に埋め込まれているのか……)


 マルティナは床と壁、そして天井全てを覆っている石造に見える巨大なタイルに目を向けた。このタイルを剥がしたり、割ってみたりできないかと思考し、すぐに首を横に振る。


(こういう遺跡は一ヶ所を崩すと、全体に影響があるかもしれないからダメだよね。ハーディ王国もそう思っているからこそ、今まで遺跡の通路を掘ったりはしてないのだろうし)


 そう考えたマルティナは、さらに思考を深めた。


(それに魔法陣を目に見えなくする技術があるなら、タイルを剥がしたり掘ったりしても意味がない。ここは魔法陣があるという前提で、とりあえず探索を進めるべきかな……)


 仕掛けが動いている様子もなく突然雨が降ったり、大人数を転移させたり、そんな現象を引き起こせるものは、魔法陣しか思い浮かばなかったのだ。


 万が一他の技術で現代に全く受け継がれていないものが使われていたとしたら、マルティナでもさすがにお手上げだ。


(そういえば、転移魔法陣が発動したとして、なんで全員が一斉に転移したんだろう。効果範囲とかってどんな指定がされてるのかな……)


 マルティナがそこまで考えたところで、サシャがポツリと呟いた。


「本当にまた広場っすね」


 その言葉に全員が通路の先に視線を向け、最初の広場があることを確認する。


「マジで不思議な遺跡だな……」

「迷いの古代遺跡って名前になるのも分かるぜ」


 騎士たちのそんな会話を聞きながら、マルティナたちは広場に戻った。


 そろそろ日が暮れ始める時間だ。とりあえず初日の探索はここまでとして、今日は街に戻ることにする。


「じゃあ、続きはまた明日だね」

「ああ、初日から収穫があったんだ。希望を持って頑張ろう」


 ギードのその言葉に皆が力強い眼差しで頷き、マルティナたちは階段を登って地上へと戻った。

 外には、綺麗な夕焼け空が広がっていた。

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― 新着の感想 ―
 例の石が遺跡内部の動力として使われている、とか?
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