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図書館の天才少女〜本好きの新人官吏は膨大な知識で国を救います!〜  作者: 蒼井美紗
第8章 迷いの古代遺跡編

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134、迷いの古代遺跡へ

 ハーディ王国の王宮を出立してから数日後。マルティナたちは問題なく、迷いの古代遺跡にほど近い街に到着していた。


 そこは王国領内の街で貴族などはいなく、王家から仕事を任されている代官がいるのみらしい。四十代ほどに見える細身で優しげな風貌の代官は、比較的こぢんまりとした代官邸にマルティナたちを快く受け入れた。


「皆様、ようこそお越しくださいました。そこまで広い邸ではありませんが、ご自由にお使いいただければと思います。部屋が足りない分は、近くの宿屋を借り上げております」

「ありがとうございます。しばらくお世話になります」


 代表してギードと外交官の一人が挨拶をして、さっそく邸に入る。

 荷物を適当に下ろしたら、すぐに迷いの古代遺跡へと向かうことになった。今は昼を少し過ぎた頃なので、まだ探索するだけの時間はあるのだ。


「ここから迷いの古代遺跡は近いと聞いていますが、どのぐらいの距離なのですか?」


 さっそく遺跡に向かって歩きながら、マルティナが問いかけた。


「そうだな……こうして歩いて、数十分で着く。馬車で向かうには道の整備が甘いから、歩きで向かうのが一番いいな。急いでいる時は騎乗だ」

「それは、思っていたよりも近いですね」


 それなら何かあればすぐ街に戻れるし、食事の心配もあまりいらないだろう。そう判断して、マルティナは改めて気合を入れ直した。


(迷いの古代遺跡の全容を把握して、眠っているという貴重な情報を手に入れるんだ)


 グッと拳を握りしめてやる気満々のマルティナの隣には、もちろん護衛としてロランとサシャがいる。さらにアレットとラクサリア王国の騎士たち、そしてハーディ王国の調査団とその護衛の騎士たちも共に遺跡へと向かっていた。


 外交官や官吏は街に残り、情報収集や交流、雑務などをこなしている。特に外交官の半数は王宮に残り、ハーディ王国側とさまざまな取り決めをしている真っ最中だ。


「ハーディ国王陛下からいただいた資料や王宮図書館にあった遺跡にまつわる書物を読んだのですが、迷いの古代遺跡は珍しいタイプの遺跡であるらしいですね」


 移動中の雑談としてマルティナが話を振ると、ギードが瞳を輝かせた。


「ああ、何せ過去の誰かが大切なものを保管するために、わざわざ作ったものだからな。日常的に使われていた何かしらの建物が放置され、遺跡となったものとは全く違う」

「探検家にとっては心躍るやつだね」


 ギードの背中を強めに叩きながらそう言ったアレットは、これ以上ないほどに満面の笑みだ。ギードも背中を叩かれたことに文句一つ言わず、アレットと固く握手を交わしている。


「気が合うな」

「探検家にとっては当然さ。しかもまだ誰も攻略できてないなんて、最高すぎるね!」

「そういう遺跡を初めて探索できた時の喜びは、何よりも勝るからな。前に昔の大金持ちが作ったらしい、いろんな仕掛けの施された石造りの巨大建造物を攻略した時なんて、いい大人が思いっきり叫んじまったよ。嬉しくてな」


 過去の興奮を思い出したらしいギードに、アレットはぐいっと顔を近づけた。


「そんな話、あたしは聞いたことないよ⁉︎」

「そりゃあ、うちの国にある遺跡だからな。軽く報告書にまとめたぐらいだし、他国に情報は流れてないだろ」

「やっぱり他国の遺跡も巡りたいね……!」


 盛り上がるアレットとギードの話を聞いて、マルティナはうずうずとしている。


(やっぱり他国には流れてない情報や本って、私が考えてる以上にたくさんあるんだ。それを全部読めるとしたら……えへへっ)


 大量の本に埋もれた自分を想像しただけで、マルティナの口元がだらしなく緩んでしまっている中、少し落ち着きを取り戻したアレットが話を迷いの古代遺跡に戻した。


「それで、ギードは迷いの古代遺跡に入ったことがあるんだったね?」

「ああ、若い頃、まだ遺跡が立ち入り禁止になってなかった時にな。だからその時のことなら話せるぞ」

「え、それは本当ですか!」


 マルティナが初めて聞いた話に驚く。


「ああ、言ってなかったか?」

「はい。……あの、それならさっそくお聞きしたいことがあるのですが、いいでしょうか!」


 瞳を輝かせたマルティナの問いかけに、ギードは少し驚いた様子で頷いた。


「もちろんいいが……」

「ありがとうございますっ。迷いの古代遺跡の探索記がまとめられた本に、遺跡内をどう進んでも入り口に戻ってしまうと書かれていたのですが、それはどういうことなのでしょうか。記録は曖昧な部分も多く、詳細が分からなくて。遺跡の奥へと確実に向かっていたはずなのに、なぜか入り口に戻っているとか、入り口の反対方向に進んでいたのに、入り口に辿り着いたとか。あれは方向感覚が狂わされるような作りになっているということですか?」


 迷いの古代遺跡の探索記に一番多く書かれているのが、この入り口に戻ってしまう問題だ。マルティナがいくつもの書物を確認したところ、この現象が迷いの古代遺跡の全容把握を妨げている大きな要因となっていた。


 いや、大きな要因どころではなく、この現象を解明できないことで、遺跡探索が完全に止まってしまったのだ。


「俺にもはっきりしたことは分からないんだが、あれは方向感覚の問題じゃないと思うんだよな。実際に体験してもらえれば分かるだろうが、地図もしっかり描きながら探索して、確実に入り口から数百メートル以上は離れてるはずってところから急に入り口に戻るんだ」


 そんなことが現実に起こり得るのだろうか。ギードの話に、ほとんどの者が首を傾げた。


「道が少しずつカーブしていて気づかなかった……なんてことはないのですか?」

「絶対にとは言えないが、かなり可能性は低いはずだ。何度もそこを意識して地図を描き直したりしたが、やっぱりダメだった」


 ギードがそこまで言うのであれば、可能性はかなり低いのだろう。そう思ったマルティナは、顎にそっと指を当てて考え込む。


(地図は正確なのに辿り着く場所が違う理由……何かあるのかな。とりあえず、遺跡に入ったら道の向きを集中して見ておこう)


「そういえば、遺跡が作られた年代がよく分からないというのもたくさん記述がありましたが、これは珍しいことなのですか?」


 マルティナがもう一つの疑問を思い出して口にすると、まず反応したのはアレットだ。


「それは知らなかったけど、そんなに年代判断が難しいのかい?」

「ああ、結局いつ頃作られた建造物なのか、答えが出てないんだ。大体は百年ぐらいの誤差があったとしても、おおよそは算出されるから珍しいことだな……と、そんな話をしてたら、もう見えてきたぞ。あれが迷いの古代遺跡だ」


 ギードが進行方向を指差した。

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