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130、ハーディ国王に報告

 翌日の早朝。薬師の皆と軽く打ち合わせをしてから、さっそくハーディ国王へと謁見することになった。今回は簡易的な謁見となったため、比較的小さな一室で行われる。


 参加者はハーディ国王とその側近、護衛騎士、さらに数人の王国上層部の大臣たち。そしてハーディ王国の薬師とマルティナ、その護衛兼文書作成責任者としてロラン、それからラクサリア王国の外交官が数人だ。


 昨日の夜に外交官たちがハーディ王国側に申請を行い、謁見の場に同席することを許可された。


「して、喫緊の話とはなんだろうか」


 最初の定型的な挨拶を終わらせると、ハーディ国王がすぐにそう尋ねてくる。その表情は真剣そのもので、話の概要ぐらいは聞いているのだろうとすぐに分かった。


「私が代表してお答えいたします」


 そう言って半歩ほど前に出たのは、ハーディ王国の薬師である老年の男だ。猫背気味だった背中を頑張って伸ばし、緊張の面持ちで告げる。


「こちらにいるラクサリア王国からの客人であるマルティナ嬢が、現在ハーディ王国の不安要素となっている新たな病気について知識を持っておりました。私たちは昨日マルティナ嬢から直接その話を聞き、こうして陛下にご報告している次第です」

「ふむ、こうして翌日の朝に謁見を申し入れるということは、その知識を活用することによって、問題解決へと向かうのだな」

「はい。話を聞いた限りでは、上手くいけば感染者は皆助かるかと。しかしそのためには、早急な対応が必要です」


 その言葉に大きく頷いたハーディ国王は、さらに詳しい話へと移るためか、マルティナたちラクサリア王国の面々に視線を移した。


「薬師たちに話したというその情報を、詳しく聞かせてもらえるだろうか」


 個人を特定する形での問いかけではなかったため、ラクサリア王国側は一人の外交官が口を開く。


「かしこまりました。これからお話しする内容は、ラクサリア王国からの情報提供ということをご承知おきください。さらに情報源はわが国にある歴史書や古書の記述であり、必ず貴国の問題を解決するとお約束はできません。それでも問題ないでしょうか」

「ああ、問題ない。情報提供に感謝する。後ほど貴国には礼を送らせて欲しい」


 ハーディ国王が頷いたところで、外交官はマルティナを視線で促した。それに従って、マルティナは一歩前に出る。


「では、ここからは私が説明いたします。まずはこちらの資料をご覧ください」


 そう言ってマルティナが差し出した資料を国王の側近が受け取り、軽く中を検めてから国王に手渡す。それを確認したところで、マルティナはまた口を開いた。


「現在貴国で流行り始めている病気は、赤点病であると予想されます。詳細については後ほどご確認いただければと思うのですが、簡単にまとめると、赤点病は適切な薬があれば治る病気です。しかし薬がなければ大人で二割、子供で四割ほどが命を落とします」


 一番大切な部分のみを伝えてマルティナが口を閉じると、国王はしばらく資料を真剣に読み込んだ。たまに飛んでくる質問にはマルティナが即座に答え、室内には緊張感が満ちる。


 ハーディ国王が最後まで読み終えたところで、軽く息を吐き出して眉間を揉んだ。


「このように詳細な資料を用意していただき、心からの感謝を伝えたい。マルティナ嬢の知識量は本当に素晴らしいな……」


 感嘆の言葉がつい漏れてしまったというように呟いた国王は、居住まいを正すと真剣な表情を浮かべる。


「事態を軽く見ていたわけではないのだが、私はまだ楽観視をしていたらしい。――皆はどう思う。これからどう動くべきか、意見を聞かせてくれ」


 今度はハーディ王国の薬師たちに向けて問いかけた国王に、代表であるらしい薬師の男は僅かな焦りを露わにしながら言った。


「正直に申し上げますと、初期の感染者には対応が間に合わない恐れがあります。したがって少しでも多くを救うため、今すぐに新薬の調薬を始めるべきかと。それから罪人を使っての効果調査も行いたいです。さらに並行して病気蔓延の原因となっているだろう魔物の焼却、さらに虫の駆除も行うべきかと。薬は比較的大量に確保可能な素材を使いますが、それでも無限ではありませんので」


 少し早口で告げられた薬師の提案に、ハーディ国王が悩むことはない。薬師が口を閉じてすぐ、国王は大きく頷いてみせた。


「分かった。ではさっそく調薬を開始して欲しい。素材の確保は問題なく進みそうだろうか」

「昨日のうちにできる限り進めていますので、大きな問題はないはずです。しかしいくつか心許ない素材があり、そちらは陛下にご確認いただきたいです。足りないようであれば、お力添えをお願いいたします」

「もちろんだ。量の確保が心配な素材について、このあと報告して欲しい。また罪人での効果調査だが、こちらは申請書を出してくれ。すぐに承認する」

「かしこまりました。そちらも既に作成済みですので、この後すぐに提出させていただきます」


 そうして今後の動きが定まったところで、ハーディ国王は改めてマルティナたちに視線を戻す。


 そして真剣な表情で――頭を下げた。

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― 新着の感想 ―
 国民の為に他国人に頭を下げられるハーディ国王も名君だな。ラクサリアの近隣にこんな国があってよかった。
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