120、ハーディ王国到着!
マルティナたちの道中に大きな問題は起きず、無事にハーディ王国の王都へと辿り着いた。ラクサリア王国を出てからも先触れを出していたので国内とほぼ変わらない速度で進むことができ、到着は予定通りだ。
王都の外門に到着すると、すぐにハーディ王国騎士団がマルティナたちを出迎えに出動し、ラクサリア王国の調査団一行は目立ちながら王宮に到着した。
「やっと着きましたね」
「無事に着けて良かったな。ただこれからすぐにハーディ国王へ謁見だ。この先も気を抜く暇はないぞ」
ロランの言葉に、マルティナは気合を入れ直す。
「はい。頑張ります」
案内された客室に荷物を置いて少しだけ休んだら、すぐに謁見をすることになった。
謁見のメンバーは外交官が数人と、今回の共同探索で一番の重要人物であるマルティナとその護衛であるロラン、サシャ。さらにラクサリア王国側の探検家であるアレットだ。
雑務担当の官吏として同行しているナディア、シルヴァンの二人と、他数名の政務部官吏たちは、謁見の合間にハーディ王国側の官吏や使用人たちと打ち合わせをすることになった。
護衛として同行した騎士たちは、馬の世話や武具防具の手入れをしている。そして官吏や騎士の下について雑務を実際にこなす下働きの者たちは、忙しく皆の生活環境を整える時間だ。
「緊張しますね……」
謁見の間に入る前の控え室で、マルティナはドキドキとうるさい心臓を押さえていた。
マルティナは聖女召喚を復活させるために大陸会議で存在感を発揮し、稀有な能力を有しているが、あくまでも普通の平民なのだ。
他国の国王に正式な謁見をするなんて事態は、自分の人生で全く想像していなかった。
ラクサリア王国で他国の代表者たちと関わっていたのは仕事の延長という意識だったが、一官吏が他国への遠征に同行することはあっても、今回のナディアやシルヴァンのように謁見には参加しないのが普通だ。
したがって、今回の謁見はマルティナの中で官吏としての仕事の範疇を超えたところにある事態だった。
(ハルカも謁見したり、パレードをしたりしてるんだよね……改めてハルカは凄いね)
マルティナがハルカへの尊敬を強めていると、ロランが不思議そうに口を開く。
「大陸会議の中心となって仕切ってたのに、いまさら一国の王と話すだけで緊張するのか? あの場には国王も王女も王弟もいろんな人がいたぞ」
「それはそうなんですけど、官吏としてならあまり緊張せずにいられるんです。今回は謁見にも参加しますし、特別な立場みたいで……」
その呟きに、ロランが微妙な表情を浮かべた。
「ラクサリア王国にいる頃から、特別な立場じゃなかったか?」
ロランの言葉には、その場にいた他の者たち全員が頷く。そしてアレットが笑いながらマルティナの肩に腕を回した。
「マルティナ、そんなに緊張する必要はないよ。あたしなんて昔、国王陛下との約束を忘れたことがあるんだ。そんなあたしに比べたら、時間通りに来てるんだから完璧さ」
ニカッと良い笑顔のアレットだが、そんなアレットのことを外交官数名とロランがジトッと見つめた。
「アレットさん、それは全く自慢できるような過去じゃないですからね?」
「陛下との約束を忘れるなど信じられません」
「陛下が寛大なお人だから良かったものの……信じられない暴挙ですよ?」
皆から非難轟々でも、アレットはどこ吹く風だ。そんなアレットを見ていたら、マルティナはなんだか心が軽くなった。
「なんだか、大丈夫な気がしてきました」
「おっ、さすがあたしだね」
「アレットさん、褒めてません」
ロランのツッコミに全員が笑い、控え室内に穏やかな空気が流れる。
「マルティナさん、謁見なんて今夜のご飯について考えてたらすぐ終わるっすよ。俺たちを歓迎して、食事会が開かれるんっすよね! ハーディ王国の特産品がたくさん出るのか、今から楽しみで楽しみで」
目の前の謁見よりも夕食に意識が向いているサシャの言葉に、マルティナは完全に力が抜けた。
「サシャさん、謁見中はしっかりしてくださいよ?」
「もちろんっす! 仕事はちゃんとやるっすよ」
そうして気が抜けた雰囲気の中に、ハーディ王国側の官吏がマルティナたちを呼びにきた。ついに謁見だ。