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114、緊急会議

 会議はロートレックの司会進行で始まった。


「皆様、本日は急遽お集まりいただき感謝申し上げます。すでにご存じかと思いますが、こちらにいるハーディ王国からの使者の要請により、本会議が開かれております。ハーディ国王から、喫緊の報告があるようです」


 そこでロートレックは一呼吸おくと、下座に跪いている使者に対して、よく通る声で告げる。


「ではさっそく、ハーディ国王からの書状を読み上げてもらいたい」

「かしこまりました。皆様、本日はお時間をいただきありがとうございます。私が責任を持って、国王陛下からの書状を読み上げさせていただきます」


 そう言って手に持っていた紙を広げた使者は、国王からの書状を読み上げ始めた。最初は当たり障りない挨拶が続き、次第に本題へと入っていく。


「皆様は、ハーディ王国に迷いの古代遺跡と呼ばれる場所があるのをご存じだろうか。今まで我が国は何度も調査隊を派遣し、個人の探検家も調査を進めていたが、誰一人としてその全容を把握することは叶わなかった。十年以上前に犠牲者が出たことで、現在は立ち入り禁止となっている」


 思わぬ方向に向かった話の内容に、集まっていた各国の代表者たちは不思議そうに首を傾げた。マルティナもその遺跡に興味を惹かれつつ、どこに急いで報告をするべき要素があるのかと戸惑う。


 すると、次の話でそんな空気がガラッと変わった。


「その古代遺跡について、実は王家に代々伝わる書物に記載があるのだ。その内容は『貴重な情報が眠る。世界から奪われた巨石をここに納める』というもの。今までは我が国の歴史に関する事柄だと思っていたのだが、浄化石と還元石の話を聞き、関連があるのではないかと考えた」


 誰もがその情報の重要性に気づき、自然と顔を見合わせ合う。そんな中でマルティナも、心の中で大きくガッツポーズをしていた。


(もしその巨石が浄化石だったら、瘴気溜まりの問題が解決するかもしれない……!)


 先が見えなかったところに、いきなり特大の光が差し込んだ瞬間だ。マルティナは興奮から頬を紅潮させた。


(瘴気溜まりの問題が解決すれば、ハルカが危険を冒す必要もなくなる。それに現在進行形で被害を受けている人たちのことを、より早く救えるかもしれない!)


 さまざまな期待を胸に抱く中、使者は報告を続けた。


「我が国は、もう一度迷いの古代遺跡の探索を進めようと考えている。しかし今までの探索で成果を上げられていないことは純然たる事実だ。そこで、ラクサリア王国のマルティナ殿に助力を願えないだろうか」


 まさか自分の名前がハーディ国王の書状から出てくるとは思わず、マルティナは弾かれたように顔を上げる。


「貴殿の人並外れた能力の話は聞いた。その上で、探索を成功させるために不可欠な存在だと考えている。もちろん他国の力を借りる代わりに、結果が出た際にはその内容を大陸会議へ共有する予定だ。そしてマルティナ殿が一人で参加するのは色々と不安だろう。ラクサリア王国と我が国との共同探索という形にできればと考えている。他国の皆様にも、資金援助などの形で協力してもらえたら嬉しい」


 ハーディ王国からの思わぬ提案に、会議室内には困惑の空気が流れた。しかしすぐに、国王の手腕に感心するような雰囲気に変わる。


 自国だけで独占しようと考えても、肝心の探索による結果が出ないのであれば、いくら独占していても意味がない。それどころか探索では人材とお金が減るばかりだ。


 それならば結果を全て共有するという形で、他国の援助を受け入れてしまった方が早い。

 もちろん自国で独占できないというデメリットはあるが、探索の結果として得られるものが現状の危機を救う可能性が高いものならば、そのデメリットを相殺して余りあるメリットになるのだ。


 ハーディ王国のおかげで他国が助かるなんてことになれば、それは大きな貸しとなる。この探索をハーディ王国側から言い出しているというのも、重要な点だ。


「ただ時間をかけて探索をしたところで、的外れな情報しかないという可能性もある。探索が上手くいかない可能性もあるだろう。したがって、会議で今後の方針を決めてもらえたら嬉しい。私の要望は先ほど述べた通りだ」


 その後は書状も締めに入り、当たり障りのない挨拶で終わっていた。最終的な決定権がマルティナたちに委ねられているというのも、ハーディ国王の上手い点だ。


 これなら万が一探索が上手くいかなかった場合にも、ハーディ王国だけの責任にはならない。


 自分が深く絡む話にマルティナが緊張しつつ皆の反応を窺っていると、司会進行のロートレックが口を開いた。


「ハーディ王国にある迷いの古代遺跡を探索したいとのことでしたが、いかがいたしましょう。ご意見のある方は挙手をお願いいたします」


 その問いかけに数人の代表者がさっそく手を挙げた。当てられた王女が座ったまま告げる。


「私は探索すべきだと思いますわ。根本的な原因が解決するに越したことはないもの。……ハーディ王国に有益な情報があるというのは悔しいけれど」


 最後の呟きは周囲に聞こえないよう、王女の口の中で転がされた。


「かしこまりました。他の方もご意見をどうぞ」


 それから数人が探索への賛成を示し、反対する者はいなかった。有益な情報、もしくは浄化石があれば、瘴気溜まりの問題が一気に解決するのだ。反対する理由はないだろう。


 難色を示すとすれば、資金だけでなく人材も出さなければいけないラクサリア王国だが――ロートレックに水を向けられた国王は、鷹揚に頷いてみせた。


「我が国も賛成だ。早急に探索すべきだろう。ただ本人の意思も尊重したいのだが、マルティナはどう考える?」


 その問いかけに全員の視線が集まり、マルティナは緊張に喉を鳴らす。しかしその場に立ち上がり、はっきりと宣言した。


「私が力になれるのであれば、ハーディ王国に赴きたいと考えています」


 研究が進むかもしれないし、ハルカに会えるかもしれない。そんな期待感と合わせて、新しい本が読めるかもしれないという可能性もマルティナの背中を押していた。


(他国の本を読む絶好の機会!)


 頬が緩んでしまいそうになるのを必死に抑え、キリッとした表情を作っていたマルティナだったが、見る人が見ればうずうずしているのは丸わかりだった。


 しかし幸いにも他国の代表者たちには気づかれず、話は先に進む。


「分かった。ではハーディ王国に、我が国から調査団を派遣する方向で進めよう。人選は後々考えるとして……この場ではもう一つ決めておきたいことがある。もし探索に関して聖女ハルカの力が必要な事態に陥った時、助力を願うのは許可するか?」


 ハルカの動きについては、基本的に全て各国の許可が必要なのだ。寄り道をしているとそれだけ後に控えている浄化の旅が後回しになるので、仕方がない。


 今回の国王の提案にも難色を示す国はあったが、話し合いの末、結局はハルカへの助力も容認された。それだけ今回の探索には、各国が期待しているということだろう。


「では本日の会議はここまでといたします。皆様、急遽お集まりいただきありがとうございました。また今後の動きについては追ってご連絡させていただきます」

 

 ロートレックが終了の挨拶をして、突然開かれた緊急会議は終わりとなった。しかしマルティナにとっては、ここからが始まりだ。


 各国の代表者たちが下がっていく中、マルティナは国王に呼ばれてその場に残り、今後に関する話を進めた。

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