私の親友。
【私の。】シリーズの2作目です。
私には大事な後輩がいる。その子は派手でもなければ地味でもない、普通の女子高生。まぁ、そのおかげで自分を着飾らずに気楽に付き合える。何より、からかうと面白い。
私は心を許してる証として、その後輩を親友と呼んでいる。まぁ、同年代にも親しい友人はいるが、後輩ほど仲が良いとは言えない。
「ねぇ、私の話聞いてる?」
「えっ!?ああ、そうですね、あはは」
私の問いに上の空で返事したのが、後輩だ。そういえば、大事な後輩だの親友だの言ったのに名前を紹介するのを忘れてた。この子の名前はサキ。
サキはここ最近、上の空な事が多い。先程のように話しかけなければ、何か思い詰めたような深刻そうな顔をする。何を悩んでるんだか………よし、家に帰ったらあいつに相談してみよう。
「ヨータぁ、最近ね、私の後輩が何か悩んでるみたいなんだよね~」
「抱きつくなよ!姉ちゃん」
私は家に帰ると早速、4つ下の弟に相談する。抱きつくのは………まぁ、日常的な事だ。
「どうしたらいいと思う?」
「知らないよ!だいたい、悩みを打ち明けないって事は姉ちゃんが頼りないって事だろ!」
「私………頼りないの?」
「知らないよ!いいから、離せよー!」
弟に抱きついたままフリーズした私は脳内でサキとの思い出を思い起こす。そういえば、あの子、私の事を名前で呼んでくれた事ない。これはマズイ、私の親友という想いが一方通行の可能性がある。
「よし!姉ちゃん、明日、後輩の悩み相談に乗るよ!」
「いいから、離せー!」
次の日、早速、私はサキの相談を聞き出す事にする。
「ねえ、最近、なに悩んでるの?」
「え!?」
「悩んでるでしょ?」
「ど、どうしてそう思うの?」
何か悩みを抱えてるのは確実。でも、相談してくれないし、今だって、すぐには答えてくれない。私、そんなに頼りにならないのかな………へこむなぁ。もう少し踏み込んでみるか。
「サキ、最近のあんたボーッとしたと思ったら、急に深刻そうな顔してるのよ?」
「そ、そうかな?」
「相談に乗るから話してみなさい」
「え、えと………わ、私も来年は受験だなぁと思って進路を考えるのが憂鬱で……えへへ」
この子は嘘が下手だなぁ、私も親友を自称する以上は放っておけないし、マジって所を見せようかな。
「うそ」
サキの目を真っ直ぐ見つめた。これで答えてくれるといいけど……
「…………」
あれ?黙っちゃった。これかぁ、最近の若い子は打たれ弱いってやつ。いや、まぁ、私もそう呼ばれる世代なんだけどさ。
「はぁ、なんで悩みを話してくれないの?」
「それは……話したら先輩は私の事を嫌いになるから」
私がサキの事を嫌いに? そんな事ありえないと思うけどなぁ。悪意さえなければ、大抵の事は受け入れられる自信もある。とりあえず、話が一歩前進した事だし、もう少し話を続けてみるか。
「なにそれ?サキは私を傷つけようとしてるの?」
「ちがう!」
びっくりした。ハッキリと否定できるって事は私を故意に傷つけようとしてるわけじゃない。つまり、悪意はない。なら、次に私が返す言葉は決まった。
「なら、嫌いになんてならないわよ」
「傷つけなくても嫌いになる事はあるよ……」
うーん、どういう事だろう。少なくともサキは私に嫌われるのを恐れている………んだよね。何か安心できる言葉を言ってあげれば少しは話しやすくなるかも
「何に悩んでるかは知らないけど、何を話したとしても私はあんたの親友。それは変わらないわ」
これで話してくれたらいいけど……
「私は!先輩の親友じゃなくて恋人になりたいんです!!でも、こんな事を言ったら先輩は私を気持ち悪く思うでしょ?だから、私はずっと、この想いを隠していたのになんで聞いちゃうんですか!!」
あちゃー、そういう事だったのね。私は悩み相談のつもりで話してたけど結果的にサキを追い詰めてしまったわけだ。私の責任だね。でも、その気持ちには答えられそうにない。
「そっか………ごめん」
先に謝ってしまった。この後に続く言葉はまだあるのに……サキを傷つけてしまうんだろうなぁ。
「私の恋愛対象は男なんだよね」
言ってしまった。
「うぅ…ううぅ」
やっぱり、泣いちゃった。私、どうすればよかったんだろう。自分の心を偽ってサキの告白を受け入れる? ううん、そんなのは絶対ダメだ。いつか必ず破綻するし、互いの為にならない。
「いっぱい、泣きな」
気がつけば私はサキを抱き締めていた。追い詰められた挙げ句、告白も失敗、サキは明日から大丈夫だろうか、一応、同世代の友達は居るみたいだけど、こんな事を相談できるような関係ではないだろう。現に今の今まで隠してきたのだから、ここは私がいつでもサキの味方である事を伝えなきゃね。
「私はサキの親友だよ。あんたの告白を断ったけど、あんたの親友」
「ううぅ………わあぁぁぁん」
ちょっ、そんなに泣くとは思わなかった。うーん、サキばかり不公平だよね。私も誰にも言えない秘密を話すね。
「サキ……私もね、誰にも言えない秘密があるんだよ。それもサキと同じ恋の秘密。それもね、私のは禁断の恋ってやつ………私ね、弟の事が好きなんだ」
そう、私は実の弟に恋してる。これは誰にも話した事はない。サキに初めて打ち明けたのだ。
「私はこの想いを弟に伝える気はないんだ………だからね、サキの気持ち、少しわかるんだ……サキ?」
いつの間にかサキは大人しくなっていた。
「寝ちゃったか」
寝てしまったサキに膝枕をしてあげる。しばらくするとサキは目覚めたが寝ぼけてるのかフラフラしてる。放っておけなかったから、家まで送り届けたが、その道中、会話は無かった。
「ただいまぁ」
サキを送り届け、私も帰宅。
「あ、姉ちゃん。プリン美味しかったよ」
リビングに入ると私の弟、ヨータがプリンの感想を私に伝える。そのプリンは私が買った私の為のプリンだった。悲しい事にそのプリンは空の状態でテーブルの上に置いてある。こんなヒドイ事をする人は誰? 犯人はすでにわかってる。
「こんな悪い事するのはこの口かぁ?」
「イデデッ」
この愛らしい………憎たらしい頬をつねる。
「姉ちゃんが帰って来るのが遅いからだろ!」
「こうなったら、あんたが食べたプリンをその口から吸い出してやる」
「ゲッ!来んなー」
ヨータは走って自室へ逃げてしまった。可愛いヤツめ。
サキには話したが、私は弟のヨータの事が好きだ。恋愛対象としてだ。これもサキに話した通りこの想いを伝える気はない。気づかれないように日頃から、お茶目な姉を演じてるし、例え誰かに勘づかれ指摘されたとしても私は誤魔化し通すだろう。私の想いは………私の願いはヨータが普通に幸せな道を歩む事なのだから。
次の日の朝、私はコンビニに立ち寄っていた。
「うーん、どれにしよう」
私はどのお菓子を買うか迷っていた。昨日はサキとあんな事になったし、サキも顔を合わせるのは気まずいだろうし、沈黙に備えて話題のアイテムとしてお菓子は最適だと思い今の状況だ。
「新商品か……よし、これにしよう」
お菓子+新商品、これなら話題もできるはず。
そして、昼休み。
私はいつも昼休みサキと過ごす体育館の裏を目指す。
「あ……」
体育館の裏に着くとサキの姿があった。よかった、いつも通り来たんだ。
「よっ!サキ、一緒に昼ごはん食べよう♪」
サキは私の挨拶を無視し背中を向ける。やっぱり、気まずいかぁ、ここは強引にいくとしよう。
「待ちなよ」
私はサキの腕を掴んだ。以外にもサキは抵抗する事なく、いつも座るちょうどいい段差に腰を下ろす。あれ? 少しは抵抗するかと思ったけど、まぁいっか。
「サキ、これ新商品なんだって~♪」
しまった!沈黙を打開する為の切り札を早々に使ってしまった。
「昼ごはん食べるんじゃないんですか?」
私もそのつもりだったけど、手順を間違えて切り札を切ってしまったんだよぉ。意地でもこの切り札の威力を味わってもらうからね。
「いいじゃん、いいじゃん♪美味しいよ♪」
私はスティック状のお菓子でサキの頬をつつく。食べろ、食べろ、食べてくれよー
「あむ」
私の願いが届いたのか、サキはお菓子を一口食べてくれた。
「……美味しい」
よっしゃ!サキの『……美味しい』を引き出せた。このまま会話を……
「だしょー」
慌てて喋ったから変な言葉出ちゃった。
「くっ……ふふふ、何ですか?『だしょー』って?」
笑った!この調子で会話を続けよう。
「『だよねー』って言おうか『でしょー』って言おうか迷ってたら合体しちゃったんだよ」
「ふふ、ふふふ♪」
「笑いすぎ~」
この後は今まで通り過ごす事が出来た。お菓子の威力は絶大だ。ありがとう、お菓子。ありがとう、新商品。
そして、あっという間に私は卒業を迎え、私は大学へ進学した。進学をキッカケに一人暮らしを始めた私は母の偉大さを身をもって知る。ヨータとのスキンシップもなくなり、部屋に居るときは忙しさの後に退屈が押し寄せる。サキとも周に1、2回、土日に会うくらいだ。嗚呼、これが大人になるって事か……
新しい生活から約1年、サキも高校を卒業し大学へ進学。ここは先輩として一人暮らしの心得を教えてやろう。
「サキ、一人暮らしはどう?」
「んー、すごく楽しいです♪」
「楽しいの?大変じゃなくて?」
「はい♪いつもは夕飯とか母さんの手伝いばかりで私の作りたいもの作れなかったですし、掃除も嫌いじゃないですし」
この子、もともと持ってるポテンシャルが違うんだわ。私なんて自炊は周に2、3回くらいだし、洗濯物は溜め込むし、掃除なんてGが出ない為に仕方なくやってるくらい。
「へ、へぇ、ちゃんと生活できてるんだぁ」
「先輩は……危なそうですね。掃除とか」
「し、失礼ね!ちゃんとやってるわよ!」
嘘は吐いてない。ただサキとは掃除へのモチベーションが違うだけだ。
サキの新生活が順調なのを確認してから、しばらく経った。ある日、サキと昼食を食べてると、高校時代に見た覚えのある光景を目にする。それはサキに関する事だ。私と話をしてても上の空だし、放っておいたら思い詰めたような深刻そうな顔をする。なんか、デジャブだなぁ、これは何か悩んでるな。私に打ち明けてくれないのは悔しいし直接、聞いてみよう。
「ねぇ、サキ、なに悩んでるの?」
「え!?」
この驚いた顔、図星だな。間違いない。
「えーと………あっ!あの………」
なにが『あっ!』よ。誤魔化そうとしてるわね。私、そんなに頼りにならない? その悩みを聞き出して解決してみせるわ。
「誤魔化さなくていいから」
釘は刺した。これで答えてくれなかったら泣いちゃうぞ。
「………好きな人……できた」
あの時と同じ恋愛の悩みかぁ。
「どんな人なの?」
「んーと、髪は短くて、性格はサバサバしてる……かな?」
そういえば、あの時は聞ける雰囲気じゃなかったから聞けなかったけど、サキは同姓の女性が好きなんだよね? 聞いてみるか。いや、それは無神経だよなぁ……
「女の人よね?」
気づけば、この言葉が出た。
「悪い……ですか?」
やっちゃった、完全に警戒してるじゃんか。私のバカ。
「ごめん、私の聞き方が悪かったわ。その人とはどこで出会ったの?」
「喫茶店です」
「へぇ、話はしたの?」
もしまだなら私が恋のキューピットになってあげるわよ。
「はい!その喫茶店はお客さんがほとんど居なくて落ち着いた店なんですけど、私がボーッとしながらコーヒーを飲んでいたら話しかけて来たんです!なんか、店長さんはパチンコに行くからって店番をミチルさんに任せてて……あ、ミチルさんって人がいま私が好きな人で、ミチルさんはその店でバイトしてて………ごめんなさい」
相手はミチルって言うんだぁ、それにしても、すごい勢いで喋ってたなぁ。
「へぇ、そんなに好きなんだ~」
「……はい」
サキの顔、真っ赤。恋する乙女はかわゆいのぅ。そんなに好きなら告白すればいいのに……いや、そういう考えは無責任か、特にサキの恋愛事情だとね。とりあえず、その気持ちがあるか聞いてみるか。
「告白しないの?」
「でも、振られるかも」
だよね、振られるのは怖いよね。それに私との一件もあるから余計にだろうね。でもね、サキ……あんたは私の希望なのよ。身勝手だけど、あんたにはその道を進んで欲しい。私が選ばなかった道を……だから、
「私はあんたの親友よ!振られたら泣き止むまで抱き締めてあげるし、成功したら祝福してあげる!だから、気持ちを伝えてみたら?」
私の言葉にサキは小さく頷いた。
それから、数日後。
「ん?電話?もしも~し」
「せんぱ~い♪私、私、」
電話の相手はサキだった。やたらテンションが高い。
「なになに?落ち着きなよ」
「はい……」
「で?どうしたの?」
「私、告白成功しました!」
そんなのメッセージアプリで報告すればいいのにと思ったが、サキの嬉しそうな声を聞いたらメッセージアプリの優位性がなんなのかわからなくなった。
「よかったじゃん!」
心の底からそう思う。正直、振られた時に備えて慰めの言葉や新商品のお菓子をリサーチしていた所だ。まぁ、お菓子のリサーチは無駄にはならないだろう。
それ以来、頻繁にサキの惚気話を聞かされた。
そんなある日
ピンポーン
昼間、部屋でごろごろしてるとインターホンが鳴った。だが、私はその音が聞こえなかったかのようにごろごろ。
ピンポーン
また鳴った。アポイントがない人とは会いませんよ。
一人暮らしを始めてから突然の来訪者の面倒くささは理解している。だいたい、勧誘だ。だから、私は居留守を決め込む。あっちもそういう対応に慣れてるから、すぐ立ち去るだろう。
ドンッドンッドンッ
嘘でしょ、今日のはしつこい。
(姉ちゃーん、居ないのー?姉ちゃーん)
「え!ヨータ!?」
聞き慣れた間違えるはずがない声に私は飛び起き、玄関へ。そして、勢いよくドアを開けると目の前にはヨータの姿があった。
「ちょっと、ヨータ!来るなら連絡しなさいよ!ビックリしたでしょ」
「だったら、もう一回ビックリするよ♪」
ヨータがそう言うとドアの陰から女性が現れた。そういうこと………私は察した。その女性はヨータの彼女だ。
「初めまして、私、ヨータさんとお付き合いさせてもらってます。ミオって言います」
「ど、どうもご丁寧に………あ、二人共、入って!歓迎するわ」
一瞬、彼女さんを威圧しそうになったが、慌てて二人を歓迎した。
「お邪魔します」
「へぇ、以外に散らかってないんだねぇ」
「当たり前でしょ!私は大学生なのよ!ほぼ大人なんだから」
「でも、台所はあまり使ってるようには見えないけど?」
「うるさいわね、いいから、そこら辺に座りなさいよ」
「はぁい」
「失礼します」
彼女さんは礼儀正しいなぁ、初対面だから、そりゃそうか。
「そうだ!ヨータ、お菓子買ってきて」
「え~、座ったばっかりなのに~」
「来客用のお菓子が無いのよ。あんたが前もって連絡してれば、こんな事にならなかったのよ。はい、これお金ね」
私はヨータに千円を渡した。
「わかったよ、俺が居ない間にミオをイジメんなよ?」
「はいはい」
ヨータは買い出しに出ていった。これで彼女さんと落ち着いて話ができる。
「ふふふ♪」
「なに?」
「いえ、ごめんなさい。ヨータくんから聞いてた通り仲が良いんですね」
あいつ、彼女さんに私の話をしてたのか、嬉しいような恥ずかしいような。
「ヨータ……私の事、どんな風に言ってるの?」
これは凄く気になる。私が居ない所で私の話をするって事はそれは限りなく本心に近い言葉だろう。
「えっと、お茶目なお姉さんって感じですかね。正直言うと私、お姉さんに嫉妬してたんです」
それはこっちのセリフだと言いたいが言えるはずがない。
「そ。姉として最高の誉め言葉として受け取っておくわ。そうだ!あいつの恥ずかしい話とか聞く?」
「聞きたいです!」
私は彼女さんにヨータが恥ずかしがるであろう話を包み隠さず話した。
「それでね……」
「お菓子買ってきたよー」
話に盛り上がっていたら、ヨータが買い出しから帰って来た。
「二人共、なんの話してたの?」
「ふふふ、ヨータくんが何歳までお姉さんとお風呂に入ってたのかとか、です♪」
「そうそう、ヨータは母さんより私と一緒に入りたいって言って、母さんはすごく落ち込んでたっけ」
「ちょ、変な話をミオに吹き込むなよ!」
ヨータの慌てっぷりで私の話の裏付けが取れたようなもんだ。
「いいじゃん、ミオちゃんは私の妹になるんだから♪」
「はい♪」
「なんで、短い時間でこんなに仲良くなってるんだよー」
お菓子も届いたし、このあと、しばらくヨータにとって恥ずかしい時間が続いた。
「ふぅ、たくさん喋ったわね」
「ですね」
「喋ってたのはほとんど姉ちゃんとミオだけどね」
「拗ねないでよぅ♪」
いつものノリでヨータに抱きつくが、今はもう彼女が居る身、すぐに離れた。
「姉ちゃん?」
ちょっとした事だったが、ヨータはその違和感に気づいたようだ。
「恋人同士、水入らずにしてあげたいけど、ここ私の部屋なのよね」
誤魔化すついでに二人が帰りやすいよう皮肉を言う。
「長居しすぎましたね!帰ろう、ヨータくん」
「姉ちゃん、余ったお菓子全部食べていいよ」
「私の金で買ったんだから、当たり前でしょ!」
この子はホント…………
私は出ていく二人を玄関まで見送る。
「ミオちゃん、ちょっと待って!」
私はミオを呼び止めた。いつの間にかちゃん付けで呼んでたのは私自身も気づいてなかった。
「はい?」
「ヨータを幸せに………ヨータを私の分まで幸せにしてあげてね」
「はい!」
ミオは快く返事をしてくれた。『私の分まで』、この言葉に込めた意味、想いを理解してもらえただろうか。いや、理解してもらう必要はない。その言葉は自己満足だ。それでいい……
静まり返った部屋で私はまたごろごろする。何も考えずにごろごろできれば、よかったのだが、それは無理だった。
私は私の想いを内に秘めたまま進む事を決めていたのに……それはヨータの幸せを願っての事だったのに……私のスキンシップが私を女として見てもらえなかったのかな? どうすれば、私はヨータと結ばれてたのかな? 違う! 違う違う! 何度も自分に言い聞かせてたじゃないか、ヨータに普通の幸せを……
でも、やっぱり、辛いよ。
私は大声で泣き出していた。こんな姿、サキにも誰にも見せられない。一人暮らしは苦労する事が多いが、一人暮らしをしてよかった。
私の不戦敗の恋から数日後。
「ん?サキからメッセージ?『今日、先輩の部屋に行きますね!あ、ミチルも連れて来ます!』か……」
私はアポイントがない限り居留守を使う、だからといって、当日にアポイントを取ればいいと思ってもらっては困る。まぁ、サキだから許すけどさ。
ピンポーン
しばらく、経ってインターホンが鳴った。サキが来たのだろう。私はヨタヨタと玄関へ。
「一週間ぶりね、サキ」
「一週間ぶりですね、先輩♪」
「その人が?」
サキの隣に居る女性を見てサキに尋ねる。
「はい♪」
機嫌良くサキは答えた。ところで私の部屋に恋人を連れて来るのがブームなのだろうか?
「んーと、彼女さん?彼氏さん?」
この時の私は不機嫌だったのかもしれない。意地悪な質問をしてしまった。
「先輩、そういうのセクハラ、モラハラですよ」
よかった、注意してくれて、このままだとただただ悪い印象だけが残りかねない。
「恋人です!」
ふぅん、ちゃんと断言できるのね。ふざけた気持ちでサキと付き合ってる訳じゃなさそうね。
「今日は私の親友とその親友の大切な人が来るって聞いてたから、曖昧に答えてたら追い返してた所よ。どうぞ、歓迎するわ」
二人を部屋に招き、私は台所へ。
「勝手に寛いでぇ」
ヤカンにお湯を沸かしマグカップを三つ用意。そこにインスタントコーヒーを入れお湯を注ぐ。一つのマグカップには牛乳と砂糖をスプーン三杯入れる。これはサキ用だ。私はブラックだけど、ミチルさんは……聞いた方が早いか
「私、ブラックだけど、ミルクと砂糖いる?」
「私はブラックで大丈夫です」
「はい、これはサキ、あんたのよ」
サキ用に調整したコーヒーを渡し
「これはミチルさんの」
もう一つのマグカップをミチルに渡した。
「………」
「………」
話題、話題、どうしよ、なに話そ。
「………ズズーッ」
この子がこんな音を立てて飲むなんて珍しいわね。
「あの!初めまして!私はミチルって言います!」
ああ、あの子なりの気遣い……プレッシャーだったわけね。
「うん、サキからいろいろ聞いてるわ」
「いろいろって?」
「いろいろはいろいろよ。ファーストキスの話とか、苦手な物とか、他にも……」
「あーーー、いいです!言わなくていいです!」
この子のリアクション面白いかも。見た目とは反対にからかいがいがありそう。会話をしながら、からかう為の材料を探してたら自然とサキの失敗談の話で盛り上がっていた。どうやら、同じような事をミチルにやっているようだ。
「ふぅ、恋人相手にも同じような事やってるのね。サキ」
「え?えへへ」
あれ? もしかして、また何か悩んでる? うーん、それとはちょっと違うような雰囲気だけど鎌かけてみるか。
「それで?今日は私に恋人を紹介しに来ただけじゃないんでしょ?」
「え!?そうなの?」
ミチルさんは何も知らなさそうね。
「うん、まずは先輩に見せなきゃいけないから……とりあえず、ミチル。こっち見て目を瞑って」
「う、うん」
何する気かしら。
「ん!んんん!?」
キス……キスしてるわよね。なんの為に
「ちょ、サキ!どうし……んんん」
サキがこんな強引な事するなんて思ってもみなかった私は二人の行為に見入ってしまっていた。
「どうですか?先輩」
強引にして熱烈なキスを終えたサキは私に尋ねる。でも、私には何を聞いてるのかがわからず
「なにが?」
聞き返した。
「私は女性であるミチルが好きです。愛してます!」
「知ってるわよ!今更、疑ってなんかないわ」
「じゃあ、先輩にとって私は何ですか?」
そういうこと、それが聞きたかった訳ね。答えは決まっている。今の行為は無駄だ。決して変わらないのだから
「私はあんたの“親友”。あんたの好きな人が変わっても私はあんたの“親友”よ」
今回は自分から動いたんだね。偉いよ、サキ。私ね、恋に不戦敗して以来、辛くて死んでもいいかなって思ったりもしたんだよ。勘違いしないでね、死にたい訳じゃないよ。でもね、サキ、私はあんたに自分を重ねて見たりしてたんだ。だから、あんたが幸せを掴めたらホントにすごく嬉しいんだよ。私には出来なかった………ううん、しなかった事をあんたはやってのける。私はあんたから勇気を貰ってるんだよ。残念だけど、その勇気が向かう先はヨータへの想いじゃない。それは完全に諦めてるから……
あんたから貰った勇気は私の生きる活力として使わせてもらうね。だから、サキ、あんたはあんたの幸せを私に見せて。
どうもです。【私の先輩。】の別視点の話です。もともと短編で書いたけど楽しくなって別視点の話を書く事になりました。短編なのにごめんなさい(/o\) あと2作品、ミチル視点と完結編を書く予定です。完結編は書くかはちょっとビミョーなんですが、楽しみにしてもらえると嬉しいです! ではでは