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異世界に向って撃て!!~頼みの綱は6連発~  作者: 秋津モトノブ
駆け出し冒険者ウエストウッド
54/80

54話 秘密はお互いにバラした方が精神衛生上、いい。

「―――ってわけであの連中、昨日人を使ってオレを尾行させてたんだわ」


「ちょお待てウッドの方かい!?そっちから攻めてきたんか……」


 ギルドを出て、道すがらにマギやんに例の犬コロのことを軽く説明。

このままガモスのおやっさんの店には行かず、街の外へ出るつもりだ。


「それで、今は尾行とかあるか?」


「……むーん」


 横を歩くマギやんが、いつか見た金属片を胸元から取り出した。

アレは、魔法に反応するっていうやつか。


「とりあえず、ウチらに向けられた魔法はあれへんな。尾行も……ないやろ、さっきの連中の鎧の音は『覚えとる』さかいな」


「しれっとすげえこと言うじゃねえか。さすがドワーフってか?」


 鎧の音ォ?

全部ガチャガチャにしか聞こえねえな、オレぁ。


「ホンマに腕のある追跡手やったらお手上げやけどな。あの獣人連中はそれほどでもあれへん」


「ほーん……あの場で食って掛からないだけの分別はあったけどな」


「ウッドの煽りにもよーう我慢しとったけどな~、それはそれや。特に取り巻き連中は駄目やな……ありゃ肉壁要員やろ」


 あー、後ろにいたピットブル2匹か。

アニキとか言ってたし、あながち間違いじゃねえかも。


「だけどな、あの時オレを探ってたのは全部で6人だ。残り3人の方が問題かもなァ」


 表に出てこない分、顔もわからん。

あの時だって3人はフード被ってたしよ。


「考えとるだけやったらジリ貧やで!『名剣は抜かれてこそ輝く』っちゅうやろ」


「……はは、そうだなァ」


 マギやん、異世界ことわざ好きだな。

前の世界にもいた、格言をわざわざ引用する上司を思い出すぜ。

まあ、マギやんはあんなバーコード禿げと違って美人だし巨乳だし性格もいいが。


「さあ!切り替えていくでウッド!お仕事やお仕事!バンバン依頼達成して2人で銀級に昇格や~!!」


 おー!とでも言うように、マギやんが拳を天に突き上げてずんずん歩き出す。

オレの胸より身長が低い癖に、まるで巨人みてえに頼もしいや。


「了解了解、お姫様」


「それやめてんか!!はっ倒すで!!!」


「ハイ!!」


 おっかねえ……


 しかし前の世界の上司……前の世界、ね。


 ……そろそろ、潮時かねェ。

オレもここらで、腹ァ括ってカミングアウトすっかな。

マギやんの秘密だけ知ってるってのは、フェアじゃねえもんな。

仲間なんだから。



・・☆・・



「あのよ、マギやん」


「んん~?」


 街から出て、しばらく歩いた。

今回の採取依頼の目的地は、街からほど近い草原。

周囲が広く見渡せるので、魔物や人の襲撃を察知できる。


 そんな草原を歩きながら、マギやんに問いかけた。

オレの前を歩いていた彼女は、こちらを振り向く。


「……目的地っての、まだかね」


「せっかちさんやな~、『カヨコ花』はまーだ見えてきぃひんな。アレ、どぎつい紫色やから遠くからでもすぐにわかるんや」


「ほーん」


 たしかにどこを見ても緑色一色だ。

まだ先らしいや。

それにしてもその花発見したの、絶対同郷の奴だろ。

ちょっとは隠す努力をしろや。


「変わった名前の花なんだなァ」


「おー?言われてみればそうやなあ、なんでも大昔のえっらい薬師さんの奥さんの名前らしいで」


 おっと、そりゃ変な名前なんて言って悪かったか?

異世界に来たことで二度と会えなくなった……とかだと、その名前も切なく感じる。

前にモンコが言ってた薬師が名付け親かな?


「へえ、奥さん」


「花の名前にするくらいやろから、さぞ別嬪さんやったんやろなあ……ウチとええ勝負かもしれん!」


「……あー、うん、そうだといいな」


「突っ込まんかい!!スカされるとウチがただのアホになるやろが!!」


 えー……ボケとツッコミって、異世界でもこんな感じなのかよ。

ちょっと帝国に行きたくなってきたな。

〇世界みたいなイメージに固定されつつあるぜ、オイ。

串カツとか売ってねえかな。


「はいはい……お、アレじゃねえのか?あからさまに紫のゾーンがある」


「流しなや!!まったくもう……ウッド、他国人の癖しよって高等技術まで習得しとんな……親戚に帝国人おったんちゃうか」


 前方に紫色の塊を見つけたので、マギやんを追い越す。

後ろからぶつくさ文句が聞こえるが、まずは採取だ採取。

依頼分を確保して、ゆっくり話をしよう。



「ひいふう……よっしゃ!これで30株や!楽な仕事やったなあ~」


「臭いが少々きっついが、まあ概ね同意だぁな」


 地球で言う所の山百合を少し強くしたような香りのする『カヨコ花』

ソイツを、マギやんと手分けして指定された数だけ回収した。

魔物が出ることもなく、簡単な仕事だった。


「しっかし、2株で銀貨1枚……もっと持って帰りてえもんだな。ゴブリンやら狼やら殺すよりもよっぽど楽じゃねえか」


 が、何故かこの依頼……厳格に個数を指定してある。

根こそぎ持って帰りてえんだが、マジで。

かなりの数が自生してるから、まだまだ取れそうなんだが。


「そないに美味い話はあれへんで~。この花は強力な魔物避けの材料になるんや、取り過ぎるとそこに魔物が溜まるさかいな……やから、『群生地1つにつき最大30株』の制限なんや」


「あ、そういうわけかい」


 ここいらに魔物がいねえ理由がわかったぜ。

この匂い、人間にも少々きついが魔物にとっちゃもっと辛いらしいや。

そりゃあ、取りすぎるわけにゃいかねえな。


「ふい~、中腰は腰にくるで~……ウッドウッド、ちょい離れた所で飯にしよか。風上なら臭いはけーへんけど、効力はばっちりや」


 マギやんが腰をポンポン叩いている。

……中腰だけじゃなくって、素敵な巨乳のせいでもあるんじゃねえのかな。

ドワーフパンチが怖すぎるから何も言わねえが。


「お、そうすっか……今日の味は何にする?」


「う~ん……辛いヤツや!」


「どっちの?」


「赤い方の気分やな!!」


 チリビーンズね、了解っと。


「ウッドの缶詰、美味いからな~!これだけでもコンビ組んだ甲斐があるっちゅうこっちゃ!」


「へいへい、そいつは嬉しいね」


 おそらく、飯のことを考えながらウキウキな様子で歩くマギやんを追いかけた。

こうして見りゃ、オレよりも年下にしか見えねえんだが……実年齢はどれくらいかねェ。

オンナにおいそれと年齢を聞くわけにゃいかねえからな。



・・☆・・



「マギやんよ、もういいのか?」


「お腹さんがポンポンや~、これ以上食うたらオークになってまう~」


 『無限チリビーンズ』にパンをひたしてひたすら食ったマギやんは、地面に寝転がっている。

たしかに、その腹はぽっこりとしている。

……鎧は解除されてるから、腹以上に胸が大変なことになっていて誠に眼福だ。


 ちなみに、缶詰はオレのものだがパンはマギやんのものだ。

オレがスープを提供し、パンはマギやん。

何となくそんな感じになっている。

オレの元手は0だから心苦しいんだがな。


 ……さて、頃合いかねェ。


「マギやん、ちょっと話がある。そんなに大したことじゃねえからそのまま聞いてくれ」


「ん~?なんやなんや改まってからに~?」


 そのままでいいと言ったのに、マギやんは律儀にも身を起こした。

マジメだねェ。


「マギやんが王族だって言ってくれてから、オレも考えてたんだ……こっちだけ知ってるのはフェアじゃねえってな」


「ふぇあ?」


 え、これ翻訳されてねえのかよ。

うーむ、塩梅がよくわかんねえな、翻訳の加護。


「あー……公平じゃねえってこったよ。マギやんはどうか知らねえが、オレはそういうの、あんまり居心地がよくねえんだ」


「ウッド、意外と頑固やなあ。気にせんでもええのに」


 困ったように笑うマギやんに、オレも苦笑を返す。


「性分ってやつだ……それで、その……」


 この世界で日本人ってのは厄ネタだ。

ひょっとしたら王族云々よりも。

……これを言えば、マギやんが引くかもしれん。

しれんが、言わねえわけにもいかねえな。

 

 それが、誠意に対する誠意だ。



「―――オレぁ……ミディアノ人じゃねえ。『ニホンジン』だ」



 いざ言うとなると、気後れしちまうな。

だが、言ったぞ。

さあ、マギやんはどう出る……?


 帽子の鍔で視線を隠しつつ、様子を窺う。

マギやんは、オレの方を呆けたように見て……



「ほーん、マジかいな。めっずらし、ウチ、初めて見るわ!へぇ~普通の人族やん!!」



 そう、歯を見せてカカカと笑ったのだった。

 

 ……思ってたのと違ェ!?


「あのよ、オレが言うのもなんだが……それでいいのか!?ニホンジンっての、だいぶ評判が悪いんだろ!?もっとこう……引くとかビビるとかねえのかよ!?」


「んむ~?この国やとそうなんか?帝国やとそないに嫌われてへんけどな~」


 ……地域性とかあんのか?

向こうのご同輩はそんなに暴れたりしてなかったのかね?


「それにな、ウッド!」


「おぉ!?」


 頭を抱えた一瞬の間に、マギやんが目の前まで移動していた。

うっおビックリしたァ!?

目を開けたら目の前に巨乳があるから死ぬほど驚いただろうが!


 マギやんはオレの頭をポンと叩くと、満面の笑みを浮かべた。



「―――アンタは、ウチの秘密聞いてもそのまんまやったやんか。にへへ、そんならウチもそうや!仲間やさかいなッ!!」



 肩の荷が、少し下りた気がした。

そうか……そうかよ。


 オレは、お返しとばかりにマギやんの頭をポンと叩く。


「ありがとよ、マギやん……『東森逸人』ってのがオレの本当の名前だが……これからもウッドでいいや」


「なんやなんや、苗字持ちならアンタも貴族かいな!そっちでもお仲間やな~!!」


 あ、コレ1から説明しねえと駄目なやつだ。

……まあいいか、時間がかかっても。

すぐにお別れってわけじゃねえしな。


「じゃ、もう一回」


 拳をマギやんに突き出す。


「おっ!」


 それを見たマギやんが、拳をこつんとぶつけてきた。


「改めて、よろしくな」


「よろしゅう!!」


 胸のつかえがあまりに早く解消したのがおかしくって、ついつい吹き出しちまう。

マギやんも、同じように笑った。


……ホント、いい女だぜ。

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