表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に向って撃て!!~頼みの綱は6連発~  作者: 秋津モトノブ
駆け出し冒険者ウエストウッド
41/80

41話 クラーケンに向って撃て!! 前編

「~~~~!!!」「~~~!!!!!」「~~~!!!!」


 おいおいおい、あっという間に怪獣映画じゃねえかよ。

さっきまで死んだように曳航されてきたクラーケンだが、今やもう触手をぶん回して大暴れだ。

人間がまるで木の葉みてえに吹き飛ばされていく。

トンデモねえ威力だな、船がバンバンスクラップになってやがら。


「あーあー……あいつら、さては『抜かず』に持って帰ってきよったな」


 隣のマギやんが呆れたように呟く。


「『抜かず』?」


「魔石を抜かずにここまで曳航してきたってことや」


 ……魔石ってのは、一般的な魔法具の燃料になってる宝石みてえなやつだよな。

コボルトの長に埋まってたようなやつだ。

ゴブリンや草原狼にもあるらしいが、小さすぎて換金対象になってないので放置されている。

その魔石を、抜かない?


 オレの表情で察したのか、マギやんが補足。


「陸の魔物はそうでもないんやけどな、海のモンは魔石抜くとすぐに体が痛み始めんねん。おおかた、港で解体する直前までそのままにして鮮度を保ちたかったんやろ……クラーケンは全身素材やら食材やらの宝庫やけど、痛むのもごっつ早いんや」


「ほーん、なるほどねェ……じゃあ今まで仮死状態だったってのか?そりゃまたなんで?」


 おとなしく港まで運ばれてきて……クラーケンにとってなんの旨味があるんだろうか。


「決まっとるやろ、『餌』がぎょーさんおる所まで案内させるためや。普通なら港が見える前に魔石を取って完全に殺すんやけど……欲かきよったな、連中」


 『餌』ねえ、『餌』……

うん、人間じゃねえか!!


「ウッドウッド、宿まで戻るで」


 マギやんがスキットルをオレに放りながら立ち上がった。

そういや飲酒してたけど大丈夫……だよな、顔色変わってねえもん。

やっぱドワーフはバケモンだわ。


「お?加勢しなくていいのかよ」


「混戦時に横槍入れたら後がめんどいで、最初はお付きの冒険者連中に頑張ってもらわんとな」


 なるほど、ね。

それじゃ、宿に戻ったらまたトンボ返りか?


「ウッドはともかく、ウチは鎧もハンマーもあれへん。加勢するにしろなんにしろ、エモノがないと話にもならんわ」


「あれ?鎧は体にくっ付いてんじゃねえのか?あの水みてえな金属になってよ」


 そういえば、マギやんはいつもの首飾りはしていない。

胸のよこにあるボタンもないな。


「あないな重いもん、始終くっつけとけるかい。宿の部屋に置きっぱやで」


「……嘘だろ、アレ重さは鎧のままなんかよ。てっきり小さくなると軽くなるもんだと思ってたぜ」


「アホ、そないに都合のいい金属なんぞそうそうあれへんわ」


 じゃあマギやんの首と胸、どうなってんだ。

ずうっと全身鎧の重量がのしかかってたのかよ。


 オレも作ってもらおうかと考えてたが、要検討だな。

ベルト辺りにくっ付けて腰が粉々になったら困る。


「当たり前や、防御力のある鎧は重いもんやで……うあ、思うたより連中ヘッポコや!こら急がんと街まで来よる!!」


 その声に港を見れば、さっきまで船上にいた冒険者が半分くらいになっている。

海にぶち込まれたのはまだ運がいい方で、触手でハンバーグみたいなグロ画像になったやつもいる。

……飯食ってなくて助かったぜ。


「わかった、オレだけここにいてもしょうがねえしな。一緒に宿まで―――」


 その時、ふと港を見た。

見ちまった。



 港にある木箱の影に、頭を抱えて蹲るガキの姿を。



「―――ッ!おい!そこのガキぃ!!逃げろ!そっから逃げろォ!!」


「ウッド!?急にどうし……アカン!!」


 急に叫んだオレに驚いたマギやんが、視線の先を辿って顔を青くした。


「キミぃ!!そこにおったらアカンでっ!!はよ逃げェッ!!!」


 オレ達2人の声は届いているハズだが、蹲ったガキの姿勢は変わらない。


「なんだってあんな所にガキがいんだよマギやん!?」


「たぶん、港の荷運び……いやちゃう!あの子セイレーンや!!」


 そう言われてみれば、なんとなく服から覗く肌が青いような気がする。


「セイレーンは子供のころから素潜りで働く子が多いんや!せやから港にも働き口が……って、そんな場合やあれへん!あのヘッポコ冒険者連中が全滅するまでになんとかせな……!!」


 クラーケンに立ち向かう連中は、どんどん数が減っていく。

それどころか、ガン逃げする奴まで出始め……うわ、捕まって絞め殺された。

やべえ、『残機』がどんどん減ってんぞ、オイ!!


 蹲るガキは動かず、冒険者は減り続ける。

ひょっとして腰でも抜けてるんじゃねえのかよ!?


「―――ちくしょう……ああ、ああ!!畜生がッ!!!」


 地面を蹴って、走り出す。

港へ向かって。


「ウッドぉ!?」


 マギやんの声が一気に遠くなった。


「マギやんは!宿に戻って準備してきなァ!!」


「せやけど―――」


「オレがおっ死ぬ前に頼むぜェッ!!」


 それだけを言い終えると、返事も待たずに走る。

地球にいた頃は全力疾走なんざほぼしなかったが、こっちへ来てから機会が増えたなあ!畜生!!


 ……我ながら、馬鹿々々しいや。

見ず知らずのガキなんぞ見捨てたほうがいいのは、わかりきってる。

わかりきってるが……見ちまったモンは仕方ねえ。


 知らねえところで死ぬなら別に構わねえが……!

目の前でガキが死ぬのを眺めてられるほど、さすがにクズじゃねえや!!

ミルの時みてえなことに、ならねえといいんだけどよ!!



「おおおおい!そこのォ!!立てるかァ!?」


 丘から駆け下りる形になったから、すぐに港まで到着した。

奥の方からは悲鳴と怒号が聞こえてくる……よし!まだ囮は残ってんな!!


「―――ッ!?~~~~~ッ!?」


 近くまで来てみりゃ、なるほどセイレーンのガキだった。

大人連中と違って厚手の布を被ってるから、男か女かわからねえ。

たぶん、小学生くらいだろう。


 ガキはやっとオレに気付き、体を動かすが……這いずるようにしか動けねえようだ。

案の定腰が抜けてるみたいだな……ああ畜生!!

こっちから行く方が早いか!


「そのまま姿勢を低くしてこっちに―――」


 その時だった。


 オレという助けを見て、僅かに希望を浮かべたガキの上に、影が落ちる。

クラーケンの、イカ足だ。

ガキは、引きつった顔で上を見上げる。


 なんだってこっちに来るんだよ畜生が!!

あっちにゃまだ生餌が残ってんだろ!?


 吸盤に鋭い牙みてえなもんがびっしり生えたキモいイカ足は、そのままガキを押し潰すように―――



「―――足癖が悪ィんだよ!!」



 振り下ろされる途中で、銃弾によって抉れつつ弾かれた。


「っちぃい……!!」


 走る途中でろくに構えもせずに撃ったもんだから、手首が死にそうだ……!

だが、的がデカいからめくら撃ちでもしっかり当たったなァ!!


「そのままでいろっ!!」


 その隙にガキの前まで走り込み、左手で抱え上げる。

……うっわ、漏らしてるじゃねえかよ……

ま、しゃあねえか……あんなバケモン見ちまったらな。

服は綺麗になるからいいか!この際!!


「動くな!喋るな!舌噛むぞッ!!」


「~~~~ッ!!」


 何事か喋ろうとしたガキにそう叫び、回れ右して走り出す。

走れ!走れ走れ!!

オレの勘が正しかったら―――!!


「く、くるっ!こっち、来るよォ!!」


 ガキが腕の中で叫ぶ。

ああ、だろうなあ!!


「ありがとよォ!……餌がまだまだ残ってんだろうが!クソったれェ!!」


 走り続ける。

振り向かなくてもわかる、あのバカ追ってきやがる!!

なんか振動してるもんな!地面が!!


ああああ!!なんでだよ畜生!!!!

そんなにイカ足撃たれたのが腹に据えたのかよ!!!

いいじゃねえかまだいっぱいあんだからよ!!


「う、撃って、撃ってくる!おじさん!!」


 ガキが叫ぶとほぼ同時に、視界の隅で畳石が弾けた。

ハァ!?なんだそれ生体キャノン砲でも付いてんのかアイツ!?

イカはイカらしくウネウネだけしと―――


「うっぐァ!?」


 左腕に、衝撃。


「おじさんっ!?」


「だいっ……丈夫だ!しっかり!しがみ!ついてろォ!!」 


 なんだ、今のは!?

一体何が当たった!?

シャツと二の腕が裂けたぞ!?

くっそ、なんだってんだ!!


「距離は、どうだァ!?」


「だ、ダメ!どんどん近付いてくるよォ!!」


 あーくそ、イカの癖によォ!!

どうやって移動してんだァ!?ホバー移動とかじゃねえだろうなあ!!


 走る度に腕が痛む。

結構深く切れてんのか、コレ。

何を飛ばしてきたか知らねえが、砲弾じゃなさそうだ。


「しょうがねえ……!」


 さっきの銃撃。

クラーケンに【ジェーン・ドゥ】は、十分に効く。

無駄弾は撃ちたくねえが、もう1発……今度は胴体っちゅうか頭に撃ち込んで怯ませるか!


 こうしている間にも、そこら中のに何かが当たって傷を作っている。

貫通力はそれほどじゃねえが、何を撃ってんだよマジで!


 うおっあぶねえ!?

ポンチョに当たった!!

だんだん狙いが正確になってきてる……ってことは、距離が近付いてきてる!!


「残弾のことなんざ、考えてる暇はねえか……!ガキぃ!でっかい音がするから、耳塞いどけよなァ!!」


 ガキに叫び、【ジェーン・ドゥ】を構えながら振り向く。

見えた瞬間に、胴体にぶち込んでや―――



「―――ああ、クソ」



 振り向いた視界。

そこには、ただイカ足だけがあった。

胴体を庇う盾のように、器用に折り畳まれた何本ものイカ足。


 クラーケンはイカよりも明らかに多いイカ足の半分を使って地面を蹴り……もう半分を体の前に展開していた。

しかも、前面のイカ足……その吸盤から、牙が!牙みてえなもんがせり出してる!!

アレが弾丸か畜生!!

そんなん、アリかよォ!!


 オレは、咄嗟にガキを抱え込んで前に跳ぶ。


 

 背中と、足に熱を感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] セイレーンを助ける点 [気になる点] 知能高いのか、それとも単に攻撃のために足を前に出しただけ? あと、セイレーンの初恋泥棒になるのかなところ。 [一言] 連射しかここを切り抜ける手は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ