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十三番目の女神  作者: 水渕成分


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3/6

 目を凝らしてよく見るとサーティンは黒ずくめの格好だ。


 「女神」というより「魔女」みたい。


 黒い頭巾らしきものからはみ出した長い黒髪がロウソクの光で、光沢を見せている。


 ちょっと綺麗だなと思った。


 ◇◇◇


 「では履歴書をどうぞ」


 真っ暗な部屋で明かりは十本のロウソクだけだけど、何とか字は読めた。えーと。


 ・名前 サーティン


 ・職業 女神(特殊転生対象者担当)


 「え? 僕って『特殊転生対象者』なんですか?」


 僕の質問にサーティンはぼそぼそとした口調で答える。

 「はい。あなた、タクシ・タナカさんは最高ランクの『特殊転生対象者』です」


 「最高ランク?」

 

 「最高ランクの『特殊転生対象者』は私の担当になります。最高ランクの人って、なかなかいないんですよ。だからちょっと……嬉しいんです」


 暗くてよく見えないけど、はにかんでいるらしい。少し可愛いと思ってしまった。


 ・趣味 人体実験及び人体改造


 ・特技 人体実験及び人体改造


 ・資格 特級人体改造士


 「なっ、なななっ」

 僕の履歴書を持つ手は震えた。何なんだっ、この「特級人体改造士」というのはっ!


 「あら恥ずかしいわ」

 サーティンはなおもはにかんでいる。

 「天上界広しといえどもこの資格を持っている神はそうはいませんのよ」


 「いやっ、いやっ、『転生』と『人体改造』は似て非なるものじゃあ」


 「うふふ。ご安心を」

 サーティンは体の前で右手の人差し指を振る。可愛いポーズだが、もはや可愛いと思う気持ちの余裕はないぞっ!

 「これでもプロの女神。『転生』はキッチリやります。趣味で人体改造もやりますが」


 「いや、趣味の人体改造は不要だと思うのですが」


 「うふふ。ちょっと恥ずかしいけど、その下の欄も見てくれません?」


 え? 下の欄って、これ?


 ・好きな異性のタイプ 人体改造に適性のある肉体を持つ人


 「え? ひゃっふー」

 思わず声が出る。いつの間にやらサーティンが僕の後ろに回り込んで……わっ!


 「サッ、サーティンさん。シャツの下に手を突っ込んでまさぐるのやめてくださいよー。うひゃ」


 「うふ。うふ。うふふ。改造し甲斐のありそうなお腹だわー」


 「ひーっ、ままま、待ってっ! 改造し甲斐のある体って筋肉質とかじゃないんですかあ」


 「ちっちっちっ、失礼ながらあなた。『人体改造』についてはトーシロでいらっしゃる」


 「ひぎー、そっ、そりゃ、『人体改造』のプロと言われても困りますが……ひーっ」


 「筋肉質がいいなんて言うのは所詮『二級人体改造士』。私のような『特級』ともなると……」


 「うひゃひゃひゃ、『特級』ともなると?」


 「犬だろうが猫だろうが、立派な『改造人間』に仕上げてみせますっ!」

 

 おもむろに推定AAカップの胸を張るサーティン。フォーティン以上の貧乳なのね。ではなく、犬や猫を改造して「改造人間」になるの?


 「うふふふ。だから、安心して私に身を委ねなさい。何て素敵なポッコリお腹。やせぎすなくせにお腹だけ出てるって、最高の素材だわ。ああっ、私、惚れちゃいそう」


 「今更ながら『人体改造』なしで『転生』って、出来ないんですか?」


 「うふふ。『転生』にはチート能力がつきものでしょう。そこを私得意の『人体改造』でつけてあげるのです。安心してください。十二人の姉女神たちには絶対できないような唯一無二で個性爆発のチート能力を付けてあげます」


 「あのー、担当を他の姉女神様に『チェンジ』してもらうことは出来ないんですかー?」


 「何言ってんですの。うふふ。もうあなたの体は『人体改造』してほしくて夜泣きしてますよ」


 「そんなわけないですって」


 「ええいっ、もう腹括って大人しく『人体改造』されてください。大丈夫。痛いのは初めだけ。天井のシミ数えているうちに終わります」


 「いやですー。何かいろいろ違い過ぎます。やめてくださーい。むぐっ」


 「うふふ。地獄のジャイアントトードも30秒で眠るという強力特製クロロホルム。お目覚めの後は、あら不思議。あなたはチート」


 それじゃあまるでカエルの解剖じゃないかーと叫ぶ間もなく僕は意識を失った。


 …… ……


 …… ……


 …… ……


 柔らかな風が頬に触れ、気が付いた。


 「こっ、ここは?」

 

 周りを見回すと草原の中に木が点在。僕の服装はゲームの中の冒険者のそれ。


 「ま、まさか……」

 当惑している僕のところに村人が三人近寄ってくる。壮年の男性と若い女の子二人だ。何だ何だ。


 壮年の男性が口を開く。

 「勇者様」


 (!)

 「え? 勇者様って、僕が?」


 「あなたが勇者様ですよね。先程、村に魔女様がおいでになり、ここに来れば勇者様がいて、村を盗賊から救ってくださると」


 「……その魔女ってもしかして黒い頭巾かぶって、全身黒ずくめで、髪の毛が長くて、真っ黒な?」


 「さようでございます。やはりお仲間でしたか。勇者様。今日の昼にも盗賊が村に来るのです。村を焼かれたくなかったら、有り金とあるだけの食べ物、そして、若い女を全員差し出せと言われて、困っているのです。騎士団にもお願いしましたが、どんなに急いでも到着は夕方になってしまうと言われました。勇者様。どうかお助け下さい」


 







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― 新着の感想 ―
[良い点] サーティンさん、「犬だろうが猫だろうが、立派な『改造人間』に仕上げてみせます」とは実に頼もしいですね。 犬や猫を改造人間にする場合、人間を素体にした改造人間とは違うプロセスを踏みそうですね…
[一言] 一応、眠らせてはもらえたんですね。 もしかしてこの流れは起きたまま人体改造…… な気がしてたので、サーティン姉さんが思ったより優しくてほっとしました! しかし、どんな肉体に改造されてしまった…
[一言] >天井のシミ数えているうちに終わります wwwww
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