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「えっ? (何それ)」
「ひーひー、まっ、まずは一点目ですが、トラックは暴走していませんでした。速度制限を守って、公道を走っていたのです」
「えっ、いっ、いやそれでもですね。トラックは大きな犬を轢こうとしてたから、僕はそれを庇って……」
「そこですっ! あなたが庇ったのは『犬』ではないっ! ぶわはははは」
「えっ、えーと」
「あなたが庇ったのは、イッ、イノシシなのですっ! ぎゃあっはっは」
! これは衝撃だ。犬好きの僕が庇ったのが「イノシシ」だったとは。でっ、でも……
「イノシシだって生き物ですよね。僕はその命を救ったんですよね?」
「そうそう、そこですっ!」
美少女は僕を右手の人差し指で指した。
「そのイノシシは近所の畑を荒らす害獣でした。農家のみなさんが何とか退治できないか頭を悩ませていた代物でした。あなたは農家のみなさんのお悩み解決の場を中途半端な英雄行為で奪い去ったのですっ! ぷくくくく」
「なっ、何てこった」
僕は頭を抱えた。
「ついでに言うとですね。あなたが中途半端な庇い方したもんで、件のイノシシ、手負いで生き残って凶暴化して、余計ひどいことになってるんですよ。ちなみにそのイノシシの今の二つ名は『カタキバオレ』です。ぷくくくく」
「えーと、そうすると『多くの方が僕の死を悼んでいる』というのは?」
「あるわけないでーす。みなさん、文句を言ってやりたいけど、当の本人が死んじゃってそれも出来ないと言ってまーす。我らが父たる大神もここまでおもしろ……いやもとい特殊な事例は先行事例がないので頭抱えてまーす。こないだ『ああっ、めんどくせー。いっそ地獄に堕としたろうか』って言ってましたー。ぎゃはははは」
「うわー」
「まあ、そうは言ってもですね。あなたに悪気があった訳でもないので、あなたのことは『十三番目の女神』サーティン姉さんに任せることに決定しましたーっ! 『13』のドアへどうぞっ!」
「へ? いや、そう言ってもドアは1から12までしかないですよ」
「あ、『13』のドアはですね。『12』から少し左側に暗幕がかかってまして、その裏にあります。サーティン姉さん暗幕が大好きなもんでして」
「暗幕が好きって、それは一体?」
「暗幕で暗くした部屋でじんた……いえ、実験をするのが好きなのです。ぷくく」
「今、『人体実験』って言おうとしてませんでした?」
「いえ、そのようなことは。おほほ。なーに、大丈夫です。サーティン姉さんは陽キャとパリピが大嫌いで、以前三十人ほど地獄に堕としましたが、あなたなら大丈夫っ! 太鼓判押させてもらいます」
「褒めてるんですか? それ。まあいいです。『13』のドアに行きますよ。地獄に行かされるよりはマシでしょう」
「行ってらっしゃーい。いやあサーティン姉さんもいけにえ……いえ、転生者を担当するのは何十年ぶりかだからきっと大喜びでしょう。きっとこんなことなら地獄に行ってた方がマシだったかもと思うことは多分……ないと思います」
「念のため聞きますが、僕には『13のドアに入る』か『地獄に堕ちる』以外の選択肢はないのですか?」
「ないですっ!」
美少女は満面の笑顔で推定Aカップの胸を張った。
「ちなみにあなたの一人当たりの受付制限時間はもうギリギリです。後ろをご覧くださいっ! 転生者の順番待ちの行列が出来ていますっ! このまま粘っても時間切れで『地獄行き』決定ですっ!」
「分かりました。行きますよ」
僕は重い足取りで暗幕に隠れているという「13」のドアに向かった。
「行ってら―。サーティン姉さんにどういう結果になったか、あなたの可愛い妹女神フォーティンが聞きたがっていたとお伝え下さーい」
はああ。あの美少女。「十三番目の女神」の妹だったのか。
今となっちゃどうでもいい話だけど。
◇◇◇
その暗幕は滅茶苦茶重かった。まさに一筋もの光も入れるもんかという執念すら感じる分厚さ。
そこをかき分けると確かにドアに「13」の文字がある。でも、このドア木製で凄い古そう。
一応ノックする。
「どうぞ」
蚊の鳴くような声だが返事があった。
だけどこのドア建付けが悪いと言うか、渋いと言うか、多分、長い間開け閉めしてなかったんだと思う。
ギギギギイ
凄まじい音を立て、ドアは何とか人一人は入れるくらい空いた。
そこから無理矢理部屋の中に入ると……
◇◇◇
部屋の中は真っ暗。暗闇に目が慣れれば少しは見えるようになるだろうか。
「いらっしゃい。私は父なる大神の十三番目の娘にして、女神。サーティン。これが履歴書です」
何でいきなり履歴書出すんだろう。と言うか。
「ご丁寧に。でも、すみません。真っ暗で何も見えないんですが」
「あらごめんなさい。すぐに明るくしますわ」
てっきりカーテンが開けられるか、蛍光灯が点けられるであろうという僕の予想は完全に外れた。
真っ暗な中に一本のロウソクに火が灯り、それが二本三本と増えていき、最後は五本ずつが二列、都合十本のロウソクに火が灯った。
何だか妖しい雰囲気。何かの儀式みたいだ。




