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この作品は黒森冬炎様主催の「ミラクル•チェンジ〜改造企画〜」参加作品です。
気が付いたら、真っ暗なところに横たわっていた。
体を起こし、周りを見回すけど、やはり真っ暗で何も見えない。
何で僕はこんなところにいるんだ?
そもそもそれまでは何をやってたんだっけ?
立ち上がってみる。少し暗闇に目が慣れて来たみたいだ。
それで気が付いたんだけど、周りにそんなに多くはないけど、別の人もいる。
みんな一つの方向に向かって歩いている。
その方向を見ると、小さな光が見える。
ははあ、みんな、あれを目指して歩いてるんだな。
じゃあ、僕も一緒に行ってみよう。
ここにただいてもしょうがないし、他の人に何か聞けるかもしれないしね。
僕は小さな光に向かって歩き出した。
じゃじゃーん
「十三番目の女神」(タイトルバック)
小さな光に向かう人たちは段々と行列になっていった。
そして、行列の最後尾がこの僕。
うーむ。でもまあ、前の人たちを見て、どうすればいいか参考にできるからいいのかな。
行列と言っても五人しかいないしね。
光は近づくにすれ、徐々に大きくなり、人一人が通れる大きさになった。
前を歩く人は当然のようにそこをくぐる。
少し躊躇したけど、僕もそこをくぐった。
!
くぐった先は明るい部屋だった。
目の前に細長いテーブルとその後ろにパイプ椅子にかけた女の子。
わ、金髪のツインテール! パッと見、十七か十八くらいかな?
テーブルの上に置いてあった書類を見ていた女の子が顔を上げる。
あ、結構、可愛い。
「P・サミュエルソンさん」
女の子の呼びかけに先頭を歩いていた男性が前に出る。
「横断歩道に飛び出した風船を持った三歳の男の子を庇って突っ込んで来たトラックに撥ねられたんですよね?」
男性は頷く。
! 思い出した!
僕も何かを庇おうとしてトラックに撥ねられたんだ!
するとここはひょっとして……
「あなたの行動は立派でした。多くの方があなたの死を悼んでいます。我らが父たる大神も今回のことに心を痛めています。あちらの5番のドアにお入りください。そこにあなたをより良い転生にお導きする女神がいます」
P・サミュエルソンさんはもう一度頷くと「5」と表示されたドアに向かって歩く。
見ると各ドアに「1」から「12」まで表示されたドアが並んでいる。うーむ。
「J・K・ガルブレイスさん」
次に並んでいた男性が呼ばれ、男性は前に出る。
「歩道に突っ込んで来たトラックから母子連れを庇って、撥ねられたんですよね?」
男性は頷く。
「あなたの行動は立派でした。多くの方があなたの死を悼んでいます。我らが父たる大神も今回のことに心を痛めています。あちらの11番のドアにお入りください。そこにあなたをより良い転生にお導きする女神がいます」
J・K・ガルブレイスさんはもう一度頷くと「11」と表示されたドアに向かって歩く。
これはあの噂に聞く「トラックに撥ねられ、非業の死を遂げた者がチート能力を付与された上、『異世界転生』ってやつかも。いやいや待て、ぬか喜びしてはいかんぞ。僕の前にまだ後二人いる。様子を見よう。
「M・フリードマンさん」
三番目に並んでいた男性が呼ばれ、男性は前に出る。
「横断歩道に暴走して来たトラックから犬を庇って、撥ねられたんですよね?」
男性は頷く。
「あなたの行動は立派でした。多くの方があなたの死を悼んでいます。我らが父たる大神も今回のことに心を痛めています。あちらの3番のドアにお入りください。そこにあなたをより良い転生にお導きする女神がいます」
M・フリードマンさんはもう一度頷くと「3」と表示されたドアに向かって歩く。
うん。思い出したぞ。僕も横断歩道にいた犬を庇って、撥ねられた。これは期待してよさそうだぞ。
四番目に呼ばれたJ・シュンペーターさんはアーケード街に暴走トラックが突っ込み、そこで犬の散歩中だった婦人を庇って、撥ねられたそうだ。
この人もその行動を褒められ、「8」番のドアに向かった。
次はいよいよ僕の番だ。うーむ。考えてみれば、前世はウケない、モテない、お金がないの三拍子だった。来世はチートライフを満喫してくれよう。
はやる心を押さえて、僕は一歩前に出る。
さあ美少女よ。僕の名前を呼んでくれたまえ。「タクシ・タナカさん」と。
…… ……
…… ……
…… ……
どうしたことだ。何故僕の名前だけ呼ばれない。
と言いますかね。美少女よ。僕の「調査書」らしきものを見た途端、顔を突っ伏して体を震わせているのは何故でしょう?
いい加減待ちくたびれた僕は自分から美少女に声をかけた。
「あのー、僕、タクシ・タナカなんですが……」
その声に美少女は顔を上げた。
「ひーひー、タッタクシ・タナカさんですよね。うっ、承ってますよ。ぶっ、ぶははははは」
何と! 美少女は爆笑していたのか。これはちょっと事情が変わってきたか。むむっ。
「あっ、あの、何で笑ってるんですか? 僕、犬を庇って、暴走トラックに撥ねられたんですが」
「ひーひー、ああ苦しい。笑い死ぬ。タッ、タナカさん。あなたには何点か認識が事実と違っているところがあります」