第四話 お友達
「ゼフィーとローゼン様が……恋仲? あり得ません、そんな事!」
あきらかに狼狽したレオ様が顔を真っ赤にして怒っている。あぁ、とうとう癇癪が出ちゃったわね。子供の頃から全く成長していない我が儘坊ちゃんだわ。タクト様がこそっと耳元で『話、合せて』と囁かれるものだから顔が緊張で引きつりそうになるけれど、折角タクト様が茶番を演じて下さってるのだから有効活用しないと!
「れっ、レオ様! 残念ながら、わたくしはタクト様のモノですわ!」
何だか声が少し裏返っちゃったけど、頭に血が上ってるレオ様には気付かれなかったみたい。あたしの横にピッタリとくっ付いているタクト様からは笑いを堪えているのか、身体が小刻みに震えているのが伝わってくるけどね。
「私は諦めないからな! ゼフィーのあーんな事や、こーんな事を知っているのは私だけなんだ。私だけがゼフィーを……ぐげっ!」
食い下がるレオ様に苛立ちを抑えきれなかったらしいタクト様が、レオ様の額に思いっきりデコピンかました。まともに喰らって痛かったのだろう……レオ様が額を押さえながら涙目になっている。てゆーか、あーんな事やこーんな事って何なのよ、気持ち悪いな。
「グダグダうるせぇ奴だな、男らしく身を引きやがれ」
「うひぃいいいいいいい!」
地を這う様な低い唸り声に跳び上がったレオ様は、逃げる様にして走り去って……あ、転んだ。
「……アイツは馬鹿なのか?」
「あれが通常運転ですの……気にしないで下さい」
何度も転びながら逃げて行くレオ様の姿を見送り、ふと我に返る。そういえばタクト様に肩を抱かれたままではないか!
「あひゃ! か、肩っ! 肩もだけど、タクト様の体温が伝わりすぎです~」
「え……あ、悪りぃ……断りも無く」
ちょっとバツが悪そうにポリポリと頭を掻くタクト様。そんなお姿も素敵です。
「むしろいつでもドンと来い! なのですけど、わたくしなんかの肩だとタクト様のお手が汚れてしまわれるので……」
「……“ドンと来い!”なの?」
「え、あの……」
「あははははははっ! 相変わらずお前らしくて良いよ」
豪快に笑って褒めて?下さるタクト様。笑顔が眩しいわ。……って、そうよ! これ以上お近づきになったらモブ成立しなくなっちゃう。何とか軌道修正しなければ。
「や、やっぱりダメです。タクト様とはもっと距離を置かないと」
「は? おれの事嫌いなのか?」
「違いますけど、とにかく、あんまり仲良くなったら困るんです」
「何だよソレ、納得いかねぇな」
眉間にシワを寄せてジト目でこちらを睨まれた。うあ……怒ってる姿もカッコいい。
「ほ、ほら! タクト様は筆頭公爵家のご嫡男ですし、わたくしは何処にでも居る様な伯爵家。おいそれと仲良くしてはいけないと思いまして……」
「――却下」
「へ?」
「そんな屁理屈知らねーよ。おれはお前を気に入ってるんだから、それでいいんだ」
「えと……」
「ピスケリー嬢……いや、ゼフィー。お前はおれの友達だ、いいな?」
わたしの両頬をむにっと横に引っ張り、しっかりと顔を覗きこまれる。はわわ……綺麗な瞳。
「お、おひょもらち……?」
「…………ぶはっ! お、おひょもらち、って。あーおかしい、お前と居ると飽きねぇな」
「タクト様が頬を引っ張るからでしょー、もう」
手を離して貰えたので引っ張られた頬をさすり、さすり答える。何かわたし、タクト様に遊ばれてない? 面白いオモチャ見つけたみたいに楽しそうよね。こんな方だったっけ? ゲームではもっと脳筋でガサツな方ってイメージだったんだけど。
「とにかく友達が困ってたら助ける。ただそれだけだ。だから、またレオナルドが何か言って来たら遠慮せずおれに頼れよ、いいな」
「は、はい……」
うーむ。お友達認定されてしまったわ。まぁでも、お友達って事は恋愛対象として意識はされてないって事みたいだし、それならあまり問題無いかもしれないわね。うん、このまま、お友達として特等席で見学させて貰っちゃいましょう。