第三十話 ダンスパーティの裏側で
そろそろ、このお話も佳境に入ってきました。
次の作品もこっそりとボチボチと準備を進めております。
悪役令嬢モノではあるけど、ちょっと変わってるかも……しれない(笑)。
「さぁ、ゼフィー。私たちの新たな旅立ちだ」
待っていた馬車が到着したらしく、わたしを促してレオ様が外へと連れ出す。ダンスパーティ用に着ていた青いドレスは、レオ様が用意したワンピースに着替えさせられていた。無理矢理ドレスを脱がされ、ぎゅうぎゅうに締め付けられていたコルセットをレオ様に外された時は泣きそうになった。タクト様にでさえまだ見せた事のない下着姿を見られたのだ。心のダメージが半端ない。
でも落ち込んでいる場合ではない。さっきは失敗したけど、逃げ出す隙が見付かるかもしれない。そう思って周りの様子に全神経を向ける。不本意だがワンピースになった事で、動きやすくはなった。
「がっ!」「うごっ!」「ぐっ……」
馬車の周りに配されていた黒装束の人たちが、急にうめき声をあげて次々と倒れていく。何が起きたのかは分からないが、今がチャンスに違いない。倒れていく手下たちの姿に驚きながらも、わたしの腕を掴んで横を歩いていたレオ様の足を全力で踏みつけた。
「いっ!?」
声にならない悲鳴をあげたレオ様の手がわたしの腕から離れた。その隙にわたしは目の前に広がる木々の中へと飛び込んだ。どの方向に進むのがいいのかは分からない。けど、今はレオ様から離れる事が先決だ。
後ろから追っ手が追いかけてくるのが分かる。掴まる訳にいかない。焦ってもつれそうになる足を必死に動かして走る。
「あっ!」
急に左足に傷みが走った。ナイフが左ももを掠った様だ。思わぬ痛みにそのまま地面に倒れ込む。ワンピースが少し破れ、左ももがジンジンと熱くて痛い。それでも逃げようともがいていると目の前に剣先が向けれた。
「手間かけさせやがって……」
「あ……う……」
目の前にまで近寄ってきた追っ手は、さっきレオ様にマクスと呼ばれていた男だった。キラリと怪しく光る剣の刃先をわたしの首元へとかざす。
「ひっ……」
せっかくのチャンスをまたも無駄にしてしまった。自分の非力さを恨む。もうここ迄か……失意と恐怖でギュッと目を瞑る。
――キンッ! ザザッ! ドサッ…………。
耳に聞こえてきた音に、恐る恐る目を開けると……少し離れた場所に転がるマクスの姿と、誰かの足元が見えた。ゆっくりと視線を上げてみると、そこには剣を携えたタクト様の姿があった。
「……っ、はっ……タクト、さま」
大きく息を飲み、震える声で大好きな人の名前を呼ぶ。数人の騎士たちも駆け付け、倒れているマクスを捕えた。剣を一振りしてから鞘に戻すと、タクト様はわたしの元に跪いて抱きしめた。
「ゼフィー、大丈夫か。来るのが遅くなってすまない」
わたし、助かったんだ……。
ほっとしたら急に涙腺が緩くなったらしい。自分でも抑えきれない感情に押し流されて、涙があふれてくる。
「もう大丈夫だ。すぐに手当をするからな」
「はひ……ご迷わ、く、おかけして……申し訳ありません」
優しく抱き上げてくれたタクト様にしがみつきながら、止まらない涙に自分でもビックリする。タクト様の体温を感じて、わたしは余程安心したのだろう。張りつめていた緊張の糸がプツリと切れたみたいだ。
閉じ込められていた小屋の前まで戻ると沢山居た黒装束の男たちは既に捕えられており、レオ様も同様に縄に縛られていた。わたしと目が合うと悔しそうに何か叫ぼうとしていたが、タクト様が一瞥した途端に真っ青になって口ごもった。
小屋の前には大勢の騎士たちが集まっており、その指揮をまだ学生であるタクト様が取っておられた。さすが騎士団長の息子と言うべきか――そのお姿もサマになっていて、物凄い人を好きになってしまったのでは……と思った。




