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2.5
夜の中の灯りが1つから2つになった。
ふと視線を上げたとき、私を見つめていた彼の両目は、深い穴の底を覗いているみたいに暗くて、冬の外気とは関係のない冷えが背中をぞわっと襲った。
どうして私なんだろうと思った。
私は夏子のように伊吹と付き合ったこともなかったし、あの頃の私は鏡を見ながら眉を描くことすら知らなかった。どうして。どうして私を。
「・・・私、埋めたいものがありそうに見えた?」
答えは返ってこなかった。
伊吹の冷えた両手が私の頬を静かに包む。
顔が近づく。煙草はいつの間にか口から取り上げられた。
メンソールの味がする息が流れ込む。
結局、公園には何も埋めずに帰った。
あの夜の冷たいキスの意味を、私は生涯知ることはない。