2.4
街灯に照らされた桜の樹の下にベンチを見つけると、伊吹はすとんと座って長い脚を組んだ。
夜にも木漏れ日ってあるんだ。蛍光灯で出来た、人工の木漏れ日。枝の隙間からキラキラして綺麗、とかくだらないことを考えて立って居たら、伊吹がリュックから黒と紫の小さな箱を取り出すのが見えた。
「伊吹くん、それタバコ?」
「ん?うん、タバコ。兄貴がリビングに置いてたから、家族の共有財産かと思って」
冗談めかしながら、彼はトンとカートンを叩いて1本煙草を取り出し、薄い唇の間に咥えてライターで火を点けた。
初めてのことではなさそうだった。
私は感心しながら、伊吹が旨そうに吐いた煙が、薄靄のかかった暗闇に浮かんで消えていくのを見送っていた。
「松永も、吸う?」
そう訊かれるのを待っていたような気がした。
「吸う〜」
そう答えて、伊吹の隣に腰を下ろす。
私が手を差し出していると、伊吹がもう1本箱から出して説明してくれた。
「暗くて見えづらいな。この色ついてる方がフィルター。咥えて、火を近づけたら、一気にすうっと吸い込んで。…松永、もしかしてライター初心者?」
手渡されたライターを扱いかねているのを目敏く見つけられ、取り上げられる。
「いや力要るくない?これ。火傷しそうで怖いし。火だよ」
「石器時代のヒト?じゃあこうしよう」
煙草を、口先で控えめに咥えさせられる。
顔が近づき、伊吹の煙草の火のついてるところが私の煙草にくっついて、ああシガーキスって言うんだっけ、と思いながら言われるままに息を強めに吸い込んだ。
伊吹の睫毛の先まで見える距離で、火がつくまで同じことを繰り返す。