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cold cigarette kiss  作者: 煙 うみ
6/14

2.3

12月の井の頭公園は、流石に人の足もまばらだった。


オレンジ色に照らされた石段を降りて、砂利道を歩いて公園に入る。シャッターの下りた売店脇の自販機で、彼がコーヒーを買ってくれた。カイロ代わり、と言って手渡された缶の人工的な温もりを、既ににかじかんだ手と一緒にコートにしまう。

彼は自分の缶を手に取り、私の方を振り返って大きな声で言った。


「いや寒くない?!」


駅からずっと寒空の下歩いてきたのに、たった今気づいたかのように言うから笑ってしまう。昔から伊吹といると、なんでもないことを面白く思わせてくれるから好きだ。


「わたし寒いの慣れてる、駅から家遠いし」


「ごめん、松永スカートじゃん、脚出てて寒いよな」


「伊吹くんも足首でてるじゃん、寒そー。そんなおしゃれズボン履くから」


私たちは公園の外周を歩き始めた。さっきよりも距離が近づいて、小学校の頃に戻った気がする。


池沿いの道には、春にはピンク色に染まるはずの裸の樹が並んでいる。吹き抜ける風が池の水面を揺らしていた。冷たい空気が、頬と耳を刺した。彼は何故私をここに連れてきたのかと思う。答えを探すように、流した前髪で半分隠れた横顔を見つめる。


「いや、実は俺も埋めたいものあってさ」


さほど深刻には聞こえなかった。伊吹はポケットに両手を入れて、ドラキュラみたいな犬歯を見せて笑っていた。冬だったから吐く息は白かったに違いないが、細かい情景ひとつひとつを思い出そうとすると急に曖昧になる。私が10歳の頃から知っていたあの顔だった。


「学校には埋められないものなんだ?」


「まぁいろいろその、ね。…まずいことってあるじゃん」


「ついに犯罪でも犯した?」


「人聞き悪いだろ〜!犯罪じゃないよ。たぶんね。」


だって松永なら一緒に来てくれるかなぁと思ったから、と彼が続けるから、いい気になってへへへと笑った。彼と無邪気なやりとりをするのが好きだった。


同い歳なのに奇妙な言い回しになるけれど、こういう時間だけ、伊吹と対等になった気分になれた。


彼が足を止めた。


「この辺でいいか」


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