2.2
授業が終わってから、帰り道の中央線に一緒に乗った。
「それ制服?」
「なんちゃって制服。スカート短いって週2で怒られてる」
「へぇ、女子校って感じだなー。おれら虎入りの丸刈りとか金髪リーゼントにして怒られてる」
「都立は次元が違うなぁ…正しい青春って感じ。」
並んで吊革をつかみ、他愛のない会話を続ける。都立の一貫校に通う伊吹は高校のオーケストラでアルトサックスを吹いている。私立の女子校に通う私は医学部を目指して塾に通い、陸上部は冬の駅伝で引退する。
「松永も受かってたじゃん、うちの高校」
「受かってたねー」
「来ればよかったのに。絶対楽しかったよ。松永が居たら」
彼がさらっと発した一言のせいで心がざわついた。
うっすら髭を生やした彼の隣で文化祭の看板を作ったり、移動教室の廊下ですれ違ったりする高校生活のビジョンが、眼裏にすうっと浮かんで消えた。
パラレルワールドの私は、勉強なんて今の半分もしないに違いない。きっと高3の冬まで部活を続けて、ファミレスで友達と勉強しながら文系の私立大学にぎりぎり滑り込むに違いない。
医学部受験生という身分に浴していた当時の私は、自分の根底がちょっと揺らいだ気がした。
伊吹が、何かを言った。
「ねぇ、今、埋めたい物って無い?」
「……え?」
自分の耳に届いた音の意味が、言葉として処理されるのに時間が掛かった。
「埋めたいもの。埋めて目の前から消しちゃいたいもの。」
ーー埋める?物理的に?
ーーーじゃあ何か、形のある小さめの物がいい??
「この前の模試の成績表…とか?数学の偏差値、40台だった。今カバンにあるけど、できれば封印したいかも…。」
我ながら味気のない返事だった。
兎に角、彼はしばらくの間なにやら思案した後で、更に突拍子もないことを言い出した。
「それ、今から埋めに行こうぜ。」
夜は21時を過ぎ、ビルの黒と灯りの白が電車の窓の外を流れていた。
驚いて覗き込んだ彼の目は、小学校の時と同じように悪戯っぽく輝いて居た。