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cold cigarette kiss  作者: 煙 うみ
3/14

1.3

LINEすらない時代に結成された悪ガキグループは、卒業後いったん解散になるも、それぞれ多感な中高時代をなんとか生き抜いた。


気がついたら大学生になっていて、数ヶ月に1回は誰ともなく誘い合い、深夜営業の居酒屋で薄い酒を飲み取り止めのない話をしながら、夜更けまで馬鹿みたいに笑うようになっていた。


半分が大学を出て進路を決めた頃、当時早稲田の院生だった彼は航空大学の入学試験に合格し、未来のパイロットへの大きな一歩を踏み出していた。


彼は平常の通り涼しい顔をしていたが、表情全体にかすかに安堵の色が滲んでいたのは珍しい気もした。


その夜何箱目かわからない煙草の煙を宙に吐き、俺は紅の豚(ポルコ・ロッソ)に憧れこの道を選んだんだと彼は笑った。


彼の生物学上の年齢がようやく中身の年齢に追いついたのだと、私たち誰もが信じて疑わなかった。


「すごいよねぇ、みんな立派になって…結局いろんな職業揃ったよね!

有田はITでしょ、コンサルに営業に、未来のパイロット、星羅はお医者さん!羨ましいなぁほんと!高給取り!」


二重瞼に天然パーマの夏子が、2本目の煙草に火をつけながら屈託なく笑う。


私は自分の電子タバコ(VAPE)の煙を吐きながら、夏子の言葉尻を律儀に訂正した。


「高給取りはあと4年くらい待っててね。研修医の給料なんて時間外つかない分のプラマイゼロだよ。

……夏子なんて外交官じゃん。駐在とか響きがもうかっこいい、痺れる」


「俺も九州に駐在するよ」


「え、伊吹くん九州行くの?」


伊吹は、八重歯を見せてあのいつもの笑い方をした。


注目されるのに慣れている顔。


そういえば、彼の名前は伊吹(いぶき)という。苗字は相葉(あいば)、相葉伊吹。


「3月から宮崎県に引っ越すよ。訓練所があるからそこで操縦の練習をする」


彼は指先で、煙草の灰をとんとんと灰皿に落とした。慣れた手つきがセクシーだった。


「訓練中の2年間は忙しいし、あんまり地元には帰って来れないかも。まあこいつよりは全然近くにいるけどね!」


隣に座っている夏子の肩をこづいた。


川村夏子は、中学生くらいまで伊吹とお付き合いしていた張本人なのだが、お互い全く意に介さず、ふたりは大抵こんな風にじゃれあっていた。


お前は訓練機パクって帰ってこいよ、こちとら入国許可にビザに特殊パスポートだぞと夏子は高い声をあげて、彼の肩を小突き返した。


「どこ行くんだっけ?…インド?」


「イランだって言ってんでしょ!インドとか宮崎より近いわ!!」


「悪い悪い、あぁ首締めないで川村、気持ち快くなっちゃう」


変態、と夏子が吐き捨てる。


いつも通りのやりとりにみんなで笑った。



狂おしく愛おしいほどに、あの夜は平常だった。


宮崎に発つ飛行機の前日に、彼は命を絶った。

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