3.3
伊吹が死んでからしばらくして、悪ガキグループの中の1人と寝た。
6年生の頃バレンタインにチョコをあげて、近所のゲームセンターで何回かデートをした相手だった。
「身体、熱いね」
「松永のこと、ずっと忘れられなかったからね」
私の背中に回された両腕が暖かくて、その悲しい現実味に涙が浮かんできた。
甘い言葉を囁く目の前の彼よりも、何も言葉にしてくれなかった伊吹が恋しかった。
終わってから口寂しくて、水を飲みながらVAPEを吸った。
あまりに物憂げだったのか、苦笑いしながら言われた。
「松永って、生きづらそうにしてるよね。小学校の頃から。」
「君もそこはかとなく生きづらそうにしてたよ。だから好きになったんだもん」
ふと聞きたい気がして、脈絡のまるで無い質問を投げかける。
「伊吹くんは……生きづらかったかな…?」
彼は私の布団の中で、一瞬固まった。
目を細めて考えている。この子の、問いかけに真剣に答える誠実さと不器用さが好きだった。
「変な言い方するね。俺、松永が初恋だと思うけど、伊吹くんのことは…」
「……伊吹くんのことも初恋だった?」
うん、と彼は頷いた。
「松永もそう?」
「もしかしたら、ね」
もしかしたら彼は、永遠に私たち皆の初恋で居続けたくて、自分の時を止めたのかもしれない。
夏子の、寛太の、この子の、私の。そして、私たちが知らない、彼が出会った誰か達の。
なんて、狂っているけれど、いかにも伊吹らしい浪漫を感じる。
生きながら少しずつ死んでいくひとの手は、冷たいのかもしれない。




