制服姿
※前半3分の1ぐらいまでは学園の手続き云々。
スルーしても問題ありません。
王都につくとまず向かうのは学園である。
やることは入学・入寮の手続きと、制服の受け取りだ。
普通科・経済コース以外の生徒は、入寮が義務。また経済コースを選択していても、タウンハウスを持たない方は入寮することが多い。
学園は既に春休み中。
実質的な入寮は春休み中に済ませればいいが、事務方の都合上先に送った書類に『入寮指定日』なるものを書かなければならない。この入寮指定日から前後三日内に、学園で手続きをするのである。
手続きだけで即入寮しない場合、入寮するまでの王都での居住場所とその住所、今度は『入寮予定日』を記入して提出する。指定日(前後三日)から部屋は使えるが、泊まることはできない。決められた時間に荷物の搬入などができるだけで、予定日迄は入寮できないのだ。
貴族の子供を預かるだけあって、セキュリティ上色々面倒なのである。
タウンハウスのあるシュヴァリエ伯爵家のイーサンと元々王都が地元の私は、手続きと荷物の運び入れだけ行って、当日まで実家で過ごすことになっている。
遠方から来る方達は、手続きと共に入寮し、ここでご家族とお別れをする方も多いようだ。
制服はセミオーダーであり、この手続きの際、書類のサイズで作られたものが支給される。
入学当日の入寮じゃなくても即入寮しない人は、一旦持って帰る人が多いそう。
やはり、まず家族に着て見せたいのだろう。
仮にサイズが合わない場合事務方に申し出れば直してもらえるが、持って帰った人は個人で直す人が殆どらしい。
ただし、流用や複製されないよう、お店を使う場合は申告が必要なんだとか。
貴族の子供を預かるだけあって、セキュリティ云々。
ちなみに婚約者の有無、いる場合その相手の素性も書かされる。
貴族の(以下略)
手続きを全て終え、私の麗しの似非婚約者・イーサンに暫しの別れを告げて、私は実家に戻った。
久し振りの家族団欒の食卓の後で、母が思い出したように言う。
「そうだ、コリー! 制服!! ね、着て見せて頂戴!!」
そういやまだ袖を通していなかった。
サイズの確認もあるし、なにより着てみたい。
部屋に戻ると既に、運ばれた制服がクロゼットの扉に掛けて用意してあった。
「流石レナ……わかってるぅ~」
まだ見合い前なので、とりあえずレナは侍女として過ごして貰っている。
(勝手知ったる部屋だし、ハンコック領に行くまでレナにはこの部屋を使って貰おうかしら?)
ここは私の部屋だが、客室と大差ない。
それくらいハンコック領がメインの生活をしていたから。
かつて7歳児程度の大きさしかなかった私が使っていたものなど、とうの昔に処分されている。
もともと貴族で、しかも母に淑女教育を施していたレナだ。ヒューゴー様の囲い込みも想定できるので、あまり王都には長い時間いないだろうと思う。
私はもうすぐ寮に入ることだし、客室よりも多少馴染んだこちらの方が使い易いのではないだろうか。
そんなことを考えながら、制服に袖を通した。
「あら、素敵じゃない! うん、似合う似合う!!」
「えへへへへ」
褒められていい気になった私は、ヘラヘラしながら邸内を闊歩する。
「素敵ですわ! お嬢様」
「えへへへへ」
「お嬢様……大きくなられて……爺は感動でございます……!」
「えへへ、えへへへへ」
騎士科の制服はカッコいい。
王宮で働く騎士服に似たデザインで、ジャケットの色が騎士コースは濃紺、魔導騎士コースはボルドー。淵には金糸で刺繍が施されている。ズボンは白だ。
──だが、
(……滅茶苦茶疲れた)
確かにこの制服はカッコイイが、重いのが難点である。特にブーツがやたらと重い。爪先には鉄板が入っているらしい。
中に帷子を着たり、外に鎧を着けたりする場合を考えるともっと重量は増えること請け合い。
(まずはこれで軽やかに動けないことには話にならないんだろうな……魔力に頼るにしても、常に発動してる状態になっちゃうし)
自室に戻った私は全身鏡を見ながら、そこに『レイ』の姿を重ねていた。
既にレナより少し背が高い私。当時の『レイ』は今のレナと同じか、それよりも低かったのだろう。
だが、体格の小ささや制服の重さなど微塵も感じさせない動きだった。
『私も騎士科に入ります! ……貴女には負けないわ!! いずれまた!』
(そういやそんなこと言ったっけか)
意識してはいなかったが、多分、イーサンに問われる前に私の気持ちは決まっていたのだ。『レイ』は騎士コースで私は魔導騎士コースだけど……
私はダンジョンミッションで見た、あの日の『レイ』を超えたい。
私だって努力はしてきた。
『レイ』とはガムシャラさが違ったとしても、ふたりの鬼コーチもいた。
環境が恵まれていたのだからこそ、余計に負けられない。
「これからが勝負よ!」
鏡に向かってそう宣言する。
写っているのは勿論私である。逆向きの私が私に指をさした。
「──そうだ! 私も……」
そして『レイ』がきっかけで、思い付いたこと。
「……いや、待てよ。 どうせなら……」
それは悪戯心と共に、レナの見合い当日にあるプランを以て実行することにした。




