レナの脳内世界
──だとして。
(なにをどうすればダンジョンクリアになって、レナが目を覚ますの?!)
問題は、そこだ。
(ああぁぁぁ! 考える時間が欲しいッ!!)
「で、君は?」
「ほぇっ?! ……いやあのそのっ」
(とりあえずここは時間を稼ぐしかないわね!)
そう判断し、適当に誤魔化すことにする。
なにかを誤魔化す時は堂々とした方が疑われないので、ここは堂々と『迷子』だと言うことにした。
「私はコリアンヌ! お察しの通り迷子よ!!(キリッ) ……あぁ困ったわぁ~(チラッチラッ)」
「あまり困ってはなさそうだが……案内が必要?」
「お願いします!」
過去だけど過去でないなら、私が学校関係者じゃなくても問題はない。その証拠に邸宅での警備に私は引っ掛からなかった。
その代わりレナが排除しようと思えば、なんらかの形で排除されてしまうだろう。
(……きっとダンジョンのミッションの為に、この世界は動いている)
こうしてコンタクトを取れたということは、外部的な干渉は可能なのだ。……どこまでかはわからないが。
そこまで考えられたものの、結果は無惨に終わる。
「悪いがこれから決闘でね。 事務局は──」
「ヒィッ?! いいじゃない決闘なんて!!」
「生憎だが……相手が来たようだ」
私は世界から少し排除されたようで、離れたところに追いやられた。
そして決闘は開始される。
決闘の相手は知らない人だが、立会人は……ヒューゴー様。
敗けたレイにヒューゴー様は冷たい視線を向け、言った。
「レイ、騎士ごっこは終わりだ。 君は弱い」
「……ッ!!」
酷──────!!!!
そんなこと言わなくてもイイじゃない!!
と、言ってやろうとしたらまた空間グチャ~の餌食に。
「アァ~レェェ~!?」
そして次のシーンは商会の前だった。
「レイ!」
すかさず走って声を掛ける。
「……君は?」
だが、レイは私がわからなかった。
どうやら次のシーンに、ここで作られた記憶は持ち越されないらしい。
「そんなことより……ここでなにしてるの?」
「いや……」
レイの手には、一旦握り潰してから戻したような、手紙っぽいもの。それを粗雑にポケットに突っ込む。
「あそこに用事なの? 行けばいいじゃない」
「……もう、帰るところだ。 では」
レイが商会の方向へ背を向けた途端、被せ気味に空間グチャ~。
オイ! 早いな!!?
その次はルルシェの婚約破棄後。
それを知ったレナ。……からの、空間グチャ~。
その次はルルシェの訃報。
それを知ったレナ。……からの、空間グチャ~。
更にその次はヒューゴー様が戦地に赴くことになった時。
それを知ったレナ。……からの、空間グチャ~。
(これ現在まで到達しちゃうんじゃない?!)
焦りだけが募る。
到達したらどうなるのかわからない。
しかしその次──
「え……?」
周りには、緑と花々。
賑やかな声の聞こえる方へ足を運ぶと、そこには貴族と思しき少年少女。
そしてそれに目を細めつつ、歓談を楽しむ淑女たち。
──最初に戻っている。
思えばレナがダンジョンに入ったのは、私より大分前な筈。
それを考えると、どうやらミッションクリアまでループしているに違いない。
(考える時間はできた……色々試してみるチャンスも)
母や私に関する記憶はない。
あるのはモンドワールに関連することばかり。
やはりこれは……辛かった記憶だろうか。
(辛さから抜け出せればいいのでは?)
そう思った私は、記憶の上書きを試みる。
だが幼女のレナ……テスラに声を掛け、『私と遊ぼう』と言おうとした途端──
「お前は誰だ!!」
「ひゃあっ?!」
前回出てこなかった、警備兵登場。
警備兵は私をテスラたんから遠ざけると、跡形もなく消えた。
どうやら多少の接触は可能でも、過去を塗り替えるような干渉はできないらしい。しようとすると、強制的に排除される模様。
(ここで私がレナにできることってなんだろう……)
始まりはいつも、終わりの直前。
なんとか接触はできてもすぐ、終わる契機となる出来事が開始してしまうのだ。
気を逸らすつもりで暴露をしてみても、相手にされないか強制排除の二択。
しかも記憶は持ち越されない。
ただ悩んで見ているだけのまま、二巡目は過ぎようとしていた。




