ダンジョン地下一階最奥
足下が崩れて暗転。変な感覚が身体を包む──次の瞬間、
「──ぷぎゃっ?!」
尻を打った。……なんかデジャヴ!
だが私の尻はレナに(以下略)!
こんなの(以下略)!!
長く入り組んだ、トンネルみたいな空間。
(ここがダンジョンかぁ……)
我等が『神殿大好き♡』賢者様は、前世で言うところの『自宅警備員』とは訳が違う。
本当にそれが仕事であり、また、趣味でもある様子。
前世での私のファンタジー知識は大してない。或いは忘れたか。そして残ったファンタジー知識は、大分偏っている。
賢者様に師事するようになり、この国でダンジョンと呼ばれるものの定義を教わったが、ここは定義から逸脱しているらしい。
ダンジョンの定義は
①魔物が住んでいる閉鎖的空間
②法則性をもっている
③不定期で出現・消滅
の三つの条件がそろったものだそう。
あとは大体謎。
ダンジョンが見つかると、通常この国では神官が入口を封鎖するという。
この廃神殿は建国時からあったらしく、①と②には該当するが、③には該当しない。
しかもダンジョンの影響か、森がダンジョンを維持しているのかは謎だが……前にも語ったように森自体もおかしい。
建国にあたり森をどうにかしなければならなかったが、ダンジョンの入口を封鎖することはどうしても出来なかった。
その管理をかって出たのが賢者様。
彼はダンジョンと森の管理はしているものの、この国に属している訳ではない。
森は一応この国の領土ということにはなっているが賢者様がいる限り名目上に過ぎず、この森やダンジョンを政治的に利用することはできないのだ。ただ平和は保たれる。一応。
賢者様は管理費という名のお小遣いを国に与えられながら、悠々自適に過ごしているのである。
ちなみに──年齢的に当時の賢者様が今の賢者様な筈がないとは思うが、そのへんも謎に包まれている。
賢者様、怖い。
余談だがダンジョンの管理は国によってまちまちで、冒険者という職業がある国ではダンジョンは冒険者ギルドによって管理され、外に出た魔物を退治しているとか。
ちなみに、この国には『冒険者』という職業はない。冒険者がいたらそれは他国認定の人か『自称冒険者』である。
(…………ん?)
今……なんか引っかかった。
(ま、いいや)
小骨が刺さったようななにかを無視して、私はレナを探すことにした。
『危険なわけじゃない』という言葉は嘘じゃないらしく、なんにも出ない。ダンジョン内は入り組んではいるが、なにもでないので行ったり来たりするだけ。
行き止まりや扉は沢山あったが、やがて辿り着いたのは明らかに今までとは違う、重厚で装飾華美な観音開きの扉。おそらく、これが階層最奥の部屋だろう。
(なんにも出ないまま、最後の扉まで着いてしまった……)
賢者様はこのダンジョンを弄っている。
どうやってだかはわからないが。
地下一階も当然弄ってあり、特別仕様なのだろう。
開けたら何が出てくるかはわからないし、レナがなんの為にここに来たかもわからないが……開ける以外の選択肢などないので、開ける。
「よっ……──うわっ……?!」
暗闇に包まれ視界ゼロの部屋に足を踏み入れた途端、賢者様に強制転移をされた時のように足下が崩れる感覚。
次に、白。
視界が急に開けた。
「──………………ここは」
周りには、緑と花々。
賑やかな声の聞こえる方へ足を運ぶと、そこには貴族と思しき少年少女。
そしてそれに目を細めつつ、歓談を楽しむ淑女たち。
どうやらどこかの邸宅の、茶会のようだ。
(?? どういうことぉ~?)
それはわかったが、なんでここにいるのかがわからん。
ダンジョン内だとして、ここでなにをすればいいんだ。
「……なにしてるの?」
「おわっ?!」
声を掛けられて振り向くと、そこには幼女が立っていた。
「えっと……こんにちは?」
「……こんにちは」
訝しげではあるが、幼女は挨拶を返してきた。
華やかなドレスに身を包んでいることから、おそらくは茶会に参加している誰ぞの子供だと思われる。……だが、ひとりだ。
ひとりで助かったけど。
なにを隠そう、私は不法侵入者にほかならない。
(でも警備ガバガバだな……)
私がヤベーやつなら、このお子様は今大変なピンチだぞ?
そんなことを思いながら、とりあえず子供に話し掛ける。
ここがどことか、知りたいが……既に警戒している模様。
人を呼ばれては困るので、あたりさわりのない話から入ってみる。
「ひとり? むこうの子達には交ざらないの?」
そう尋ねると、幼女はふるふると首を横に振った。
「交ざらないわ。 仲良くしちゃダメなの」
「? なんで?」
「わからないわ。 でもダメなの」
チラッと子供達のいる方を見ると、幼女より少し歳上の少年少女が歩いていた。
……年の差が気になるのだろうか。
「お兄さんお姉さん、優しそうじゃない。 意地悪されちゃいそう?」
「……ダメなの!」
幼女が苛立つ──と、ぐにゃりと空間が歪んだ。
「──ええっ!?」
「ダメなの!」
幼女を中心に歪んだ空間は、外側が黒い布を真ん中から引っ張っていくように、徐々に小さくなりながら暗転していく。
再び視界はゼロ。
次に視界がひらけた私の目に入ったのは、少女といえるくらいに育った先程の幼女だった。そして、やはり育っている少年と少女。
その少年の面影に……私は今の状況を少しだけ理解することができた。
(あれ……ヒューゴー様だ!!)
まだあどけなさの残る少年のヒューゴー様に、少女に成長した幼女は話し掛けられていた。
幼女の時はいまひとつわからなかったが、地味なドレスにひっつめ髪の少女に成長した彼女を見て、予想が裏付けられる気がした。
あれは、過去のレナだ。
「……やめてください」
「どうして? あれは確かに俺からとはなっているが、ルルシェからだ。 君もわかっているだろう」
「私には不要なものです」
「だが…………」
やり取りの意味はよくわからず、割って入るのも無理な雰囲気。
少し離れたところでただそれを見てる間に、また空間がグチャっとなった。
(状況を考える間がないぃ!!)
──ザザッ……!
突風。そして、その音。
(草の匂い)
先程の暗闇が嘘のように眩しい位の光。
突風はゆっくりと柔らかなものに変わり、巻き込まれて千切れた葉っぱがひらひらと舞いながら落ちる。
「──誰……?」
緑色に紗がかかった空間の先から、聞き慣れた、少しハスキーな声。
「レナ!!」
それを目指して駆け出すと、靄が晴れるように風景がハッキリと拡がりを見せる。
だが──駆けた先にいたのは、私の知っているレナでは無い。予想はできた筈だが、完全に声にやられた。
「…………」
「…………」
成長著しい私より、少しだけ小さいレナより更に小さい、少年の様な……レナ。
互いに瞠目し、無言のまま対峙した。
「──もしかして、『レイ』?」
少しだけ歩み寄りながら先に質問を投げた私に、『男装の麗人』というより『あどけない美少年』みたいな相手は、訝しげな表情で言った。
「いかにも僕はレイだが……騎士科の編入生か? 見たことがない。 ……制服はまだ?」
あたりを見回すと……学園のどこかのようだ。
これから入学する予定の学舎が、少し離れたところに見える。
(ここはもしかして……過去の世界!?)
──馬鹿な。
タイムスリップでもしたというのだろうか。
──いやいやいやいや!!
──姉御!しっかりするでやんす!
──ここはダンジョンでやんす!!
「──はっ!? そうよね皆!!」
「皆?」
「いやこっちの話」
(脳内舎弟達がのツッコミのおかげで助かったぜ……に、しても)
賢者様が無茶苦茶チートくさいのは認めるが、時空を操作するなんて聞いたことがない。
『危険なわけじゃない』とはいえ、ここはダンジョンである。敵がいないにしても、なにかをクリアしなければならない筈だ。
最後の扉を開けたら、罠が発動したのだろう。
──物理的危険のない、罠が。
(精神感応系の魔術が発動されていると考えるのが妥当)
場所は学園の『どこか』。
目の前にいるのは『レイ』。
どちらも私は見たことがない。
(だとしたら、ここはおそらく)
先に入った、『レナの脳内の世界』だ。
前回の『チョロ助イーサン略してチョロイン』は
ネオ・ブリザード様の感想から使わせて頂きました!
↓ネオ・ブリザード様マイページはこちら↓
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ネオブリさん、ありがとうございます!
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