迎えに行く
罠がない。
びっくりする程、罠がない。
朝の罠で使い切っちゃったんじゃないかなって思うほどに。
その代わりにずっと着かない。
歩けど歩けど着かない。
「……ッ賢者様ァァァ!!!!」
私はキレることにした。このままではラチがあかん。──ぶちギレお呼び出しである。
「出てこいやオルァ!! ……かふっ」
「うわっ……」
怒鳴りすぎて吐血すると、イーサンがちょっと引いた。
「これを使えコリアンヌ。 こんなこともあろうかと、お前の為に刺繍しておいた」
「おお……気が利くじゃない……」
イーサンの増していく女子力に、私の方も若干引きつつ……曰く『私の為に刺繍した』というハンカチを受け取る。
「…………なにこれ」
ハンカチに描かれた、斬新な刺繍の図案。
──赤い糸で描かれた、血飛沫である。
「どうだ? これなら血が目立つまい(ドヤァ)」
「ウワーウレシイナー(棒)」
とりあえず褒めると、チョロ助イーサンは「お前の吐血を思い浮かべて、ひと針ひと針丁寧に、夜なべして刺したんだ」等と、情報を明らかに盛りつつ恩を着せてくる。
──面倒臭ッ!!
クソっ!……チョロイン(※チョロ助イーサンの略)を舐めていた!
しかし、そのお陰か奴が出てきた。
「…………お前らァァァァッ!!」
怒号と共に猛る稲妻の如く、一直線に天から地上へ突き刺さる青く鋭い光……それはまさに閃光
──みたいな感じで現れた、賢者様。
「俺の森にリア(充)臭を撒き散らすんじゃねぇッ!」
「「リア臭」」
ふたりの距離が離れるように、しっかりと間に降ってくるあたりが素晴らしい。
信頼の技術と変わらない心を常に感じさせてくれる、流石我等が賢者様である。
「レナは?」
「いるけどいないよ。 地下」
「地下……? ……──ッ!」
地下って……ダンジョンじゃん!!
「ななななんでェェェ?!?!」
「え、行きたいって言ったから」
「止めてよそこは!!!!」
「行く? ヒューゴーは行ったけど。 ただしあいつリア臭がムカつくから、地下10階からの逆順で」
「……はァァ?!!」
イミフ。
一時期趣味でダンジョンをカスタマイズしていた賢者様は、地下20階まで階層毎に転移陣を設けたそうだ。
『リセットモード(セーブデータから)』っていうノリらしい。
「でも同じ作業って飽きるじゃん? だから10階までは『リセット逆順モード』を更に加えてみたわけ」
10階までのリセットモードは、階層密室。
ボス部屋まで行きボスを倒すと、至11階層、至09階層の両扉が開く仕様。ただし、ボスを倒すと前階層の転移陣(前階層スタート位置)に強制転移される。
決して進めないが、戻る為にボスを倒す必要があるという、嫌がらせ仕様。
「なんでそんなモンを?!」
「そりゃ~客人をもてなす為よ」
「ああ……(納得)」
つまり、ダンジョン報酬狙いでやってくる不届き者でそこそこ力のある冒険者とかを、自分の力量以上の階層に放り込むのだ。
ある程度懲らしめてから、助ける。
賢者様曰く、『とても手軽であり、賢者様側に優しいおもてなし』だそう。
鬼か。……あっ鬼だったわ、そういや。
「で、行くの?」
「行くよ!! レナが心配だもんッ!」
「はは。 じゃあついてきなよ」
賢者様はちょっと笑うと、気付かないうちに少し先にいた。
追い掛けて走り出そうとする私の腕を、何故かイーサンが掴む。
「なによ?!」
「冷静になれ馬鹿。 賢者様は大分アレだが意外といい人だぞ? 侍女殿を危険な目にあわすとは思えない。 もう少し話を聞くべきだ」
さり気に賢者様をディスりながらイーサンはそう言った。
「大体……うっ?!」
「イーサンは賢いなぁ~!!」
「あばばばばばば」
まだイーサンはなにかを言おうとしたが、いつの間にかこちらにいた賢者様に超高速で頭を撫でられ、言葉が聞き取れない。
「コリアンヌ……イーサンの言った通り俺は滅茶苦茶いいやつだぞ! 地下01階層って危険なわけじゃないから、色々聞きながら待ってることもできるけど? まだお前の知らないことは沢山ある」
さり気にディスったイーサンの言葉。その言葉の自分を褒めた部分を抽出し、これまたさり気に盛った賢者様のお誘い──
「いえ、話はもう結構」
──を、断る。
「話ならレナから聞くし、レナに話すし、なにもなくても危険でも迎えにいくわ!」
その為に来たのだ。選択肢など必要ない。
「賢者様、お願いしま……おわっ?!」
お願い途中で足下が崩れた。
どうやら賢者様が早速ダンジョン地下一階まで転移させてくれたらしい。
感謝はしているが……
できれば一言声掛けてくんないかな?!




