更に拗らせてしまった
「エ────!?」
「ふたりは本当に恋愛関係にあったそうだ。 姉妹仲は良かったというから、侍女殿もおそらく勘付くぐらいはしていただろう」
そもそも、全ての情報の出処は隣国側のバルドラだったようだ。
バルドラは元々、隣国のいざこざに他国を巻き込むこと自体をよしとしていなかった。 諜報として自ら志願したのも、上手くやり過ごすことが目的だったらしい。
「そこにきて、好きな女もできた」
「ヒューゴー様は計画を持ち掛けられたのね……」
「勿論卿だけじゃない」
「王太子様か……」
王太子様は当時から有能と評判で、学園の統括から国政の一部と色々任されていたと聞く。
ヒューゴー様に彼の方の話を聞いたことがあるが、賢者様を語る時のような目で一言『冷徹』と言っていた。……不敬じゃないのかな?
不敬かどうかはともかくとして……王太子様絡みなら、情に流された結果ではないようだ。
わかることだけ言うなら、隣国には貸しを作っているのも事実。
どこまでを予測して、なにが予定外だったかはわからないが……公的にはヒューゴー様が討ったことになっているバルドラも、おそらく生きている。多分、ルルシェと共に。
「卿は、侍女殿にも幸せになってほしいと願っている。 ……真実を告げるには、幾つか聞き苦しい事実もあるのだろう。 生きているという事実だけ抜き出せば『何故話さないのか』と思うが、きっと全てが円滑で、円満に収まったわけではない」
母の言った通り、語られた事象が事実だとしても一方向の事実……イーサンの言うことも、そういうことだ。
「それに俺からみた限り、侍女殿が今不幸だとは思えない。 ……卿もそうだろう。 それが過去に折り合いを付けて得た結果だという可能性は消せない」
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【再び・イーサン視点】
幸せになってほしいが、卿はイアン殿から届く侍女殿への縁談に、ヤキモキしていたらしい。
野暮なことに、俺はご本人に尋ねてしまった。
「それは……どういう?」
「…………イーサン卿。 今までの俺の悩みなんか『黙ってればいいことだ』。 そうは思わなかったか?」
「ん? ……ああ、確かにそうですね。 言われてみれば──……あっ(察し)」
そこで俺はようやく、ヒューゴー卿の気持ちを知った。
ため息を吐いたあと上げた卿の顔は、今まで見たことのない、情けない笑顔だった。
「俺もそのつもりだったさ」
昨夜コリアンヌが寝ると、仕事終わりの侍女殿を呼び出しその釣書の束を渡したそうだ。
だが侍女殿は『適当に捨ててくれ』と言ったようだが。
もうすぐふたりはリヴォニアに帰るだろ?
だから卿はもう少しだけ侍女殿と会話をしたくて、どうでもいいようないちゃもんをつけたりして、引き延ばした。
呼び出したのも話したかったから。
……ただ、それだけのつもりだったらしい。
「暫くいつものような口論を含めた、他愛ないやりとりが続いたが……彼女は言うに事欠いて『お嬢様を娶る気はあるか』と聞いてきたんだ」
「あー……うぅぅんと、それは……信頼の証なのでは?」
「ああ、後で聞いたらそうだったよ。 だが、その時は物凄く頭にきたんだ。 ……君も誰かを好きになればわかる。 それに確かにコリアンヌは可愛いが、妹どころか娘でもおかしくない歳だぞ? 有り得ない」
…………コリアンヌ、その顔やめろ。
色々複雑なのはわからんでもないが……まあ、あれだ。ヒューゴー卿は鈍感なんだ。お前のせいじゃない……色んな意味で。
まあ、それで卿は頭に血が上って……
「気持ちをぶつけてしまった。 言える範囲でだが、声を荒らげて……『俺には伝えられなくとも、生涯想い続ける相手がいる』と。 彼女は一瞬だけ瞠目し『伝えられない相手など、いないも同然です』といつもの調子で答えた。 勿論、『分を弁えなかった』といつもの様にシレッと謝罪を添えて」
それで侍女殿は話を打ち切り、退出しようとした。
だが、卿は腕を取った。
「すぐに我に返って手を緩め、謝った。 離しはしなかったが。 彼女もなにかを察したようで、今度は小さな声で謝罪した。 そこで『少しだけ、酒に付き合って欲しい』と」
「酒に……ですか」
「疚しい気持ちで誘ったわけじゃない。知っているだろう、彼女は酒豪だ。 酒が入ったら、過去のことを少し聞き出せると思ったんだ」
目論見通り、過去にまつわる話には持ち込めたが、互いに探り探りだったせいで、内容は浅いところを行きつ戻りつ。
酒の量だけが物凄いことになっていったらしい。
「──結果、ふたりとも潰れた。 寒さで目を覚ますとソファで彼女が寝ていて……ベッドに運んだ。 言い訳にはなるが、その時はまだ酔っていて『風邪引いたらまずい』ぐらいしか考えてない。 実際俺もまた寝た」
「それ……どこまで信じたらいいんですか」
「イーサン卿……気持ちはわかるが嘘じゃない。 なにもしていないし、運ぶ時以外、指一本触れてすらいない。 …………ただ」
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そこまで語るとイーサンは俯き、額に掌を当てて黙ってしまった。やらかしてないと信じてもらうために、色々ぶっちゃけたっぽい。
ヒューゴー様……
な に を し た ん だ 。(※まるで信じてない)
「ヒューゴー卿の名誉の為に……内容は言えないが、ヒューゴー卿の名誉の為に言っておくと……」
「なんかよくわかんないけど、なによ」
「侍女殿には寝かせた以外、指一本触れてはいないが……そうと勘違いできてしまう状況下にあったようだ」
「??」
ベッドに一緒に寝てれば、そりゃそうなんじゃないのか……と思ったが、どうもそれだけじゃないらしい。
指一本触れてないってことは、服も乱れてな……いや、レナが暑くて自分で脱いだとか?
或いはヒューゴー様が脱いだとか。
(寝る時裸の人とか、いるらしいしなぁ)
「だからその……そういうことがあった、と勘違いした侍女殿は……お前に後ろめたくて咄嗟に逃げてしまったのではないか、と」
「まあ、大体わかった。 ただ、私に対することは別にいいんだけど……」
「…………なんだ?」
気になったのは、ヒューゴー様が相手を伏せて気持ちを吐露したこと。
『俺には伝えられなくとも、生涯想い続ける相手がいる』
──これだ。
「……レナ、これを誤解してると思う。 絶対」
絶対姉だと思っている。
だからこそ、レナも誘いに応じたのだ。
姉の恋愛を知り、計画は知らないレナが、未だに結婚しないヒューゴー様に感じていた、身内としての罪悪感はどれくらいあったのだろうか。
しかも、更に私に対しての罪悪感を抱えさせてしまった。
「──急ごう」
「ああ」
早くふたりと会わねばならない。
臆病で優しいふたりのために、全部をバラしてやるのだ。




