託されたもの①
「……どういうこと?」
「私もわからなかったのよね。 なんで『レイ』の死体をわざわざ作ったのに、『テスラ』が存在するのか。 私は不要と判断してそのまま放置しといたの。 レナが知ることもないと思ったし」
『テスラ』が必要になったモンドワール子爵家は、『レイ』が死んだと知って代役を立てたのだ。
『テスラ』は隣国の貿易商へと嫁いでいる。
随分と歳の離れた男で……代役であることや『隣国』だということを考えても、マトモな婚姻でないことが窺い知れる。
それを裏付けるように、『戦時下での死亡』。
子爵家と隣国の繋がりの為に利用される役は、本来ルルシェではなく『テスラ』だったのだ。
ルルシェの役目は本国との繋がりで、『テスラ』の役目が隣国。
相手がバルドラの家でないのは、せめてもの目くらましのつもりだろうか。……いや、既にそのとき子爵家は本国との繋がりを無くしていた。逃亡の手段としての婚姻かもしれない。
逃げの一手の駒としてか、繋ぎの駒かはわからないが、『テスラ』は子爵家の駒として必要な存在だったのだ。
「ヒューゴー卿は、なにをどこまで知っているのかしら? そしてレナがどこまで知っていると思っているのかしらね?」
「え……?」
母がなにを言いたいのか、私にはわからない。
ただ、母はレナの失踪理由に思い当たる節があるようだ。
「ふふ、これは資料。 貴女への用事はコレよ♡」
雰囲気をぶち壊して楽しそうに笑うと、手に持っていたもうひとつの封書を渡す。
「これをレナに渡すかどうか……コリアンヌ、貴女が決めなさい。 イアンから預かっていたのだけれど、貴女が決めるべきだわ」
「これは……」
それは──リヴォニア家とレナの、養子縁組の書類。
レナのサイン欄のみ空白の。
「……なんで? 私は」
反対なんかしない。
『私にとっては姉』という言葉に嘘はない。
でもそれも含めて正直なところ、突然のことに混乱はしている。
何故託されたのか。何故今なのか。
混乱の中、思いついたのはこれだ。
「──これが、レナの悩みなの?」
しかし、母は否定も肯定もしない。
私の入れたお茶を一口だけ飲むと、濡れた唇がゆっくり開く。
「誰かから聞いた話なんて、一方向に過ぎない。 大事なのは、自分がなにを見て、なにを信じ、どう動くか。 貴女はレナのことが知りたかった……そうじゃなくて? コリー」
「……ええ」
まだ戸惑い気味の私に、母は調子を変えることなく続ける。
「じゃあ私は、その根幹にあるものを信じるわ。 今のレナのことは、私より貴女の方が知ってる筈よ」
「私の方が……」
「コリー、さっき言ったでしょ? 私は『ルルシェ・モンドワールのことも、ヒューゴー卿のことも知らない』って。 私は私の必要なことしか知らないし、知ろうとしなかったわ……でもね」
そこまで言うと、指を立てて不敵に弧を描く唇に触れる。
「貴女の話を聞いて、ひとつわかった気がするのよ?」
そう言って、悪戯っぽく片目を瞑った。




