名探偵登場
「レナがいなくなった?!」
「そうなんです……荷物も残したまま」
ヒューゴー様の代わりに執事のダスティンさんが答える。ヒューゴー様はレナが私といないとわかるや否や、慌ててどこかに行ってしまった。
(絶対なにか知っている……)
──刑事の勘が告げている!
──奴は黒だと告げている!
──行け!コリアンヌ!!犯人を挙げるのだ!!
久々に現れし脳内刑事が私に指示を飛ばす。
だが、ヒューゴー様が犯人は行きすぎだ……と私の勘っていうか、冷静な部分がツッコんだ。精々重要参考人レベルだろう。
こういうのは冷静さが物を言うのよ!
この事件は『実年齢+α』……そう、
『身体は子供! 頭脳は大人! 心は乙女!!』※作注参照
でお馴染み(嘘)の、名探偵コリアンヌが解決に導くわ!!
冷静な名探偵である私は、まず執事のダスティンさんに話を聞くことにした。
勿論ホットミルクの注文も忘れない。
「──旦那様とレナ様は、昨晩少し口論になりまして……」
「フムフム、どういう内容で?」
「最初は些細な……コリアンヌお嬢様のメニューについて、とか」
「あら……いつものじゃない」
そう、松〇修造化したヒューゴー様とレナの些細な口論など日常茶飯事である。
レナはある程度までは言うが、分を弁えているので引くのも上手い。
……つまり、それが原因じゃない。
しかし「そこからどんな話に発展したのか」と尋ねると、ダスティンさんは困った顔をしてしまった。
「私からはなにもお答えできません」
「そっか……そうよねぇ~。 じゃあ、ヒューゴー様はどこに行ったのかしら?」
「おそらく自警団の方ではないかと……」
皆に探させるつもりだろうか。
「お嬢様は意外と焦ってらっしゃらないんですね?」
「う~ん、ヒューゴー様が焦ってたから……自分より焦っている人を見ると冷静になるのは何故なのかしら? ……レナは徒歩なのよね?」
「馬は確認しましたが、揃っておりました」
正直なところ、レナが書き置きもなくいなくなるとは思えない。しかもこんな雪の中、身一つで出るなんて自殺行為だ。
私の知るレナは、そんな無計画な真似をする女性ではない。
むしろそういう馬鹿をした私の尻を、叩く側──
とはいえ、彼女がクールに見えて実は行動的なのも知っている。イーサン失踪時に、馬に飛び乗って自警団に行ったように。
それに、レナだって人間だ。時に冷静さを欠くこともあるだろう。衝動で動くようなこともあるかもしれない。
(でも、勢いで飛び出したとして、戻らないとは思えないわ)
レナは責任感の強い人間だ。
少なくとも私に書き置きを残す筈。それをしていないのだから、仮に出ていくと決めたとしても一旦は戻るに違いない。
なので今の時点では『レナの行動』に対しての心配はあまりしなくていいように思う。
時間が経ってもレナが戻らない場合……それを心配すべきだろう。
高確率で、『戻れない事情ができた』か『戻れない状況にある』と考えていいからだ。
いずれも突発的な。
「……念の為、実家に連絡を入れてみようかな。 ウチから連絡はきてないよね?」
「ええ」
レナの雇い主は両親だ。
私に書き置きを残さなくても、向こうに連絡している可能性はある。
「あっ……ヒューゴー様は神殿に行ったのかも!」
神殿には魔法陣があり、速達の郵便物や緊急時の人や物の転移を行う事ができる。また、ビデオ通話よろしくリアルタイムでの交信も可能。
ただしいずれも、金額はバカっ高い。
(う~ん、金額もそうだけど、レナがいきなり実家に戻るとは考え難い気がする……)
だが鍵は両親……特に母が握っている。
レナを拾ったのは母のようなので、おそらくなんらかの事情は知っていると思われる。
(神殿で連絡を取りたいところだけれど、ヒューゴー様がいたらできないしなぁ)
そもそもヒューゴー様とレナ、ふたりの関係が怪しい。
(まさか……『忘れられない女性』ってレナのこと?!)
可能性としてはある。
考えてみれば、以前レナの見合いの話で険悪になったこととも符合する。
ただ、ここに来て3年……既にいい大人なふたりだが、なにかあったという気配はない。
(いやいやその『なにか』が昨夜だとしたら……)
慌てふためくヒューゴー様。
いつも冷静なレナの衝動的と考えられる謎の失踪。
有 り 得 る !!
(これは……確かめなければならないわ!)
──神殿には行けない。ならば選択肢はふたつ!
①イーサンに頼んでシュヴァリエ領の神殿へ。
②賢者様に頼む。
まずは迷わず②を選択する。
賢者様のところへ行けば、用事がない限りイーサンはいるのだ。
むしろ賢者様がいないパターンの方が考えられる。あの人はイキナリどっか行ってたりするから。それこそ書き置きだけ残して。
それを思い出し「なんていい加減なんだ!」とムカついてきたが、今はどうでもいい。
(つーかイーサンも、もしかしたらなんか知ってるんじゃないの?)
そういえば『忘れられない女性』の話をしたとき、どことなく歯切れが悪い感じだったことを思い出す。
──よし、コリアンヌ!まずはイーサンからだ!!
──カツ丼でも振舞ってやれ!
──『田舎でお母さんが泣いてるぞ……』の一言で揺さぶりをかけるんだ!
脳内刑事が次なる指示を出す。
わかっているわ、皆!
『吐かせのコリアンヌ』の異名……知らしめてやるわ!
熱い決意と刑事魂を胸に、雪の降る中、私は森へと馬を走らせた。お供はセルヴァの弟分である『実直なる茶白』、ハンク。
そして、走りながら思った。
……でもカツ丼ってなにかしら!?
なんだか美味しそうね!
私も食べたいわ!!
今日の朝食は、ホットミルクとサンドイッチ。
食べたばかりだが、まだまだ私のお腹には空き容量が沢山。
コリアンヌ・リヴォニア。もうすぐ13歳。
絶賛育ち盛りである。
『身体は子供! 頭脳は大人!心は乙女!!』
※作注
コリアンヌは『実年齢+α』という点では確かに大人と言えなくもないですが、その実、前世では病弱な為あらゆる経験が薄く前世の記憶も胡乱なので、経験値にはなっていないと思われます。
『頭脳は大人!』はあくまでもコリアンヌ的見解です。
言わずもがな、『身体は子供! 頭脳は大人!心は乙女!!』は『名探偵コ』まで一緒の超有名漫画から。
『心は乙女!』は余計な一言です。
そして最終的に名探偵はどっか行った。




