一に健康、二に健康!
間違いなく私はコリアンヌ・リヴォニアで、この世界に生きてはいる。
だがゲームの設定と諸々が丸被りであることもまた、間違いないのである。
その記憶が胡乱であることや、『この世界が本当に乙女ゲームかどうか』など、さしたる問題では無い。
問題なのは『設定的に、このままいけば近い未来に似たようなことが起こり得る』ということ。
ただ、問題である筈の『乙女ゲームのフラグ云々』に関して言えば、私にはどうでもいいことだったりする。
『ヒロインだから(悪役令嬢じゃないから)』とか、そんな理由じゃなく。
重要なのはそんなことではない。
重要なのは……
私がこの世界に生きており、前世を思い出したこと自体だ!
『享年16、病弱(友達ナシ)』の前世。
『病弱でお外に出れない(友達ナシ)』の現世。
まず、重要なのはここ。
健康になりたい。
とにかく健康になりたい。
あと友達欲しい。
青空の下、野原を駆け回ったり、
乗馬を楽しんだり、
スキップしたり……
(……したい!)
め っ ち ゃ し た い !!(切実)
なにしろ今の私はスキップするだけで倒れるのである。
ちなみに全力で熱唱すると血を吐く。
血ぃ吐きすぎよね、コリアンヌ!
──そりゃ読書と勉強くらいしかできませんって、奥様!!
──しかも周りには大人しかいないんですのよ?!
──友達なんてできるわけがないですわよね?! 奥様!!
そう脳内奥様に現状の辛さを嘆き訴える。
友人のいない私は、代わりに脳内にお友達を作るしかできないのだ。
そんな私にとって、恋愛フラグという意味での『乙女ゲームの内容や設定』など今はどうでもいいが、それでもひとつだけ大事なことがある。
──それはコレ。
(『乙女ゲームと同じ』なら、病気の対処法が同じかもしれない!!)
乙女ゲームのコリアンヌの病気は、ゲーム進行により明らかになる。それまでは医者に見せてもわからないまま。
それもそのはず、病気であって病気に非ず。
医者に見せても当然わからない。
今の私の状況と一緒。
──コリアンヌの体調不良は、魔力の多さ故。
体内に流れる魔力に対し、コリアンヌの身体は器として不完全であり、そのキャパシティを超えていること。それが原因だ。
魔力持ちは通常、魔力を取り込み放出する。
それを無意識で行ったり、筋力等の代わりにエネルギー変換することなどで、上手く消費している。
だがコリアンヌの身体は、魔力が多すぎて上手くそれが出来ない。内に溜め込むだけなのだ。
その為オーバーヒートを起こし、冷却に力を使う。
更に魔素の強い王都の空気が良くない。
身体の弱さをカバーしようと、魔素を取り込み魔力に変えようと働く力が余計に身体の自由を奪う……という、悪循環を起こしているのだ。
──そこまで思い出した私、偉い。(ドヤァ)
私はベッドから起き上がると、サイドテーブルの鈴を鳴らした。
やってきたのはレナ。
「お嬢様、お身体はもうよろしいのですか」
「ええ、いつも通り。 近くにいたのがレナじゃなかったから、叫ばれちゃっただけよ」
レナはクールビューティで有能な、私の侍女である。
正直言うと、優しいお姉さんみたいな侍女が欲しかったのだが、私を愛するが故の父の気使いでわざわざ真逆のタイプの侍女を選んでつけてくれた。
私の対人スキルを慮っての結果らしい。
いつも傍にいて面倒を見てくれる彼女が、私の性格形成に前世や『乙女ゲーム』なんかよりも大きく影響を及ぼしているのは言うまでもない。
「お父様の今日のご予定は?」
「旦那様は夕方帰られます。 本日は夜、ハンコック様がいらっしゃる御予定です」
「ヒューゴー様が?!」
ヒューゴー・ハンコック様は、父の友人だ。
年齢は5つほど下だというが、ハンコック家は侯爵家。お家柄は男爵家のウチよりずっと上。
商家である我がリヴォニア家。
私が産まれる前に起こった隣国との戦争で活躍し、その功績から爵位を賜った。広い人脈から本国への侵略計画をいち早く察知し、つてを使って王への進言と物資の備えを行ったのだ。
そのつてとなったのが、当時まだ学生だったヒューゴー様。
ご学友の王太子殿下を通して、陛下にお伝えすることができたのである。
──それはそれとして。
(これは、僥倖……っ!!)
ヒューゴー様の登場予定に、私は歓喜した。
「ヒューゴー様がいらっしゃるのでは、おめかししなくてはね♪ レナ、なるべく淡い色のワンピースにして頂戴!」
「? なんだか楽しそうですね、お嬢様……」
「ええ!」
「……ハンコック様は苦手ではありませんでした?」
キビキビと用意を進めながらも、訝しげにレナはそう尋ねる。
今、私は確かにいつになく楽しい気分だ。
だがヒューゴー様が『前世の推しだから』とか、そんな理由ではない。
そもそも彼は攻略対象などではないし、ゲームに出てきたという記憶もない。覚えてないだけかもしれないが。
『乙女ゲーム』や『前世』の記憶が甦ったことによって、私の性格等は特になにも変わってはいない──ただそれは直接的な、現在の私への影響の話だ。
今後への影響は多大にある。
(甦った記憶から得た情報を使い、上手く動けば……)
それらは明らかに、私のこれからを変えるものなのだから!